悩める教師を力づけるアドバイスのポイント【タイプ別攻略法】|校長なら押さえておきたい12のメソッド #8
新任や経験の浅い校長先生に向けて、学校経営術についての12の提言(月1回公開、全12回)。校長として最低限押さえておくべきポイントを、俵原正仁先生がユーモアを交えて解説します。第8回は、教師のタイプ別に効果を上げるアドバイス法を伝授します。
執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁
目次
学級崩壊ではないものの……
本年度も後半戦に突入。修学旅行や運動会、学芸会など学校行事も一段落し、先生も子供たちも疲れがたまる時期です。どうしてもクラスの雰囲気はざわざわとなりがちです。
そこで、今回は校長先生が教室を回っていて、ちょっと気になるクラスの先生に対して、どのようにアドバイスをすればいいのか、そのポイントについてお話しします。
圧の弱い教師の代表として「少し自信を失いかけている教師」を、圧の強い教師代表として「ちょっと空回りしている教師」を例としてあげています。しばし、お付き合いください。
自信を失いかけている「圧の弱い教師」には、こうしよう
圧の弱いタイプの教師は、元々、自分はできるという自負がそれほど強くありません。だから、ちょっとしたことをきっかけにして、自信を失う状況になってしまうことがあります。できれば完全に自信を失う前に、その先生が悩んでいることに対する対処の仕方を伝え、自信を取り戻してもらいたいものです。
ただ、自信を失いかけているときだからこそ、ネガティブな指摘を真正面から受けることで、さらに自信をなくしてしまう可能性もあります。よかれと思ってしたことで、とどめを刺してしまうという最悪の事態は避けなければいけません。
そうならないための手立てに、「サンドイッチフィードバック」というものがあります。その名の通り、パン、具、パンの順番で作る「サンドイッチ」のように、ポジティブなことでネガティブなことをはさんでフィードバックしていくという方法です。
例えば、「自分の話を聞いてくれない」と悩んでいる教師に対しては、次のように話をしていきます。
朝の会の様子を見ていたけど、今日は自分の視線を意識して話していましたね。全ての子に視線を送って話しているのがよく分かりましたよ。
はい。でも、手遊びをしたり、私語をしたりで話を聞いていない子が、まだ何人もいるのが気になっているんです……。
ここからが、サンドイッチフィードバックの出番になります。
●パン(ほめる=ポジティブなフィードバック)
「でも、前に比べたら、クラスの子供たちの聞こうとする意識は強くなっていますよ。それに、誰が話を聞けていないのか、ちゃんと把握できているところは大したものです。これも、先生が自分の視線を意識して話していたからだと思いますよ」
●具(指導する=ネガティブなフィードバック)
「手遊びをしているのは、机の上に余計なものがあるからです。何もなければ、手遊びはできませんからね。私語については、後ろの子と話している男子が何人かいたので、もう少し机の前後の配置を広くした方がいいかもしれませんね。近くになると、どうしてもしゃべりたくなるものです」
●パン(ほめる=ポジティブなフィードバック)
「少しずつよくなっていけばいいし、実際よくなっていますから、この調子でやっていけば、大丈夫ですよ。子供たちにも、『話の聞き方が上手になっている』と校長先生が言っていたとほめてあげてくださいね」
校長先生から、いきなり「手遊びをしている子がいますね」と指導されたら、「自分はダメだ。認められていない」と、さらに自信をなくすかもしれませんが、このように「指導する」ことを「ほめる」ことではさむことで、指導はされているけれど、自分は認めてもらえていると感じることができます。モチベーションが低下するところを逆に上げることができるのです。
先述した例は、「パン(ほめる)」の部分と「具(指導する)」の部分が「話を聞く」という観点で内容的にも連続していますが、いつもこのように話せるとは限りません。そのことを過剰に意識すると、指導することに二の足を踏んでしまいます。話の流れが、多少強引でも大丈夫です。ほめることで指導をはさむことによって、指導された内容も気持ちよく入っていきます。次のように、ほめることと指導する内容が全く別物でもかまわないのです。
●パン(ほめる=ポジティブなフィードバック)
「1週間、お疲れさま。今日の体育、楽しそうだったね」
●具(指導する=ネガティブなフィードバック)
「ところで、最近、上谷さん元気ないよね。又、話を聞いてあげてね」
●パン(ほめる=ポジティブなフィードバック)
「あっ、それと、最近、朝の会の始まりがめちゃくちゃスムーズですね。来週もがんばってくださいね」
上谷さんの元気がないことと体育や朝の会のことの関連はありません。でも、こんな感じでいいのです。そして、ときには、「パン」を「パン」ではさんだ、ほめまくりのサンドイッチがあってもいいと思います。実際に、このようなサンドイッチがパン屋にあったとしたら、あまり食べたいとは思いませんが……。
圧の弱い教師には、
「ほめながら、指導する」ことで、自信をもたせる
ことがポイントになります。
そのためには、いつでも「パン」ではさめるように、普段から、先生方のがんばりやほめることを意識して探しておかなければいけません。
やることが空回りしがちな「圧の強い教師」には、こうしよう
圧の強い教師には、やる気に満ち溢れているが上に、やることが空回りしてしまう教師がいます。やる気があるからこそ、がんばりすぎて、その結果、行動が空回りするという状況になるのです。
ただ、やる気があること自体は素晴らしいことです。だから、「少し空回りしている」程度なら、熱血若手教師という範疇に入ります。このような場合であれば、ほほえましく見守っていけばいいのですが、空回りが、子供たちや周りに迷惑をかけるようなレベルであれば、話をしていかなければいけません。まだ空回りが小さいうちに、声をかけてください。
このタイプの人は「自信とやる気はあるので、周りに迷惑をかけていることに気づいていない」ことが多いようです。まず、そのことに気づかせなければいけません。つまり、このタイプの先生にするべきことは「先生のしていることが、周りに迷惑をかけている」という事実を伝えることになります。
「今日の朝、クラスでフルーツバスケットをしていましたね」
「はい、学級会でクラス遊びをすることになったんです」
「みんな、楽しそうでよかったけど、あの時間は読書タイムだからね。ワーワー騒がれると、隣のクラスは静かに読書できなかったんじゃないかな」
「あっ、そうですね。1組の小酒井先生にお詫びしておきます。ありがとうございました」
圧の弱い教師のときのように、「パン(ポジティブなフィードバック)」にはさむ必要はありません。シンプルに指摘さえすれば、自信を失うこともなく、きちんとした行動をとることができるはずです。でも、ここで調子に乗って、「そういえば、岩谷先生は、今までも、今日のように周りが見えていないことがあったので、気を付けてくださいね」と過去のことを持ち出して指導の追い打ちをすることはNGです。
このタイプの教師は、自分ができるという自負が強いので、シンプルな指摘には対応できますが、必要以上に圧をかけると、「この人は分かってくれない」とSNSでブロックをかけるかのごとく、一気に心を閉ざすことになります。この程度でいったん止めておいて、引き続き様子を見る方が賢明です。
圧の強い教師には、
「今日はたまたま失敗したんですよね。分かっていますよ」
というスタンスで、話を進めることがポイントになります。
「具(指導する=ネガティブなフィードバック)」だけでもいいのですが、具はあくまでも一つだけにしてください。その他の実践は認めていますよという空気感で、自尊心を傷つけないようにするのです。
俵原正仁(たわらはら・まさひと)●兵庫県公立小学校校長。座右の銘は、「ゴールはハッピーエンドに決まっている」。著書に『プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術 』(学陽書房)、『なぜかクラスがうまくいく教師のちょっとした習慣』(学陽書房)、『スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意 』(明治図書出版)など多数。
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【俵原正仁先生の著書】
プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術(学陽書房)
スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意(明治図書出版)
管理職のためのZ世代の育て方(明治図書出版)
イラスト/イラストAC