学級崩壊フラグを見抜け!そして、折れ!|校長なら押さえておきたい12のメソッド #7

連載
校長なら押さえておきたい12のメソッド

兵庫県公立小学校校長

俵原正仁
「校長なら押さえておきたい12のメソッド」バナー画像 執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁

新任や経験の浅い校長先生に向けて、学校経営術についての12の提言(月1回公開、全12回)。校長として最低限押さえておくべきポイントを、俵原正仁先生がユーモアを交えて解説します。第7回は、学級崩壊を未然に防ぐために校長がすべきことについて考察します。

執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁

学級崩壊フラグは10月に立つ

学級崩壊には起こりやすい月がいくつかあります。

その中でも、一番大きなダメージが残るのが11月です。だからといって、11月になって慌てて学級崩壊の対策を立てても、後の祭りです。風邪を引いてから、風邪に負けない体作りをしようと乾布摩擦をするようなものだからです。症状をさらに悪化させるだけです。つまり、実際に症状が出る前に手を打たなければいけないということです。崩壊するクラスは、教師自身が気付いていないだけで、少しずつ少しずつ崩壊が進行しています。つまり、10月にはすでに崩壊フラグが立っているということです。

そして、学級崩壊を起こしてしまう教師が、自分のクラスのちょっとした荒れに気付くことは、あまりありません(そもそも気付けないから、学級崩壊が起こるのだとも言えますが……)。だからこそ、ここは校長先生の出番になります。学級崩壊を未然に防ぐためにも、崩壊フラグを見付け、クラスの荒れがそれ以上進行しないように手を打ってください。今月は、そのために校長先生が意識すべきことについてお話しします。

世の中には2種類の教師しかいない

教師には、「圧の弱い教師」と「圧の強い教師」がいます。

圧の弱い教師」というのは、本人にその気がなくても、子供に対して、どこか遠慮気味なように見えます。よく言えば「優しい、子供によりそう」先生、悪く言えば、「元気がない、優柔不断、何をしても叱られない」先生と言えるでしょう。

圧の強い教師」というのは、その反対です。子供に対する圧力が強い教師ということです。子供の中にグイグイ食い込んでいきます。よく言えば、「元気はつらつ、エネルギーに満ちた」先生、悪く言えば、「厳しい、空気が読めない、一緒にいると疲れる」先生といったところでしょうか。

この説明を聞いて、校長先生なら、すぐに「あの先生は圧が弱いな」「あの先生は強めかな」と、自分の学校の先生の姿が頭に浮かんだと思います。

ちなみに、この二つのタイプに優劣はありません。どちらがよくて、どちらが悪いということはないのです。圧が弱くても、強くても、崩壊フラグが立つときは立ちますし、どちらのタイプの教師に崩壊フラグが立ちやすいといったこともないからです。

ただ、圧の弱い教師と圧の強い教師とでは、違ったかたちの崩壊フラグが立ち上がります。つまり、圧の違いによって、予想できる崩壊フラグを絞ることができるということです。それぞれの教師のタイプを意識することで、崩壊フラグが小さいうちに見付けやすくなります。早期対応、未然防止につながるのです。

「圧の弱い教師」に立ちやすい崩壊フラグあれこれ

悪い姿勢で授業を受ける子供

圧の弱い教師のクラスには、次のような崩壊フラグが立ちやすくなります。

 ・朝のあいさつがダラダラしている。
 ・教室にごみが落ちている。
 ・イスが出ている。机の上が散らかっている。
 ・授業をすぐに始められない。
 ・姿勢の悪い子が増える。
 ・ノートやプリントの字が雑になる。
 ・忘れ物が増える。
 ・けがが多くなる。
 ・教師の指示が通らない。
 ・授業中、立ち歩く子が増える。

いずれの崩壊フラグも、圧の弱い教師にとって、最初はそれほど気になりません。「ま、これぐらいならいいかな」とスルーしてしまうのです。もちろん、それ以上進行しなければいいのですが、何の手も打たなければ、間違いなく崩壊はじわじわと進行していきます。そして、隣のクラスの担任が気付いたころには、もう手遅れになっていることが多いのです。

つまり、校長が行うべきは、手遅れになる前に、クラスに現れている崩壊フラグを本人に示し、「このまま放置していると、クラスは荒れてきますよ」と指摘することです。ド直球で話しても大丈夫です。自分に自信のないタイプが多い圧の弱い教師は、校長からの指摘を素直に受け止めるはずです。

「圧の弱い教師」への具体的な対応例

例えば、校長先生が校内をうろうろしていると、「朝のあいさつがだらだらしている」というようなシーンを見かけたら、放課後、何気ない感じで近づいて話しかけてください。

明日、朝のあいさつのとき、教室に入ってもいい?

この申し出を断ることができる圧の弱い教師はいません。そして、次の日、教室に入って、校長自ら手本を示します。朝のあいさつをしようとしているタイミングで、教室に入っていきます。そして、まず校長先生から大きな声であいさつをします。

おはようございます。

おはようございます。

校長先生のいきなりのあいさつに戸惑いながらも、元気者が何人かあいさつを返してくれるはずです。

○○さん、○○くん、いいあいさつですね。じゃあ、せっかくだから全員とあいさつをさせてください。全員、起立。

全員、さっと立てばそれでオッケー。立っていない子や立ち遅れた子がいたらやり直します。

惜しいなぁ。やり直します。一度全員座ってください。はい、起立。

2回目は全員がさっと起立することでしょう(もし、できていなければ、笑顔でやり直しの指示を出します)。一言ほめた後、校長先生から大きな声であいさつをしてください。

さすが4年1組ですね。では、おはようございます!

「おはようございます!」―学級全員から大きな声が返ってくるはずです。

すばらしい。明日も今日のように気持ちのいいあいさつをしてくださいね。

放課後、担任に、次のように話します。

朝のあいさつがだらだらしていることをスルーしていると、そこから学級崩壊につながることがあります。でも、できていないからと言って、目くじら立てて叱る必要はありません。今日、私がやったように穏やかな声で淡々とやり直しをすれば、子供たちはできるようになりますよ。私が担任のときには10回近くやり直しをしたこともありますけどね。

自分の失敗談でオチをつけた後、「最初に教師が元気な声であいさつして手本を見せる大切さ」もつけ加えておきます。

「圧の強い教師」に立ちやすい崩壊フラグあれこれ

先生の陰口を言う女子2人

対して、圧の強い教師のクラスには、次のような崩壊フラグが立ちやすくなります。

・友達への配慮ができない子が増えてくる。
・何かあったとき、子供同士が目くばせをする。
・プリントを配ったとき、無言でむしり取る。
・授業中、トイレや保健室に行く子が増える。
・友達にきつく注意する子が増える。
・立場の弱い子に対して強く当たる。
・掃除をさぼる子が増えてくる。
・教師の小言が増えたような気がする。
・教師ができていないことに対して陰口を言う。

いずれの場合も、授業中立ち歩く子が出たり、教室が騒がしくなったりして、授業が進まなくなるようなことはありません。崩壊フラグが立っていたとしても、一見、学級運営はうまくいっているように見えてしまいます担任自身は、この静かな状況を自分の指導の成果として見てしまうため、崩壊フラグが立っていても気付きません。隣のクラスの担任なら、なおさらです。水面下で徐々に崩壊が進んでいるのにもかかわらず、本人も周りも、そのことに気付きにくいため、当事者が、ある日いきなり学級崩壊が起こったように感じるのが、圧の強い教師の学級崩壊の特徴です。

それだけに、外部の目が必要になってきます。客観的な目で見ることができる校長先生が「このまま放置していると、クラスは荒れてきますよ」と指摘しなければいけないのです。

ただし、圧の弱い教師と違って、ド直球で攻めてはいけません。そもそも今の状況を悪いことだと思っていない圧の強い教師にとって、未然防止のための校長のアドバイスは、寝耳に水、自分の指導を全否定されたように捉えてしまうからです。 

「圧の強い教師」への具体的な対応例

例えば、計算問題に苦労している子の隣の席の子が、自分は課題を終えて何食わぬ顔で読書をしているシーンを校内をうろうろしていて見かけたら、「あの子は困っている友達が横にいるのに気付かないんだろうか。教えてあげたらいいのに」と思いますよね。ただ、もしかしたら、担任が、「早く終わった人は、自分の席で一人でできることをしてください」と指導しているのかもしれません。確かに、早く課題の終わった子は、騒いで他の子のじゃまをしているわけではありません。でも、これも崩壊フラグの一つなのです。

特に、教師の指導が入った結果、このような風景になったとしていたら、本当にまずいです。意地悪い言い方をすれば「困っている友達がいても、自分がやりたいことをしたらいいよ」ということを教えていることになるからです。もちろん、教師はそのようなことを思っているはずないのですが、子供同士が関わり合うことで静寂が崩れることよりも、静かにときが流れることを(無意識の場合もあるでしょうが)優先していることは間違いありません。このようなことが続くと、友達への配慮ができない子供が増えていきます。そして、何かのきっかけで、教師に対しても、配慮のない行動が出てきます。こうなると、学級崩壊への道、一直線です。そうならないためにも、ここは、校長先生の出番です。

まずしなければいけないことは、「教室が静かな状態をよし」とする教師の意識を変えていくことです。圧の強い教師は、規律のある静かな学級を好む傾向があります。もちろん、そのこと自体は悪いことではないのですが、その思いが強くなりすぎると、「騒がしいクラス=ダメな状態」となり、できるだけ静かな状態を保てるような授業形態を選ぶようになってきます。そして、その結果、子供同士の関わり合いがない状態になるのです(反対に圧が弱い教師は、多少騒がしくてもスルーしてしまいます)。

○○先生のクラスは学習規律が徹底して、みんな静かに集中して課題に取り組んでいますね。

圧の強い教師に対しては、否定から入ってはいけません。自分のしていることに自信をもっていることが多いので、否定されるとその後の指導が入っていかないからです。

ところで、○○さん、計算問題に苦戦していたみたいだけど、算数苦手なのかな?

そうなんですよ。他にも算数が苦手な子がけっこういて、苦労しています。

確かに、先生一人では手が回りませんよね。早く課題が終わった子にお願いしてみてはどうですか? 最近は、このような授業スタイルは結構見かけます。少し騒がしくなるけど、それはいい騒がしさですからね。必ずしも「静かな教室=○、騒がしい教室=×」ではありません。しかも、友達とのつながりもできるし、一石二鳥ですよ。

このように、実践を認めた上で、問題点を指摘するようにします。もちろん、校長先生とその先生との関係性ができていれば、圧の強さに関係なく最初からド直球で指導してもかまいません。

校長が学級崩壊フラグを見抜くには、校舎内をうろうろすることが必須です。そのためのメソッドは、第4回「授業中、校舎内をうろうろしよう」を参照してください。


俵原正仁先生

俵原正仁(たわらはら・まさひと)●兵庫県公立小学校校長。座右の銘は、「ゴールはハッピーエンドに決まっている」。著書に『プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術 』(学陽書房)、『なぜかクラスがうまくいく教師のちょっとした習慣』(学陽書房)、『スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意 』(明治図書出版)など多数。

俵原正仁先生執筆!校長におすすめの講話文例集↓

【俵原正仁先生の著書】
プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術(学陽書房)
スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意(明治図書出版)
管理職のためのZ世代の育て方(明治図書出版)

イラスト/イラストAC

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