「柔軟な教育課程」とは?【知っておきたい教育用語】
2027年に告示されるといわれている、次期学習指導要領の改訂作業が急ピッチで進んでいます。カリキュラム・オーバーロードの問題や、子どもの多様な発達状態への対応、身につけさせたい力の明確化とその具体化など、学校教育が抱える課題解決の中核的な方策として、「柔軟な教育課程」という言葉が頻繁に使われるようになっています。
執筆/創価大学大学院教職研究科教授・渡辺秀貴

目次
「柔軟な教育課程」とは
【柔軟な教育課程】
子どもの多様性を包摂し、一人一人の意欲を高め、可能性を開花させる教育を実現させるために、教育課程の時間数や目標、内容などに学校の裁量権を広げ、教育課程編成に柔軟性をもたせること。
学習指導要領の改訂を機に、改めて教育課程の編成が学校教育にどのような意味をもつのかについて確認しましょう。
教育課程とは、「学校教育の目的や目標を達成するために、教育の内容を子供の心身の発達に応じ、授業時数との関連において総合的に組織した学校の教育計画」と、学習指導要領に明記されています。この「総合的に組織した教育計画」は、次のような事柄で規定されています。
●年間の標準総授業時数(1,015単位時間)
●教科・領域等の標準時数
●標準授業時数の1単位時間(小学校45分、中学校50分)
●年間最低授業週数(35週以上にわたって実施)
●週あたりの授業コマ数(年間標準総時数を35週で割った数)
●学習内容の学年区分
上記の規定に基づき、年間の学校実施日数を35週として標準の授業時数を実施する場合、週の授業コマ数は29となり、小学校高学年や中学校では、「週1日だけ5コマ、あとは6コマ」という週が教育計画となります。6コマの授業が終了した時点で、おおよそ15時30分。本来なら昼に取るべき休憩時間(45分)を除くと、正規の退勤まで30分程度の時間しか残らないことになります。
会議や授業準備、子どもや保護者への個別対応をその間に実施することは、誰が考えても無理な状態です。しかし現実は、このような環境下で教育活動が展開されているということになります。
また、教育課程の編成が法的に規定されているのは、全国の学校で一定水準の教育の資質保証の実現をめざしているためです。結果として、これまでの社会においては、大きな成果をあげてきたといえます。しかし、学校の働き方改革の遅滞に象徴されるように、教職員への過度な労働負担の問題、それに伴う子ども一人一人の成長を十分に考慮した教育の質的な対応の困難さ、次代の社会の創り手に求められる資質能力の育成といった諸課題の解決には、従来の教育課程編成の規定では立ち行かなくなっているという現状認識が進んでいます。
「柔軟な教育課程」の実現に向けた学習指導要領の改訂
現行の学習指導要領は、2017年に改訂告示(小学校・中学校)されており、その前は、2008年、1988年…と、おおむね10年に1度の改訂が行われています。その時代の社会動向を踏まえ、全国どの地域でも一定水準の教育が受けられるように、国が示す教育の基準として、文部科学省が学習指導要領を告示し、全ての小・中・高校等が教育課程を編成する際の土台としてきました。
ただ、変化の激しい社会において、指導要領の改訂スピードが変わらないことの妥当性も話題になっています。とくに、コロナ禍のパンデミック以前と以降では、知識や技能、考え方なども大きく変化しているため、学校現場ではそうした様々な状況に則して、柔軟に対応しています。
次期改訂については、2026年中に審議を終え、2027年から順次告示、2030年に小学校、2031年に中学校、2022年に高等学校等と、順次完全実施というスケジュールを見込んでいます。令和7年3月28日の中央教育審議会教育課程企画特別部会では、これまで文部科学省の研究開発校が試行してきた成果をもとに、「柔軟な教育課程の実現」という視点から、今回の改訂に向けた検討の具体的内容について次のように示しています。
①総授業時数と教科標準時数
総授業時数(現行の1,015単位時間)を確保しつつ、教科標準時数の扱いを柔軟にする。教科標準時数を下回ることによって生み出された時数の扱いについて検討する。
②単位授業時間と年間最低授業週数
各学校や地域、子どもの実態に応じて柔軟な設定を促進するため、わかりやすい示し方をする。
③学習内容の学年区分
必要に応じ、教師が学年区分にとらわれず柔軟に教育課程を編成したり、指導を展開しやすくしたりする方向で検討する。
上記のことから、これまでかなり厳密に規定してきた「総合的に組織した教育計画」の枠組みを、今後は大きく柔軟にしていこうとしていることがわかります。