子どもたちそれぞれの物語を引き出す「アングル」指導

図画工作科の授業づくりに苦労している学級担任の先生も多いのではないでしょうか。ここでは、みんなの教育技術でも連載をもつ佐橋慶彦先生による、学級担任だからこそ実践したい図画工作科の授業アイデアを紹介します。今回はアングル指導についてのお話です。対象物への視点を変えることで、作品は描き手の意思が加わり、物語性のあるものへと変容していきます。
執筆/愛知県公立小学校教諭・佐橋慶彦
目次
視点を変えることで発揮される、子どもたちの個性やストーリー
前回の記事(アイデアが生まれる「環境づくり」で、子どもの苦手意識を変える)では、絵を描くことに苦手意識がある子たちへのアプローチとして、教室に題材となる動物や植物、魚や食品、風景などの図鑑や資料集を置き、描き方が分からなくなったらいつでも調べに行っていいように伝えていることを紹介しました。こうすることで謎の生き物を描いてしまって誰かに笑われたり、書き方が分からず頭を抱えてしまったりといった図画工作によくある嫌な体験を未然に防ぐことができます。
しかし、こういった資料の多くは、物体を真横から描いているものがほとんどなので、そのまま写して描くと真横から描写した作品ばかりが並んでしまうことになります。これは図鑑や資料を活用していなくても同じことで、私たちの物に対するイメージはほとんどが真横からの描写です。試しにりんごを描いてみてください。やはり真横からのりんごになるのではないでしょうか。
そのため、教室に掲示されている子どもたちの作品もきっとほとんどが真横からの描写なのではないかと思います。物体を上から描いたり、下から見上げるような角度で描いたりしている作品はきっと数点のはずです。子ども時代、可愛げが足りなかった私は「こうすれば成績が上がるのでは…」と、この「別角度での描写」作戦をよく使っていました(笑)。
本当に成績が上がったのかは分かりませんが、この「アングルを変える」描き方を覚えると一気に見栄えがよくなります。一工夫加えているという印象がアップするのです。もちろん目的はそれだけではありません。
視点を変えることによって、そこに描き手の物語性が含まれるようになるのです。例えば名作といわれる数々のアニメ映画を一時停止しながら見てみると、各アングルに意図が込められていることに気が付きます。アングルを変えることによって、描き手、あるいは登場する人物の意思やその背景にある物語を伝えることができるのです。
先ほどのりんごの絵を例に考えてみても、真横からの絵①では、ただ机の上にりんごが乗っているという事実しか感じ取れませんが、

下からりんごを見上げた絵②を見ると、小さな子が机の上のりんごを見上げているのかな?と、そこに物語への様々な想像が膨らみます。

また、りんごを拡大して真上から書いた絵③では、りんごのヘタに対する書き手の興味が感じられます。

こうしてアングルから、描き手の物語や意思が感じられるようになると、教室の作品たちはそれぞれの個性が一気に光るようになっていくのです。
このアングルの変え方を子どもたちに伝えるときによく、画家がよくしているポーズの話をしています。片目をつむって、両手で四角をつくる図④のようなポーズです。

このポーズはみなさんもご存じの通り、絵のフレームを作り、アングルを変えたり、大きさを考えたりするためのものです。しかし、意外に子どもたちはその理由を知らないので、この話をすると喜んで四角をつくって、見える世界をのぞき込んでいます。
また、流行りの“映え”という言葉を生かして、「秋らしい映える写真を撮ってきて」のような課題を出すと、子どもたちはタブレット端末を使って面白いアングルの写真をたくさん撮ってきます。
ある児童は飯ごう炊飯の思い出を描き表すときに、この話を聞いてかまどの中に視点を置き、かまどをのぞき込んでいる自分の絵を描きました。かまどの中が気になったのかな、火がつかなかったのかな、そんな疑問がその作品からたくさん湧いてきます。
一人一人の物語や意図が感じられる作品が教室にたくさん並ぶように、このアングルの話を子どもたちにぜひ伝えてみてください。
いかがでしたか? りんごの絵ひとつとっても、こんなにも雰囲気が変わるのですね。子どもたちの個性が引き出される「アングル」指導、次の授業でぜひ実践してください!