昆虫の飼育は怖くない! 〜第3学年「チョウを育てよう」〜【理科の壺】
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生き物の授業は、子どもたちが生き物とどれだけ関わっているかで、子どもたちの自然に対する親しみ度合いが変わります。子どもに野菜嫌いがあったとして、一緒に育てたら食べられるようになったということをよく聞きますが、生き物も同じです。最初は気持ち悪く見えるチョウの幼虫も、よくよく見るとかわいく感じられてくることが多いようです。
今回はチョウをうまく育てながら子どもたちにどのように関わらせるか、生き物嫌いを減らすにはどうするかがテーマです。先生があまり生き物に触れていないということも多いようです。一度子どもたちと一緒に育ててみませんか。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような“ツボ”が見られるでしょうか?
執筆/東京都公立小学校主任教諭・増田愛香
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.昆虫の飼育は好きですか?怖いですか?
第3学年「身の回りの生き物」の中では、「昆虫の成長と体のつくり」についての学習があります。多くの先生方にとって、生き物、特に昆虫を扱う単元は、「大好き!」よりも「面倒くさいな」「怖いな」と思われる方が多いのではないでしょうか。
昆虫飼育のハードルを下げ、ポイントをおさえて飼育することで、子供たちが自然と触れ合う機会をつくってほしいと思います。そこに本物の観察でしか得られない感動や学びがあると思っています。
2.うまくいかないポイント
昆虫の飼育では、次のような「うまくいかないポイント」があります。
・花壇や校庭にエサになる植物がなく、昆虫がいない。
・昆虫だけを捕まえたので、エサがない、足りない。
・エサが不十分で幼虫が脱走し、居なくなる。
・ケースに十分なスペースがなく、チョウが羽化に失敗する。
・プラスチック製のケースの中でチョウが羽化し、羽ばたくと翅が傷ついてしまう。
・昆虫が怖くて、育てられない。
このような経験から、昆虫の飼育に抵抗がある先生は少なくありません。
3.準備をしよう
今回の準備ポイントは2つ。「キャベツの苗を鉢に植えること」と「メッシュ素材のランドリーバスケットを用意すること」です。
授業で取り扱う代表的な昆虫は、モンシロチョウやアゲハチョウです。モンシロチョウは、キャベツや小松菜の葉に卵を産み、アゲハチョウは、ミカンなどの柑橘類の葉に卵を産みます。これらの葉は、幼虫時代の大切なエサになります。
キャベツの苗を花壇に植える学校が多いですが、今回は、鉢に植えます。
鉢を花壇に置いておくと、モンシロチョウが卵を産みにきます。卵を産み終えた後、キャベツの苗を鉢ごとランドリーバスケットに入れて、教室へ持ち運びます。ミカンは枝葉ごと花瓶に挿してバスケットに入れましょう。ランドリーバスケットは、100円ショップでも購入できます。
4.モンシロチョウを育てよう
ポイントをおさえて、「タイミング」を逃さないための環境作りをしてみましょう。
エサになる植物を植える時期やチョウが現れるタイミングは、地域や天候によって異なります。(記載の時期は関東圏内の場合)
① キャベツの苗を植木鉢に植えて、花壇に置いておきます。(2月頃)鉢の数を増やすと、たくさんの卵を得ることができます。キャベツではなく、小松菜の種を植えておくと、長期間の飼育ができます。
※4月のモンシロチョウを狙うなら10月に小松菜の種まきをします。
※6月のモンシロチョウを狙うなら、3月末~4月に小松菜の種まきをします。
② モンシロチョウが卵を産みにきます。※4月頃~。
③ 卵の付いた鉢をメッシュ素材のランドリーバスケットに入れます。ふたのないタイプは、逆さにして、幼虫がにげないようにします。今回は、ダンボールの上に乗せて、隙間をスポンジで埋めました。
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④ 教室や廊下など、子供たちの目のつく場所に置きます。この学習では、成長のタイミングを逃さないことが大切です。そこで、子供たちに昆虫の変化に気付いてもらう環境づくりをしましょう。
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⑤ 定期的に鉢に水をやります。キャベツの葉が十分にあるので、エサを与える手間が省けます。虫が苦手な方でも、キャベツの水やりなら続けられるのではないでしょうか。
⑥ モンシロチョウが成長します。「たまご」「幼虫」「サナギ」「成虫」といった成長のタイミングで観察をしましょう。
※たまごや幼虫はシャーレに移したり、成虫は短時間ビーカーに移したりすると観察 しやすいです。
⑦ 一斉に羽化したモンシロチョウが交尾をして、キャベツの葉に卵を産む様子も観察できました。キャベツに新しい卵が付いていたら、継続して観察ができます。
※モンシロチョウの一生は2カ月弱です。春~秋にかけて、4~5回の世代交代を観察できます。
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⑧ 観察を終えたら、成虫を外へ逃がしましょう。
授業の進度を問わず、4月から昆虫コーナーを設置しておくと、昆虫の一生のサイクルを数回観察することができます。成長の変化に気付いた子供たちの目は輝いていました。ぜひハードルを下げて、本物の飼育体験に挑戦してみてください。
5.虫嫌いは治るのか? 先生方に期待すること
結論。残念ながら、虫嫌いな人が虫を好きになるケースはあまりありません。しかし、この活動で卵から昆虫を飼育したり、昆虫を身近な存在に感じたりすることで、抵抗感を減らすことはできました。
虫嫌いな人は、過去に虫が突然飛んできたといったトラウマのような経験から、虫を嫌いになる人が多いようです。さらに、思春期になると周りの子が虫を毛嫌いするのに同調し、虫から遠ざかる人もいます。授業での発見や学びを通して、昆虫をより身近な存在に感じてほしいです。
「自分で見つけたことは一生の財産」になります。
先生方には、子供たちが財産を手にする環境づくりをしてほしいと願っています。
イラスト/難波孝
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。
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<執筆者プロフィール>
増田愛香●ますだ・まなか 東京都公立小学校主任教諭。
東京都小学校理科教育研究会、科学センター、理科教育学会などの理科教研究団体に所属し、日々、理科の研究と実践に励んでいる。
好きなこと:理科の授業。
特技:理科の研究に没頭すること。
趣味:理科の研究。
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<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。