アルファベットの書き順は指導すべき?外国語学習指導のQ&A
本格的に始動した小学校での外国語学習。見取りの視点や興味・関心の引き出し方など、 教科書だけではわからないかもしれないポイントを、小学校外国語科検定教科書の編集委員でもある神奈川県公立小学校の長沼久美子先生に教えていただきます。
執筆/神奈川県公立小学校教諭・長沼久美子
目次
Q1 クラスの仲間に誕生日を聞いて、誕生日カレンダーを作るアクティビティ。時間内に子ども全員のやりとりを見とることができませんでした。何か工夫はありませんか?
(教育出版『ONE WORLD Smiles5』P.30)
A.少し発想を変えてみましょう。
誕生日を聞き合い、誕生日をメモする活動は、外国語活動の時から継続しているアクティビティです。
教師が会話の模範を示す → ペアで練習 → 近くの友達と練習(少人数) → クラス全体で自由に聞き合う、といった流れが多いのではないでしょうか。
ところで、クラス全体で自由に聞き合う活動での見とりは、同じような会話が、教室内のあちこちで同時開催されるわけですから、とても困難です。少し発想を変える必要があると思います。
誕生日を聞くアクティビティでは、‟When is your birthday?” のフレーズが使われます。この表現は、子どもが受容できれば良い表現。つまり、聞いて分かればよい表現です。全員が正確に質問できるようになるということは目的ではないので、必ずしも質問している姿を見とる必要はありません。
一方で、意味ある英語でのやり取りとして誕生日を聞き合うアクティビティを進めていくためには、「友達の誕生日を知ることができた」ことに価値を見いだすことが大切です。
「10人に質問できた!」といった結果ではなく、「Aさんは、June 12thと言っていたから6月12日生まれだ」とわかることに価値を置く。これによって、見とりの視点を絞り込むことができます。
これらを踏まえて、誕生日を聞き合うアクティビティで子どものやり取りを見とる工夫を考えてみましょう。
例えば、これまで通りですが、記録で見とる方法。「Aさんの誕生日=6月12日」のように子どもがやり取りを通して残した記録を見とることで、全員の状況を把握する方法です。しかしこれでは、実際のやり取りを見たとは言えません。
座席表等を使って、ペアの練習や少人数での練習で子どもの状況を見とり、見とれなかった子どもを絞り込む方法もあります。誰を見とれていないかをはっきりさせることで、自由に聞き合う活動で、見とる子どもを絞ります。
そこでも見とれなかった場合は、最後に代表として指名して、みんなの前でやってみてもらう。そうすれば、多くの子どもの活動を見とることができます。
先生が見とるべき姿は、質問できていること以上に、誕生日を聞き取れていることです。
質問の練習を10回等、何度も何度も呪文のように唱えて練習するのではなく、聞き取ることで「わかる」楽しさを価値づけていくのはいかがでしょうか。
Q2 アルファベットを書くアクティビティでは、書き順も意識した方がいいのでしょうか?
(啓林館『Blue Sky5』P.19)
A. 厳しく指導する必要はありません。
アルファベットの書き順には、正式な決まりがありません。小学校の教師をしていると、ひらがな、カタカナ、漢字、数字等、書き順に注意をして書く指導が体にしみ込んでいますよね。アルファベットにも正しい書き順があるように思ってしまいますが、教科書等では代表的なものを紹介しているだけです。
「示している書き順で書くと書きやすいよ」といった指導で十分です。
それでも、初めての学習者にとっては、書きやすい順で書くことができる書き順を教えてもらうことで学習が進めやすくなることは事実です。
そして、違った書き方も許容し、バツを付けることはせず、「それでもいいよ」として対応してみてはいかがでしょうか。
このアクティビティでは、大文字と小文字の形で、文字に対する興味・関心を引き付けています。
ただ、「同じものを探してみよう」と教師が投げかけてしまうと、主体性が損なわれてしまう可能性があります。
そこで、大文字と小文字52文字のアルファベット表を見せて、
何か気付くことはある?
と、聞いてみる。
子どもは、
大文字と小文字が同じものがある!
似ているのがある!
ぶら下がれそうなのがある
と、いろいろな気づきをすることでしょう。
その気づきを踏まえて、大文字と小文字が同じ形のものを探す等の活動に展開してみると、子どもの興味・関心に沿った授業になっていきます。
子どもは、大文字と小文字が同じ形なのは、
C,O,S,W,Xだ!
と、どんどん探していくことでしょう。そこで、
じゃあ書いてみる?
と、進めていけば、子どもにとっては、「文字のひみつを自分たちで見つけた!」として達成感が生まれ、書くことに主体性をもって取り組めるようになるでしょう。
Q3 Storyで紹介される長い英語の文章の扱いについて、注意点はありますか。
(三省堂『CROWN Jr.5』P.19)
A. 「途中で日本語に訳さない」ことです。
Storyで紹介されている物語のひとつに、「北風と太陽」があります。日本語で読んだことがある子どもや、知っているという子どもも多いのではないでしょうか。
内容をある程度理解している子どもにとっては、長い英語の文章であっても、次の展開を予測しながら聞くことができます。
しかし、全く知らない子にとっては、音声や文字だけを頼りに理解するのが難しい。
そのため、教科書のイラスト等(デジタル教科書で大きく提示する等の工夫もありです)で、場面の様子を想像できるように工夫することが必要です。
ところで、長い文章に出合う際に、一つ注意が必要です。
長いと聞き取れないかもしれない、と心配かもしれませんが、大事なのは「途中で日本語に訳さない」ことです。
英語の学習では、予測しながら聞くことが重要。日本語に訳してくれるとわかった瞬間、子どもにとって、英語で聞く必要がなくなるからです。長い文章でも、まとまったまま聞くようにしてください。
教科書のイラスト等で、場面の様子をイメージしながら、状況を予測する、次を予測する。繰り返し聞いていくうちに、場面の状況と合わせて理解ができるようになります。
もやもやする子どももいると思いますが、
どんな言葉が聞こえたかな?
この絵の場面では、どんなことになっていたかな?
と、相互のやり取りを繰り返して、徐々に場面を捉えられるように支援してみてください。やがて、
こういう状況ではこうやって言うんだ!
と、気づき始めます。
それがクラス全体で共有されるようになると、子ども同士、場面の状況を伝えようとする対話が生まれます。
長い英語の文章やそこで使われる新しい表現と出合った時でも、ぐっとこらえて状況を予測する習慣が身につくように声をかけてほしいです。
【質問募集!】
外国語授業について、教科書だけではわからない疑問などを受け付けています。質問がある方は、『みんなの教育技術』お問い合わせフォームまでご連絡ください。
※全ての質問にお答えできるわけではありません。予めご了承ください。
長沼久美子
神奈川県公立小学校教諭。小学校英語教科書CROWN Jr. 編集委員。
(イラスト/本山浩子)
イラスト/横井智美