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「子供を主語にした学びの実践」現場教師が語るこれからの授業デザイン(第3回)〈デジタル×深い学び〉

連載
「デジタル×深い学び」の授業デザインReport

東京都教育委員会が取り組む「デジタルを活用したこれからの学び(以下:これまな)」は、子供たち一人ひとりが主体的に学び、自らの力で未来を切り開いていけるように育てることをめざしています。今回、東京都教育庁が発信したデジタルブック『デジタルを活用したこれからの学び TOKYO LEARNING STYLE』にも登場された先生方の座談会を4回に分けてお届けしています。
前回の第2回では、「これまな」の授業で感じた手応えや子供たちの変化、さらに保護者の理解を得るための工夫を中心にお聞きしました。今回は「これまな」の授業実践を学校全体へ広める方法やその過程での苦労や工夫について語っていただきました(全4回)。

この記事は、連続企画『「デジタル×深い学び」の授業デザインReport』の17回目です。記事一覧はこちら

  • 座談会メンバー紹介

●東久留米市立本村小学校
副校長 池田 守 先生

昨年度まで教育庁で統括指導主事として、数多くの学校現場を支援。現在は副校長として、授業づくりの現場を支えている。

●台東区立上野小学校
倉澤貴文 先生(3年生担任)

研究主任として、児童の学びを広げるデジタル活用や授業デザインの工夫を発信。朝の活動にタイピングの時間を取り入れるなど、実践的な提案を行っている。

●西東京市立上向台小学校
戸原真彦 先生(2年生担任)

同小学校のめざす児童像「自立した学習者の育成」に向けて、研究主任として学校全体をけん引している。

東京都立三鷹中等教育学校
仁田勇介 先生(数学科・6年生[高校3年生]担任)

研究委員会の研究主任として、中高一貫教育の視点から中高教員への情報を発信している。1年生(中学一年生)と6年生の数学を担当。

教室から校内へ──「これまな」を広める工夫

「これまな」の取り入れ方は、学年や教科、単元、さらには校種によっても様々です。今回ご登場いただいた3人の先生は、それぞれ異なる考えや状況にある先生方に、どのように理解してもらい、ともに取り組んできたのでしょうか。

仁田先生三鷹中等には一斉授業がとても上手な先生がいて、すでに成果を上げている方もいらっしゃいます。そうした背景もあって、校長先生の方針は「校内への理解はゆっくり広めていこう」というものでした。一方で、私は「早く校内研修を行いたい」と思っていましたが、校長先生からは「まだ時期じゃない」と止められ……(笑)。実際に全体での校内研修が実施できたのは、今年になってからでした。今振り返ると、タイミングを見極めることも大切だと感じます。

学校全体の組織として研究委員会が立ち上がる前は、校長先生の呼びかけによって自主的に集まった研究プロジェクトチーム(研究PT)の形で授業研究を行っていました。参加者は若手が多く、他の業務の忙しさとかもあって、参加者が増えたり減ったりと安定した活動には苦労しました。

今年度から正式に研究委員会が立ち上がり、委員会が主体となって活動しています。それでも活動の輪を広げるには、まだまだ苦労しているのが正直なところです。

校内全体で育てる教員同士の学び

戸原先生:授業力や授業の質を高めるための取組そのものには、多くの先生が異論を唱えることはないんですよね。ただ、そのために新しい仕事が増えることには戸惑いや疑問があるようでした。これまでのやり方に慣れていると、新しい形に変えるには時間も手間もかかります。「え、変えるの?」という驚きや戸惑いは一定数ありました。それでも「やると決まったならやろう!」というスタンスで協力してくれるのが、上向台小の先生方のよさです。

1学期は、一斉指導を通して子供との関係づくりを優先するため、新年度からいきなり「これまな」の授業を導入することはできません。クラス替えもあり、実際にそうした授業が始まるのは5月頃です。「これまな」の授業は準備が整っていないとスムーズに進まないため、仕事が増えることへの違和感や戸惑いはあったと思います。

それでも、上向台小には高いクオリティの授業力をもつ先生が多く、取組が始まれば自然と全体が感化されていきます。私の感触としては、学年に1人程度は「やっていて楽しい!」と感じる先生がいて、その他にも若手で前向きな先生も多くいます。中には「仕事だからやる」と先生もいらっしゃいますが、多くの先生方が「みんなでやろう!」という方向にまとまっています。

倉澤先生上野小では、昨年は1~3年生を低学年、4~6年生を高学年と分けて授業研究を行っていました。今年度は私が3年生担任ということもあり、区分は1〜2年生、3〜6年生となり、現在は3~6年生が「これまな」に取り組んでいます。

低学年の先生方は、デジタルの活用や一斉授業から離れて子供に委ねる学び方に対して、やはり不安を感じる先生が多い傾向があります。今年度も昨年度も、多くの低学年の先生が研究メンバーに加わっていて、とくに1年生に「これまな」の授業を導入することには慎重な意見があり、校長先生もゆっくり進める方針です。そのため、まずは「守破離」の《守》の段階として、1・2年生では基礎・基本をしっかり身につけ、次のステップへ進めることを大切にしています。この方針については、先生方の納得も得られています。


月に一度開かれる研究推進委員会(通称「ざっくばらんカフェ」)では、倉澤先生が“カフェの店長”という設定。テーブルにはちょっとしたお菓子が並び、話の途中で席を立つ先生もいたりと、本当にカフェのようなリラックスした雰囲気。お互いに肩の力を抜いて、ざっくばらんに語り合える環境が整えられています。
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