国語科の「一斉授業」アップデート|一斉授業で「個の学び」を深める技【中野裕己の授業技術アップデート09】

連載
明日からできる!授業技術アップデート

新潟大学附属新潟小学校教諭

中野裕己
明日からできる授業技術アップデート

『小学校国語授業アップデート』の著者で、国語科(読むこと)、対話指導、ICT活用の研究を精力的に進める中野裕己先生による新連載! 「発問」「教師の“ポジショニング”」「価値付け言葉」「問い返し」「ICT活用」「話合い活動」「授業準備」の7つの柱をテーマに、“明日から”できて“ずっと”役立つ授業の技を、多岐にわたってお届けします。

第9回目のテーマは、《「個の学び」を深める一斉授業》です。


執筆/新潟大学附属新潟小学校教諭・中野裕己

一斉授業とは?

連載第9回目となりました。新潟大学附属新潟小学校の中野裕己(なかの・ゆうき)です。

今回は、一斉授業のアップデートについて取り上げたいと思います。

先生方は一斉授業という授業形態をどのように捉えられていますか? まずは、私の理解しているところを共有させてください。

図:一斉授業の基本的な風景
図:一斉授業の基本的な風景

一斉授業》
集団が一斉に共通の内容を追究する授業形態である。多くの場合、子供の机は黒板に向かって並べられ、黒板の前に立つ教師が、発問、指示、説明をすることによって授業が進行する。

多くの授業は教科書にある共通教材に基づいて進められるため、「一斉に共通の内容を追究する」一斉授業は、教室の基本的な授業形態となっています。教師は、発問・指示・説明によって、授業を進行したり、学びを深めたりする役割を担います。

しかしながら、「個別最適な学び」というキーワードが登場して以降、一斉授業に対する批判的な声が大きくなってきたように思います。

一斉授業で問題となる指導                          

一斉授業は、集団が一斉に同じ内容を追究することから、集団を一律に揃える指導をしてしまいやすいという問題点があります。例えば、次のような指導が例に挙がります。

図:一斉授業で問題となる指導例
図:一斉授業で問題となる指導例

上掲のような教師の指導によって、一斉かつ一律に学ばざるを得なくなっている子供の姿を指して、一斉授業の問題点とすることがあるのです。そして、自由進度学習など、一斉にも一律にもならない学習形態を必要とする声が高まっています。

一斉授業では個に応じた指導ができないのか                       

自由進度学習を取り入れることは、もちろん価値があります。子供に学びが委ねられることで、それぞれが自分にとって学びやすいペースで、学びやすい内容に取り組むことができます。一斉一律の授業に慣れた子供たちにとって、新たな学びを得ることができるでしょう。

一方で、「一斉授業では個に応じた指導ができないから、自由進度学習で」という風潮があるのであれば、それには異を唱えたいところです。

先に述べた通り、一斉授業という学習形態では、一律に揃える指導が生まれやすくなるのは事実です。しかしながら、教師が指導観を変えることで、個に応じた指導は可能であると考えています。

さらに言えば、一斉授業という学習形態だからこそ、個の学びが深まることもあるのです。

一斉授業で個の学びを深める教師の技

そこで、「一斉授業アップデート」として、一斉授業で個の学びを深める教師の技を提案します。

Point.1 子供が学習対象に直接アクセスする環境を創ること

授業中、子供は何に視線を向けて学習しているでしょうか? 一斉授業であれば、教師に視線を向けている子供が多くいるでしょう。そうなると、子供の学びは教師に依存する割合が高くなります。

個の学びを深めるためには、教師ではなく、学習対象に多く視線を向けさせる必要があります。そこで、いつでも子供の視界に学習対象が存在するように、環境を整えます。

図:学習対象に直接アクセスできる環境例(国語)
図:学習対象に直接アクセスできる環境例(国語)/黒板(写真左)と一人一人の手元(写真右)に学習対象がある環境

まず、黒板には、学習対象を掲示するようにします。国語であれば、教材文です。そして、発言する子供は、黒板の前で叙述を示しながら発言するように促します。

そして、一人一人の手元には、確実に学習対象が置かれるようにします。国語であれば、教材文が見えやすい状態で手元に置かれていることが大切です。

Point.2 多様な聞き方を認めること

話の聞き方を丁寧に指導されている先生方は多いと思います。そして、多くの指導で「相手に目を向けて話を聞く」ことが指導されます。話し手に目を向けることで、聞くことに集中することができるからです。

一方で、授業中は、いつも聞くことに集中しなければならないのでしょうか?

個の学びを深めるためには、あくまで個の追究を中心に、聞くことは補助的なものであると考えるべきだと思います。つまり、子供それぞれの思いや意図に応じて、書きながら聞く、読みながら聞く、考えながら聞くといった、多様な聞き方が認められることが重要です。

図:多様な聞き方が表れている例
図:多様な聞き方が表れている例

上掲の写真でも、タブレット端末を操作しながら聞いている子供がいます。画像には映っていませんが、何か書きながら聞いている子供がいます。もしかしたら聞いていない子供もいるかもしれませんが、個の追究は途切れずに行われています

もちろん、教師が全員に聞かせるべきだと判断した内容は、「ちょっと顔を上げて聞いてね」などと、声をかけることも必要です。ただし、あくまで多様な聞き方を認めることが中心であるべきだと考えます。

Point.3 個の学びに応じたフィードバックをすること

授業中に子供を褒めたり励ましたりする声かけは、これまでも大切にされてきました。ただ、それが教師にとって都合のよいことばかりを褒めたり励ましたりしていないか、今一度考えてみてください。

個の学びを深めるためには、個の学びに応じたフィードバックを一人一人にすることが重要です。一人一人の価値ある姿を教師が認め、価値あるものとして言葉にするのです。

図:個の学びに応じたフィードバックの例(国語)
図:個の学びに応じたフィードバックの例(国語)

子供が違えば、フィードバックすることも微妙に変わってきます。その年、その日、その時の子供たちの姿から、上掲のようなフィードバックの語彙を増やしていきます。

また、上掲の「近くに位置する」「目があったら微笑み返す」のように、フィードバックは言葉だけではないことも留意しておく必要があります。

細かな教師の所作も、子供にとっては意味のあるフィードバックになるのです。


……と、いうことで、ズバリ! 今回の授業準備アップデートは、

一斉授業アップデート!
学習対象に直接アクセスできる環境、多様な聞き方を認める、個の学びに応じたフィードバック

と、いうことになります。

明日の、そしてこれからの授業づくりの参考にしてくださいね。


次回の予定テーマは、《教室環境のアップデート》です。
学校生活で、授業の中で、どのように教室環境をデザインするかを提案します。どうぞ、お楽しみに……!

今回のテーマ、『一斉授業で「個の学び」を深める』中野先生の公開授業レポートはこちらから!
⇒「一斉授業の中で「個の学び」を支援する――中野裕己先生の公開授業レポート(「新しい国語実践研究会」研究大会より)」

中野裕己先生

【著者紹介】
中野裕己(なかのゆうき)
新潟大学附属新潟小学校教諭。1986年新潟県生まれ。新潟市公立小学校教諭を経て、現職。「授業は、子供と教材の相互作用」を合言葉に、子供の学びを「支える」授業づくりを大切にしている。新しい国語実践研究会会長。全国国語授業研究会監事。授業改善コミュニティ「授業てらす」プロ講師。教員サークル「国語授業“熱”の会」代表。

[著書]
『教科の学びを進化させる 小学校国語授業アップデート』(2021年)
『学びの質を高める! ICTで変える国語授業3 Google Workspace for Education編』(2022年、共編著)
『子供が学びを創り出す 対話型国語授業のつくりかた』(2022年)
『授業はタイミングが9割』(2024年)
『タイプ診断で見つける 小学校国語 授業技術大事典』(2024年)

X(旧Twitter):https://twitter.com/yuuuuki0430
新潟大学附属新潟小学校初等教育研究会HP:https://www.fuzoku-niigata.jp

多種多様な「授業技術」と、その技術を活用した「実践」を、5つの授業タイプ、8つの方向性から整理。中野先生の最新刊『タイプ診断で見つける 小学校国語 授業技術大事典』も、ぜひお読みください。
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