管理職のパフォーマンス、何を意識してどう見せるべきか|校長なら押さえておきたい12のメソッド #9

連載
校長なら押さえておきたい12のメソッド

兵庫県公立小学校校長

俵原正仁
「校長なら押さえておきたい12のメソッド」バナー画像 執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁

新任や経験の浅い校長先生に向けて、学校経営術についての12の提言(月1回公開、全12回)。校長として最低限押さえておくべきポイントを、俵原正仁先生がユーモアを交えて解説します。第9回は、管理職のパフォーマンスについて考察します。

執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁

あえて聞かせる……職員室でのパフォーマンス

放課後の職員室。この日は会議もなく、教頭と数人の教員がパソコンに向かって、黙々とそれぞれの仕事をしている。そこに、校長会から校長が帰ってきた。開口一番、教頭先生に話しかける。

「教頭先生、ちょっと面倒なことになるかもしれへん。来年度、県指定のICT研究会が市に降りてくるらしくて、どこかの学校が受けないといけないみたいなんや」 

校長の話を聞いて、教頭が問い返す。「それで、校長先生はどうお考えなんですか?」
「先生たちに無理強いはしたくないというのが、大前提やけど、指定を受けるとICT加配で人を一人つけてくれるらしい。予算もつくみたいだし、そのへんは魅力的だけどね」 

受けるメリットを教頭に話す。校長の話に教頭も同意する。
「職員が一人増えるというのは大きいですね」
「そやろ。今年、うちの学校ICTやっているのは市教委も知っているし、どこも手を挙げなければ、どっちみちお願いされる可能性もあるんやけどな。とりあえず授業推進委員で話してみるわ」

ひとしきり話をした後、校長は校長室に戻っていった。 

この校長と教頭の会話は、ほぼ実話です。私は、このように教頭先生との情報共有を校長室ではなく堂々と職員室で行なうことを意図的にしています(当たり前のことですが、市教委から管理職止めと言われている内容は校長室で話します)。

もちろん理由があります。それは、このようなパフォーマンスをすることで、

職員室にいる先生方と間接的に情報共有をすることができる

からです。

聞いていないようなそぶりをしていますが、意外と職員室での校長と教頭の会話は聞かれています。どうせ聞かれているのなら、聞いてもらいたい内容をこちらから積極的に提供していこうということです。

今回のような情報の場合、初めて聞く場が公的な授業推進委員などの会議だと、いきなり感とトップダウン的な押しつけ感が強くなります。だから、このような形で、事前に何人かの先生の耳に届けておくのです。その場にいる先生によっては「今度、研究会があるかもしれない」という情報が瞬く間に全職員に広がっていることもあります。先生方にとっても、前もって心の準備ができるというものです。

時には「今、教頭先生に話していたんだけど、今度、研究会が回ってくるもしれへんねん。○○先生はどう思う?」と、その場にいる先生に声をかけることもあります。少々強引ですので、誰にでもできるわけではないのですが、直接声をかけることで、その先生の立ち位置を他人事ではなく自分事にしてしまうのです。

他にも、日頃から教頭先生に話しかける姿を先生方に見せることによって、「先生方に管理職は仲がいいと思わせる」という効果もあります。学年の先生の仲がいいと、子供たちの状態が落ち着くのと同じです。少し気が合わない場合でも、これはパフォーマンスだと割り切ってがんばって下さい(笑)。

好印象を生むグッズを使う……地域に向けてのパフォーマンス

学校の子供たちや職場の先生方と違い、地域の人とは1年のうちに何度も会うことはまずありません。だからこそ、地域の人に対しては、第一印象が大切です。

私が初めて校長として赴任した学校は、兵庫県芦屋市の中では関西の下町感あふれた校区でした。その地域の会合に、初めて校長として参加させてもらった時の挨拶を紹介します。

4月より、新たに校長として赴任しました「俵原」と言います。以前、担任として宮川小学校にお世話になっていたこともあるので、楽しい思い出がいっぱいの宮川小学校に校長として帰ってくることができて、本当にうれしい思いでいっぱいです。宮小の子供たちが地域の方々にいつも見守られていることを担任当時もすごく感じていました。これからもよろしくお願いいたします。

ここまでは、地域の人に感謝を述べつつ、自己紹介をするというごくごくオーソドックスな挨拶です。パフォーマンスはここからです。

ちょっと緊張して暑くなってしまいました。

と言いつつ、ジャケットを脱ぎました。そして、暑いと言っておきながら、なぜか、ジャケットを裏返してもう一度着直します。ここで大歓声が上がりました。

タイガースジャケットを表から裏へ

その時、私が着ていたジャケットは、裏地が阪神タイガースのユニフォームになっている特注品。阪神ファンの多い地域であるが故、このパフォーマンスの効果は絶大でした。

「今度の校長はいいぞ」

地域の重鎮からのお墨付きをもらい、超好意的に受け入れられたのでした。赴任したてで、まだ、何もしていないのに……(笑)。

もちろん、この後、地域のお祭りなどにはできる限り参加しました。業務改善の流れで、休日出勤には向かい風が吹いていますが、年に数回足を運ぶだけで、地域の信頼を得ることができるのです。それに、学校以外の場の子供たちと会うこともできます。コストパフォーマンスで考えれば、行かない選択肢はありません。

手を振る……子供に向けてのパフォーマンス

本連載の第4回で、「子供とつながるためにも、授業中、校舎内をうろうろしてください」という話をしました。その際に、効果的なパフォーマンスが、

手を振る

というシンプルな行為です。実際、1年生の教室横の廊下を通り過ぎる時、教室に向かって、手を振ると100%の確率で多くの1年生が手を振り返します。高学年になれば、数は若干減ってきますが、授業中でなければ、ほぼ100%誰かが手を振り返してくれます。担任には見えないように、こそっと手を振ってくれる子もいます。また、それがかわいい。そして、何と言っても嬉しいのが、笑顔で手を振ると、笑顔で振り返してくれることです。

授業中、校舎内をうろうろする校長。とある教室で窓越しに手を振ると、気付いた2名の子供が笑顔で手を振り返す。

「手を振る」という分かりやすいアクションがつくことで、お互いの意識がアイコンタクト以上にはっきりと分かります。一瞬で、子供たちとつながることができるのです。ただ、手を振ることをパフォーマンスとして意識して行っている人は少ないと思います。どんどん手を振って、子供たちとの距離を縮めてください。

ちなみに、この「手を振る」というアクションは、元々神道からきたものだと言われています。「魂振り」(たまふり)という儀式から来ているそうです。神道では、「魂振り」を行うことによって魂の活力を再生し、空気を震わせることで神霊を奮い立たせ場を清める効果があると考えられていました。神社で神主さんが御幣(ごへい)を持ってお祓いをすることや、参拝者が柏手や鈴を鳴らすといったことがこの「魂振り」の具体的な例ですが、日常的に行っている「手を振る」という動作も、この「魂振り」の一つです。奈良時代の昔から、出かける人に対して、手や袖を振ることによって神霊を招き寄せ、その神霊の御加護よって安全に旅にでかけるようにと祈ったり、恋する相手に袖を振ることで相手の魂を引き寄せたりすることができると考えられてきたそうです。このようなトリビアをちょっと知っておくと、意識も変わりませんか。大好きな人(今回の場合、自分の学校の子供たち)へ神のご加護がありますように……と、手を振るのです。

また、ハイタッチも効果的です。さすがに授業中は、学習の邪魔になりますのでやりませんが、休み時間や朝の登校時&放課後の下校時など、子供たちとすれちがう時によく行ないます。最近の子供たちは、さっと手を出すだけで、条件反射的に、手をパチンと合わせてくれますので、テクニックも使用上の注意もありません。非常に使いやすいスキルです。お互い笑顔になり、ポジティブな気分になれます。子供たちとの距離がどんどん近くなり、親しみも増していきます。


俵原正仁先生

俵原正仁(たわらはら・まさひと)●兵庫県公立小学校校長。座右の銘は、「ゴールはハッピーエンドに決まっている」。著書に『プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術 』(学陽書房)、『なぜかクラスがうまくいく教師のちょっとした習慣』(学陽書房)、『スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意 』(明治図書出版)など多数。

俵原正仁先生執筆!校長におすすめの講話文例集↓

【俵原正仁先生の著書】
プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術(学陽書房)
スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意(明治図書出版)
管理職のためのZ世代の育て方(明治図書出版)

イラスト/高橋正輝

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