小学校理科の「評価観」を変えよう!【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
【理科の壺】小学校理科の「評価観」を変えよう! タイトル

評価と聞くと、ABCを付けるとか、点数をつけるなどの「成績をつける」イメージが強いと思います。そして、一般的には「評価は難しい」「子どもの価値を判断するみたいでちょっと」というマイナスなイメージがあるようです。今回は、このようなイメージを別の視点から見ることで評価をポジティブに考えていこうという提案です。
評価を少し奥深く調べてみると、同じ「評価」という言葉でもいくつかの意味があることがわかります。そもそも、評価は「最終的な人の価値を判断する」ということだけが目的ではありません。何ができて、何ができないのか、どの程度まで到達できているのかをはっきりさせ、それを指導に活かしてできないところをしっかりと指導するためにもあります。どのように評価について考えていけばよいのか一度見直すきっかけとしたいものです。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような“ツボ”が見られるでしょうか?

執筆/お茶の水女子大学附属小学校教諭・杉野さち子
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1 評価をマイナスイメージでとらえていませんか?

みなさん、「評価」と聞くと、どんなイメージをもちますか? 中には、「点数付け」「通知表」といったイメージをもたれる方も多いのではないでしょうか。また、「大変だな…」というマイナスイメージをもたれている方も多いのではないかと思います。今回は、「評価観」を変えることで、プラスのイメージを大きくしてほしいと考えています。

評価は、①学習評価(教師が行う評定:Assessment of learning)、②学習のための評価(指導やその改善のために、教師が行う見取り:Assessment for learning)、③学習としての評価(学習を進めるための子どもが行う自己評価や相互評価:Assessment as learning)があります。下の評価のピラミッドの図を見てください。

図1 評価のピラミッド
図1 評価のピラミッド(Earl、2013)

子どもによる「③学習としての評価(子どもが行う評価)」が土台にあり、その上に教師の「②学習のための評価(教師が行う見取り)」があります。そして、「①学習の評価(教師が行う評定)」がその上にあるのがわかります。これは、上に乗っている評価が下の評価に支えられていることを意味し、面積の大きさでもわかるように、下に書かれている評価が非常に重要ということを示しています。「①学習の評価(教師が行う評定)」は、②と③が基となっているといえるわけです。

最初に挙げた評価のマイナスイメージは、「①学習の評価(教師が行う評定)」に偏った「評価観」から生まれると考えます。評価のピラミッドから分かることは、「①学習の評価(教師が行う評定)」は、「③学習としての評価(子どもが行う評価)」と「②学習のための評価(教師が行う見取り)」を関連させながら学習を進める中で行うものであることです。

このような「評価観」をもつことで、教師にとっても、子どもにとっても、「評価活動が学習をよりよくする」という評価のプラスのイメージとなることを期待しています。
では、このような「評価観」に基づく授業とは、具体的にどのようなものでしょうか。

評価について疑問を持つ子供と評価について悩む教師

2 子どもを評価の主体者にして、評価をポジティブに

まず、評価のすべての土台となる③の評価(子どもが自己評価や相互評価を進める)を充実させた授業を目指します。

自己評価や相互評価をすれば、教師も子どもも評価が学習の役に立っているように思えるようになり、「評定のための評価」というイメージを払拭できると考えるためです。自己評価というと「振り返り」という考えが多いかと思いますが、全体に自分の考えを公開し、他者からの考えを受け、自分の考えを見直すことから「考えを出し合う場面」にも自己評価や相互評価がよく表れると思います。

このような場面での教師の役割はたくさんあります。例えば、「それはどういうこと?」と問うことで、発言した子どもの背景にある考えを引き出したり、「今の考えを、どう思う?」と問うことで、全体に投げかけたりするのです。そうすることで、子どもが自分の考えを見直すことになり、③の子ども自身による評価を促します。

また、子どもの自己評価や相互評価を促すために、先生は記録の工夫をしてみると、学級全体の考えがわかるのでお勧めです。その日のノートから子どもの考えを見取って、どれだけ学習が進んだかを解釈し、記録します(図2)。私は、相互評価を促すために、参考にしてほしい学び方について、次の授業で子どもに紹介するようにしていますが、他にも次のような方法があります。

授業の最後に、今日の学びについて話し合い、自分の振り返りに生かす
振り返りを教室に掲示して、子ども同士で感想を書いた付箋を貼る
一人一台端末で記述を共有し、コメントし合う

図2 授業の見取りと次の授業の計画(第4学年「物の温度と体積」)

授業中と授業後に、教師は、②学習のための評価(教師が行う見取り)を行います。子どもの振り返りを教師が授業に持ち込む仕組みがあることで、子どもは、自分の発言や記述によって、自分や仲間、そして教師が授業を変えていくことに気付くでしょう。評価とは値踏みされることではない、評価は授業をよくするポジティブなことだと感じてほしいのです。また、このような記録は、①学習の評価(教師が行う評定)の材料となります。教師は、確かな証拠に基づく評定ができると同時に、この後どのように支援していくかを明確にすることができます。

3 評価をポジティブに学習に活かそう!―目標を共有する

子どもと教師がともに評価活動を通して学習を進めていくためには、互いに目標を知ることが大切です。私は、授業の初めに、「この時間で目指すこと」を子どもと対話しながら決めるようにしています。

例えば、図2の授業では、「空気の温度を変えると、どのような変化が起こるか、はっきりさせる」という目標を子どもと話し合い、共有しました。そして、子どもが目標達成の過程のどの位置にいるか見取り、必要な助言を行ったり見守ったりします。子どもが授業の終わりに書く振り返りでは、自分の目標に対してどこまで達成できたか、どうしてできたのか、またはできなかったのかという視点を示します。これらは、③学習としての評価(学習を進めるための子どもが行う自己評価や相互評価)と、それを支援する②学習のための評価(教師が行う見取り)になります。

先程の学習目標だけではなく、学び方についての目標も同時に共有しました。私は、この子どもたちの学習の経験や実態から、「友達の考えから自分の考えを見直す力をつけてほしい」とも考えていました。そのため、私が考える「目指す目標」として子どもに伝え、子どもとその価値も共有しました。図2では、教師側の反省として、この目標がどうであったのか指導を振り返り、次の学習を計画しています(ほんのメモ程度です)。互いの目標を明確にすることで、評価の精度が上がるのです。

もう一歩進んで、子どもと評価規準をつくった事例1)を紹介します。第4学年「電流の働き」で、子どもと「主体的に学びに取り組む態度」について考えたものです。まず、学校で決めた評価規準を基に、B規準を示します。次に、子どもと、AやCはどのような姿か考えます。その一つが、図3です。

その後子どもは、どんな姿を目指したらよいか、じっくり考えています。そして、学級の意見を集約し、全体の目標を決めます。これが、図4です。子どもたちは、評価規準のAやBを目指して粘り強く取り組み、振り返りで自己評価しながら自分の学びを調整していきました。この様子も含めて、教師は評定をします。

図3
図3 どんな姿か考える

図4
図4 学級全体の目標へ

これらは、③や ②の子どもと教師による評価活動に支えられた①学習の評価(教師が行う評定)といえます。こちらも、自分の学級では難しいということもあるかもしれません。子どもの実態や自分のやり方に合った方法を見つけてほしいです。

4 来る時代に備えよう

今後、より一層「個の学び」が重視されることが予測されます。そうなったらますます、子どもが評価の主体者となり、それを支える教師の見取りが重要となるでしょう。今こそ、子どもも教師も、「評価は、子どもと教師が学習をよりよくするもの」という「評価観」に変えることが求められると考えます。

 1)山口県周南市立富田西小学校での森戸幹先生のご実践
引用・参考文献
Earl、 L.M. (2013). Assessment as Learning: Using Classroom Assessment to Maximize Student Learning. California: Corwin Press、 pp.25-33
文部科学省国立教育政策研究所(2020)「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料小学校理科」

イラスト/難波孝

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杉野さち子教諭

<執筆者プロフィール>
杉野さち子●すぎの・さちこ お茶の水女子大学附属小学校教諭。札幌市公立教員より現職。理科に限らず、子どもの見取りに関心がある。SSTA通信編集、理科三団体連携企画に携わっている。日本理科教育学会優秀実践賞受賞。
最近の著書は、「子どもと深い理解をつくる授業を目指して」(理科の教育2022年1月号)、「子どものエージェンシーを支える教師の役割」(初等理科教育2022年12/1月号)「アセスメント・リテラシーに基づく実践の公開と省察」(理科の教育2022年12月号)。


寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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