「STEM教育」とは?【知っておきたい教育用語】

連載
【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】

教育分野で度々耳にするようになった新しい用語を、深く掘り下げて解説します。今回は「STEM教育」を取りあげます。

執筆/関西大学教授・小柳和喜雄
監修/筑波大学教授・浜田博文

みんなの教育用語

STEM教育はどのようにして始まったか

未知なる状況への対応力が求められるSociety5.0の時代、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(設計)、Mathematics(数学)の頭文字をとった「STEM(ステム)教育」に積極的に取り組むことが、世界の教育界の潮流になっています。

1990年代、アメリカで、理数科学の発展に寄与する人材育成を視野に、幼稚園から高校まで適切に教育するためのカリキュラムを作ろうと考え、その基準とガイドラインを作成する動きが起こりました。

2000年代初頭になると、いくつかのレポートで、科学、技術、設計、数学、いわゆるSTEMの分野に関するアメリカの学生の力は、他の国に遅れをとっていることが報告されます。世界をリードしていく国であるためには、アメリカはSTEM教育に力を入れる必要を感じ、学生の科学と数学の成績を世界のトップに引き上げるための計画に取り組みました。

このようなアメリカの取り組みや諸外国の科学技術教育の実践が報告されるようになり、わが国でも日本型STEM教育の充実をめざす取り組みがなされるようになりました。

STEM教育が目指している方向

文部科学省は、2002年度から学習指導要領で規定されている内容を越えて、先進的な理数科教育をすることが認められる学校としてスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の支援事業を始めました。これは、中等教育段階から体系的に先進的な理数教育の実践を通じて、生徒の科学的能力や科学的思考力を培い、将来のイノベーションを担う科学技術関係人材の育成を図ることなどを柱としています。

新しい学習指導要領が改訂される過程においても、中等教育では教科横断的な学び、探究的な学び、他者との協働を通じた価値創出の学び、問題解決に向けてプログラミング的思考を生かす学び、などが審議されてきました。STEM教育はそれらの「学び」と深く関係しています。

STEM教育における学びとして、①教科学習のなかでこれまで築かれてきた有益な学びを生かすこと、②教科と教科のつながりによって強まる学びに目を向けること、③教科学習とリアルな課題を結びつけ主体的に解決方法を作り出そうとすること、などを挙げることができます。

探究的な学習をさらに推進するために

STEM教育のカリキュラムは、複合的に科目を組み合わせて「21世紀のスキル」を児童生徒に育成すること、そして彼らが社会に出て成功していけるための必要なツール(コンピュータなどの道具)の使い方を教えることも含んでいます。

その特徴は、いくつかの分野を意図的に統合し、実践的な経験を促し、課題解決に必要な知識を獲得させ、探究的な活動を促すことにあります。そのために、教室でもその課題解決に適用できる知識やスキルなどを学ぶ機会を与えるということになります。

これまでも探究的な学びはいろいろ実践されてきました。問題解決を促すための手続き、学習環境における工夫など、STEM教育と一致する点は少なくありません。しかしSTEM教育では、「人材育成」「未来への投資」「21世紀型スキル」などが強調されている点がユニークです。

なぜ行うかを問いつつ実践

新しい学習指導要領では、学習の基盤として情報活用能力が位置づけられています。ロボットを教材として使ったり、プログラミングの教育が行われるようになっていますが、それとの関連でSTEM教育が取り上げられることが多くなっています。

STEM教育は、テクノロジーの導入を推進することから出発していますが、最近はSTEM教育にArt(芸術)とかArts(リベラルアーツ)を加えた、STEAM教育が話題になっています。

STEM教育においても、より「人間性」の教育に目を向けることに関心が向けられ、より広い視野から「人の幸せ」「持続可能性のある世界」「多文化共生」などについての表現活動を通じて考え、人々の暮らしに目を向けた課題解決に取り組むケースも増えてきつつあります。

文部科学省は現在、すべての学校で児童生徒に1人1台パソコンを持たせて学習させるなどの「GIGAスクール構想」を推進しています。このような学習環境を生かしながら、STEM教育やSTEAM教育を行う意味を絶えず問いながら、教育実践を進めていくことが大切であると考えられます。

▼参考文献
文部科学省「Society 5.0 に向けた人材育成 ~ 社会が変わる、学びが変わる ~」(2018年6月5日)
文部科学省「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)支援事業の今後の方向性等に関する有識者会議(報告書)」(2018年9月18日)
ヤング吉原麻理子、木島里江『世界を変えるSTEAM人材 シリコンバレー「デザイン思考」の核心』朝日新書、2019 年
小柳和喜雄「複合的な学習の課題設定と評価方法に関する事例研究 -総合的、探究的な学習の1つの事例としてSTEAM教育に目を向けて-」(奈良教育大学教職大学院「学校教育実践研究」12、2020年)

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