理科って楽しい! と思わせる学習のスタート ~3年「身の回りの生物」~【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
【理科の壺】理科って楽しい!と思わせる学習のスタート ~3年「身の回りの生物」
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自然の観察をする際に、子どもの見たいものを見せたいと思いませんか? 多くの先生方は、植物を観察する学習内容では、子どもの思いはともかく、「植物の観察をしましょう」と進めていたのではないでしょうか。興味をもって自然事象に対峙したとき、子どもは自発的にしっかりと観察するはずですから、どのように観察に取り組ませるのか、考えたいものです。今回の授業は、「理科って楽しい」「自分から見つけていきたい」という意欲の高まりだけでなく、理科の学習を進める上で大切な「観察の視点」「問題・結果・考察」の意識付けを考えながら実践する授業についてです。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/富山県公立小学校教諭・阿閉令奈
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.理科って 自然って

子どもから「理科って何ですか?」と聞かれたことはありませんか?
『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説理科編』P.29に「理科の学習は,児童が自然に親しむことから始まる。」とあります。「理科」が「自然に親しむ」ことであることを子どもが実感できるようにし、これから始まる理科の学習へのわくわく感を引き出したいものです。
そこで、理科の最初の時間では、私は教科書や参考書は使いません。最初の時間の私の最初の投げかけは、「まずは自然を見つけに行こう」です。
すると、きっと子どもから「自然って?何?」などと質問も出るでしょう。そんなときは、「みんなは、自然といえば何だと思う?」「みんなが思うものが正解で、自然だよ」などと返します。自ら自然界にヒントや答えを見つけに行くのが理科なのだと意識付けるスタンスで、やり取りを行います。

2.自然を見つけに行こう!

自然を見つけに行くことへの意欲が湧いてる子どもたち。いよいよ自然を見つけに行く時間です。しかし、ただ自然に触れるだけでは深まりがなく、児童が自ら問題を見いだしたり、追究したりする活動につながりません。
そこで、児童の興味や実態に応じた子どもが負担感を感じない程度の「これだけ! ルール」を提示します。内容としては、写真撮影やスケッチに加えて、気付いたことを言葉でも記録することです。写真や絵だけでは、その子がそのときに抱いた思い(その子ならではの発見)がはっきりと分からないからです。
観察の視点を先に子どもと考えておくのもよいです。

自然にはどのようなものがあるのかな?(このときの子どもの問題意識)
外に行き、「自然」で思いつくものを見つけに行く
写真撮影したり、スケッチしたりして記録する
言葉でも記録し、その子ならではの発見をはっきりさせる

自然を見つけに行くとき、子どもたちはそれぞれ観察したいものを思い浮かべます。例えば以下のように虫を観察する子、花を観察する子などです。子どもが思いついたものを実際に自分で見つけに行くことを大切にします。

自然といえば虫だな。

自然といえばお花よね。

「これだけ! ルール」として、写真撮影やスケッチに加えて、気付いたことを言葉でも記録することを伝えただけなので、それぞれの子どもたちが観察するときの観察の視点や記録の方法は異なると思います。例えば虫を観察した子どもの記録では、疑問を書いたり、観察してものの大きさを示したりしています。

【虫を観察した子どもの記録】

また、花を観察した子どもの記録では、写真を撮って発見を書いたり、スケッチして気付きを書きこんだりしています。

【花を観察した子どもの記録】

3.その子ならではの発見から次の学習につなげる

自然に触れる時間から帰ったら、次は、観察の視点を子どもから引き出します(※1)。「色」「形」「大きさ」はもちろん、「数」「におい」「手触り」といった様々な観察の視点があります。
何か視点をもって自然を見つめていた子どもがいたら、その子どもの観察カードや取り組みを取り上げます。他の子どもにも観察の視点を共有できるだけでなく、子ども自ら発見することに喜びを感じることができます。
共有した観察の視点で、観察できたかどうか投げかけると、子どもは、自分の観察の仕方を振り返ります。できた子もいれば、考えていなかった子もいます。できなかったことを否定せず、友達から学ぶ姿勢を認めます。

※1

自然を見付けることができましたね。みんなは、どんな発見ができましたか?

ダンゴムシはえんぴつの先くらいの大きさだったよ。

どんな見方で発見したか分かりましたか?

ダンゴムシの大きさで発見したのだね。
道具と比べながら、大きさを調べると、分かりやすいね。やってみようかな。

友達の見方に気付けたのだね。あなたもすてきな見方で発見しているよ。

黄色の花が3本さいていたよ。

花を数で発見したのだね。

○○さんの「大きさ」や□□さんの「数」の見方は、分かりやすいね。
みんなはどう?

わたしも同じ花を観察していたけれど、形しか見ていなかった。色や数に注目していた友達はすごいな。今度は、もっとよく見て、色や大きさや数も知りたいな。もう一度観察に行きたいな。

友達の見方から学ぶことが大切ですね。

観察の視点の引き出し方としては、子どもの発言だけでは、その子ならではの発見が分かりづらい場合もあると考えられます。その場合は、子どもが出す観察カードを教師が黒板に貼りながら整理していき、子どもに気付かせるということもあるでしょう(※2)。あるいは、教師が「大きさ(視点)の順に観察カードをもってきましょう」という投げかけにより、意識していなかった子どもに視点を与えることもあると思います。

※2

みんなが書いたカードをグループに分けてみました。
友達が、何に注目しているか分かるかな?

<大きさ>

友達の注目の仕方をグループにすると、いろいろあることが分かりましたね。これらの見方で、みんなは観察できたかな?

観察はできたけれど、書いてはいなかったな。ぼくの見付けたハチの色・形・大きさは何かな。

そして、もう一度、外に行き、共有した視点で観察し直すことを提案します。子どもたちは、友達からの学びを活かして、前回観察したものをもっとくわしく見つめる姿が期待できるでしょう。

観察カードの整理の例
視点をもった子どものカードを意図的に取り上げる
観察カードを教師が黒板に貼りながら整理していき、子どもに気付かせる
教師の投げかけにより、意識させたい視点を与える

「色」「形」「大きさ」「数」の見方を共有したならば、次のように、2回目の観察では、それらが記録に表れてくるはずです。学びを活かす子どもを認め、子どもの学ぶ姿勢や自己肯定感を高めます。

4.「比較」することで、学習を深め、自己肯定感も高める

たくさんの視点をもって観察することができるようになった子どもたち。たくさんのことを先生に伝えてきたり、つぶやいたりするはずです。報告したい気持ちが高まっています。ここでは「みんなが見つけた自然には、ちがうところや同じところがあるかな?」などと投げかけて、子どもが友達の観察カードを気になる状況ができるようにします。
そして、子どもが見つけた発見の数や子どもの関わりやすさによって、話し合う形態を変えます。2度目の観察前に子どもと共有した視点を基に、観察したものを比較できる場を設定します。
教師が何も言わなくても、子ども同士で比較する場合もありますし、教師が「色でちがうところや同じところを見つけよう」と投げかけた場合もあります。その場合、子どもは色に注目して、仲間分けを始めます。同じ花でも色がちがうことに気付いたときには、子どもが「どうして同じ花なのに、色がちがうのかな?」などとつぶやくことが想定されます。理科の時間には解決できない疑問も出てくることがありますが、私は、「なるほど、よく考えたね」などと、その子どもの発想を認めるようにしています。気になることを口にすることの楽しさから、問題づくりの楽しさへとつながっていくのです。
この「比較」を行う学習で、どの子どもも選んだ『自然』が共有され、板書等に位置付けられると、子どもががんばって見つけてよかったなという自己肯定感が高まるだけでなく、あらゆるものが『自然』の一部であり、理科の学習ではたくさんの『自然』を扱うことへの理解にもつながる大事な時間になります。きっと、「もっと自然について知りたいな」と理科を学習することへのわくわく感が増すことでしょう。

みんなが見つけた自然には、ちがうところや同じところがあるかな?

ミツバチと花では、ちがうところばかりだよ。

でもミツバチの大きさと花びらの大きさは4㎝で同じなのだね。

比べたことで、さらに発見できましたね。

さらに、ここで「見たもの・五感で分かるもの・誰が見てもわかるものは「結果」、結果から考えたことは「考察」という違いも伝えると、結果と考察を区別しながら学習に取り組んでいけます。

2度目の観察前に子どもと共有した視点を基に、観察したものを比較する場を設定する
子どもの発想を認める
「結果」と「考察」を区別する

見たもの・五感で分かるもの・誰が見てもわかるものは「結果」、結果から考えたことは「考察」と区別できるようになるといいですね。

ぼくは結果も考察も書いていたのか。次から区別して書こう。

このように、理科の一番初めのスタート時期における取組を紹介しました。学校の状況等に応じて、3時間で構成したり、2時間で行ったりするのもよいでしょう。子どもの発想を大切にすることによって、「理科って楽しい」「自分から見つけていきたい」という意欲の高まりだけでなく、理科の学習を進める上で大切な「観察の視点」「問題・結果・考察」の意識付けが行えると考えます。

「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。

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<執筆者プロフィール>
阿閉令奈●あとじ・れいな 富山県公立小学校教諭。
理科を中心に実践研究を行う。日本初等理科教育研究会第55回全国大会富山大会では、授業提案を行った。


寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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