メーカーに聞く「学習者用デジタル教科書」製品レポート #4|東京書籍

1人1台端末が整備され、国の施策によって配布されている学習者用デジタル教科書。2024年4月から小学校の教科書が新版となるに伴い、デジタル教科書も改訂されます。

そこで各社のそれぞれのデジタル教科書には、どんな特徴があるのか。自社製品のよさと特徴、今後の展望などをメーカーの開発担当者に聞きました。今回は東京書籍さんです。(取材・文/村岡明)

学習者用デジタル教科書製品レポート#4

今回の取材先

東京書籍株式会社
教育DX局 DX開発本部 DX企画部企画開発チーム
清遠和弘(きよとう・かずひろ)氏

同社の発行する教科書(令和6年度小学校)について

  • 小学校:国語・書写・社会・地図・算数・理科・生活・家庭・保健・英語・道徳
  • プラットフォーム:レントランスビューア

プラットフォームの変更点

令和6年度版のレントランスビューアには、スクリーンショットの機能が追加されました。ページ全体だけでなく、範囲を指定してキャプチャすることも可能です。教科書の記述を元に考えをまとめたり、交流したりする際に活用いただけます。

また、これまでデジタル教科書はローカル版、ローカルサーバー版、クラウド版の3つの提供形態がありましたが、国の実証事業の環境がクラウド版だったことから、令和6年度版からは原則としてクラウド版に統一することになっています(環境のない自治体には別途対応)。

指導者向けの機能とサービス

指導者用デジタル教科書(教材)は、より多くの先生にご利用いただくために、教師用指導書の付属教材としました。教科書の使用期間内であれば、学校内すべての端末で利用できます。

また児童生徒と指導者が情報のやりとりをする機能は、あえて搭載しませんでした。ほとんどの学校は、すでに何らかのツールを使っているはずなので、それらと組み合わせて活用いただくことを考えています。それに教科書は採択年次が決まっていますので、「教科書が変わったら学習データが消えてしまった」ということがあり得ます。これは学習の継続性という観点で問題です。

コンテンツの充実

コンテンツを拡充したことも、今回の改訂の大きな特徴です。数も内容も充実しました。たとえば算数と英語では次のような特徴があります。

算数コンテンツの特徴

  • 授業に役立つ動画 導入に使える動画・日常の場面から算数の課題を見出すための動画・時速、分速、秒速の意味理解を促進する動画など
  • デジタルドリル 学習内容が確認できるテスト(解答と解説あり)
  • AR(拡張現実)機能 身近なものと比較して1立方メートルをイメージできる機能
  • シミュレーション機能 繰り返し試行錯誤することで学習内容の理解を支援できる
オープニングムービー
デジタルドリル(解答欄をクリックしたところ)

英語コンテンツの特徴

  • デジタルマップ 日本や世界の名所が地図上に文字や音声で表示される
  • ストーリースライド 映像と音声でストーリーが展開し、自然な英語に親しめる
  • モデル映像 Small TalkやYour Goalなどの言語活動の進め方が映像で理解できる
  • 資料映像 「文化探検」「日本探検」など単元のトピックと関連した映像
ストーリースライドのアニメーション
自己紹介の活動を紹介するモデル映像

追加教材集 NIMOT!

小・中学校の先生方の「もっとこんな教材や資料があったら」に応えるコンテンツ集として「NIMOT!」(ニモット)というサービスを提供します。このサービスは、学習者用デジタル教科書でも指導者用デジタル教科書(教材)でも活用可能です。

実証研究の成果

東京都荒川区や茨城県つくば市などにご協力いただき、学習者用デジタル教科書の利用に関する実証研究を行いました。調査項目は「どんな使い方をしているか」「学習者用デジタル教科書の効果・影響」「紙の教科書との違い」などです。この結果、たとえば英語においては、次のようなことが分かりました。

  • 英語で音読課題を出すと放課後の利用率も上がる
  • 家庭学習でも積極的に活用する生徒は定期テストや音読課題の得点が高い
  • 音読練習や英語の発音練習の頻度が向上する
  • ページを見る、教科書本文を書き写すという場合には紙の方が優位
  • 教員研修をきちんと実施すると活用率が上がる
  • デジタルを上手に活用すると発話量が圧倒的に増える

デジタル教科書はインプットのためと思われがちですが、アウトプットの場面でも使うと活用が進むようです。今はまだ授業中にしか活用していない学校が多いですが、家庭学習でも積極的に活用し、発話の量を増やすことが大切です。

とはいえ紙の方が使いやすい場面はまだまだあるので、使い分けが必要と思われます。デジタルと紙、それぞれのよさを生かしている学校が成果を上げている印象でした。

この実証研究については、2024年3月29日に同社よりリリースされていますのでご覧ください。

取材を終えて

学習者用デジタル教科書の取材を進める中で、コンテンツの質と量ともに最も充実していると感じられたのが東京書籍の製品でした。令和5年時点でお使いの先生も「信頼できるコンテンツに自由にアクセスできるので非常に便利」とおっしゃっています。

また、プラットフォームであるレントランスビューアは、ツールボタンが大きいので使いやすいと感じました。一見するとボタンが教科書に重なっているので邪魔に感じますが、教科書部分をタップすると消えるので問題ありません。タブレットの画面がさほど大きくない端末では便利な仕様でしょう。

レントランスビューアでツールボックスを表示させたところ

さらに学習者用デジタル教科書の効果・影響について研究し、その成果を公開しているのは素晴らしいことです。こうした研究成果が共有されることは、学習者用デジタル教科書が今後普及していくために、大いに役立つことでしょう。

一方で先生方からは「コンテンツの読み込みに時間がかかる」「動作が遅い」などの声も寄せられました。これは学校のネットワーク環境のせいかもしれないものの、製品側でも工夫の余地があると感じます。また「コンテンツが充実している分、従来の一斉指導型授業ではなく、新しい授業方法を開発しなければならないのでは」という声も寄せられました。この意見は今後の活用へ向けて、重要な提言でしょう。

取材・文/村岡明
国語教科書編集者を経て「ジャストスマイル」など教育ソフトを多数企画する。その後教職員向けのネットマガジンを創刊。ソフトウエア開発、Webサービスの開発を20年以上経験している。

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