小5国語「大造じいさんとガン」京女式板書の技術

今回の教材は「大造じいさんとガン」です。この単元の学習活動は、「登場人物の心情の変化に着目して読み、物語のみりょくを伝え合おう」になります。そのため、本時では、物語の魅力を見付けるために、物語の魅力として考えられる観点を一人一人がもち、主体的に読み深めていけるような板書の工夫を紹介します。
監修/元京都女子大学教授
元同附属小学校校長・吉永幸司
執筆/京都女子大学附属小学校教頭・砂崎美由紀
単元名 登場人物の心情の変化に着目して読み、物語のみりょくを伝え合おう
教材名 「大造じいさんとガン」(光村図書出版)
目次
単元の計画(全6時間)
- 全文を読み、物語の大体をつかむ。学習の見通しをもつ。
- 「残雪」に対する「大造じいさん」の心情と、その変化に着目して、物語の内容を捉える。
- 物語の魅力を見付ける。
- 観点を選び、物語の魅力について読み深める。
- 物語の魅力とそう考える理由を自分の言葉でまとめる。
- 選んだ物語の魅力についてグループで紹介し合い、考えを比べる。
板書の基本
〇授業が始まる前に考えること
教科書246ページの「問いをもとう」では、「あなたの印象に最も強く残ったのは、どのようなことですか。」と問いかけています。物語を主体的に読み深めることをねらいとしているのです。そこで教科書の「ふかめよう」の❷「選んで読み深めよう」の学習に取り組みました。
「大造じいさんとガン」には、作品の魅力がたくさんあります。子供たちが作品の魅力として考えられそうな観点を、主体的に見付けたり選んだりする授業をしたいと考えました。物語には山場があり、作品にちりばめられた魅力(ここでは、心情、様子、表現、展開)があります。子供たちの見付けた言葉をよりどころに、魅力に気付かせたいと思いました。そして気付いた魅力の中から、自分が読み深める観点を選ばせたいと考えました。自分が読み深める「魅力の1つ」の観点を選び、4・5時間目に自分やグループで読み深め、6時間目に魅力を伝え合うという単元の計画です。
〇板書計画で考えておくこと
物語の魅力を見付けるために、1枚の板書に物語全文を表したいと考えました。板書は、右から左へと物語の時間が分かるように書きます。山場では、子供たちが多くの言葉を見付けて発表することを期待し、少し板書スペースを広めに取りました。子供たちは、「空間がたくさんある板書」を見ると、「ここに書く言葉をたくさん見付けよう」と学習に向かいます。
板書のコツ(3/6時間目前半)
板書のコツ①
学習のめあてと、学習の見通しを伝える。
「めあて」は「物語のみりょくをみつける。」です。ノートに日付とめあてを書いた後、本文3ページ分程度を音読します。音読は物語の世界に引きこみ、前の時間の学習を想起させるためです。
音読の後、前の時間までの学習を思い出し、「この言葉がないと物語が語れない。」と思う、「みつけた言葉」を発表させます。子供たちの印象に残る言葉をもとに、学習を進めていくことを伝えます。
板書のコツ➁
文章構成を一目で分かるように板書全体を使う。
黒板に、1~4の場面の番号を板書します。1の場面で見付けた言葉をペアで話し合います。そして全体の場で発表します。自分の読みをペアで確かめ、発表をするという学習のウォーミングアップです。この繰り返しで本時は言葉を見付けていくことを知らせ、今日の学習方法を理解させます。
板書のコツ③
チョークの色に意味をもたせる。
1の場面でまず子供が発表したのは「残雪」でした。その後、「残雪」を表す言葉を付け足した発表がありました。本文の言葉(見付けた言葉)は白いチョークで板書します。
子供が本文中の分かりにくい言葉を調べて発表することがあります。そのときは、黄色いチョークで板書し、言葉の意味を確認します。
このように、チョークの色に役目をもたせて板書します。板書に「物語の地の文」と、それ以外の文では色で区別するのです。板書を見直したときに、子供たちが分かりやすくなります。国語の学習でのチョークの色に意味をもたせることで、「先生、この言葉は〇〇色のチョークで書いてください」など、子供から言われることもあります。子供たちは「言葉の類型」を意識するようになってくるのです。そして子供たちの声が板書を作っていくのです。
板書のコツ(3/6時間目中盤)
板書のコツ①
子供が教科書をめくりながら言葉を探す。
2と3の場面を、ペアで言葉を見付けて発表している途中の板書です。「あかつきの光が…」を四角で囲み、板書しました。これは情景を表す表現であることを子供が発表しましたので、他の言葉とは区別をして板書しようと思いました。
子供たちは、他にも情景を表す言葉があったことを思い出し、一人一人が教科書のページをめくって、情景を表す言葉を見付けていきました。子供たちは、「情景を表す言葉」という観点をもち、主体的に見付けていきました。
板書のコツ②
板書に視覚化を仕掛ける。
3の場面にも情景を表す表現を見付けました。「東の空が真っ赤に燃えて……」の文です。同様に、言葉を四角で囲み板書しました。これは、後ほど気付かせたい観点の1つである「情景を表す言葉=表現」です。四角で囲んだのは、本時を振り返るときに、観点に気付きやすいように「視覚化」を仕掛けていたのです。
板書のコツ(3/6時間目後半)
板書のコツ①
行動の変化は心情が変化したところ。
3の戦いの場面は、子供たちがたくさんの言葉を発表しました。「ハヤブサ」「(おとりの)ガン」「残雪」を板書し、青チョークで〇を付けました。登場人物と様子を表す言葉を区別し、大造じいさんが見ている戦いの場面を視覚化するためです。
大造じいさんの行動が変化するところを見付けました。「が、」の一文字だという意見です。では変化する前後はどう違うのかが気になり、子供たちは教科書をめくり、言葉を探しました。
「残雪の行動を見た大造じいさんは、気持ちが変化し、じゅうを下ろした」という意見が出ました。心情の変化は、行動の変化で分かるという「読み方」を子供たちはつかみました。
そこで、板書でも大造じいさんの心情を赤いチョークでつなぎました。見付けた言葉を順に追っていくと変化が見えます。そして「大造じいさんの変化」と書いた板書を赤いチョークで雲形に囲みました。これは後に観点の1つ「心情の変化」としました。「観点は赤いチョークで雲形に囲む」というルールを示しました。
板書のコツ②
山場につながる「魅力の観点」に気付かせる。
教科書246ページに「中心となる人物の心情や、人物どうしの関係が大きく変わるところを、山場という。」の一文があります。そこで、3の場面が「山場」であることを確かめます。山場には多くの魅力があります。山場だけでは山場の魅力は分かりません。山場に向かっての「物語の展開」があり、物語全体の展開を見ることで山場にも気付くのです。
授業の終わりには板書全体を見直します。「物語の展開」「心情の変化」「表現(情景描写)」「残雪の様子」の4つが、今日見付けた魅力の観点であることを確かめます。自分にとってどの観点がもっと深く読みたいかを選び、次の時間からの読みのめあてとします。
本時は、読み深める前ですから、多くの言葉を選びすぎないようにしました。次時からの「みつける楽しさ」を残すように意識しました。子供たちが、主体的に言葉を見付けていく楽しさ、めあてをもち、読み深める楽しさを味わってほしいと願っています。
構成/浅原孝子