ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #14 「Goal 7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに」|長谷泰昌 先生

連載
ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~

北海道公立小学校教諭

藤原友和
ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #14 「Goal 7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに」

全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回は「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」を学ぶ授業実践提案です。提案者は、北海道の長谷泰昌先生です。

執筆/北海道公立中学校教諭・長谷泰昌
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

はじめまして、北海道の釧路市に住んでいる長谷泰昌と申します。
釧路湿原のすぐ近くにある鶴居村立幌呂中学校で教員をしています。校庭にはタンチョウが飛来し、総合的な学習の時間ではタンチョウへの給餌活動をはじめ、地域のひと・もの・ことに触れる学習を進めています。
Goal 7の気候変動対策という大きなテーマを「地元の課題」として考えることで、より自分事として向き合っていけるのではと考え、授業をつくりました。
残念ながら対応する理科の単元「自然と環境」「科学技術と人間」は三学期の学習内容ですので、執筆時点では実践結果ではなく、翌年に向けた授業の構想になります(執筆時点では、①と②の授業のみ実践済み)。③以外は簡単な授業内容のみ紹介します。

2 Goal 7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」とは

この目標は、エネルギーの生産・流通のコストダウンや効率化、開発途上国への支援、CO2削減に寄与するクリーンエネルギーの割合を大きく増やすことを目指しています。

3 授業提案

(1)対象学年 中学3年

(2)教科及び領域 総合・理科・道徳・社会 主題名:地域と共に進めるクリーンエネルギー 

(3)全体のねらい 現在のまちのエネルギー源(と温暖化対策)、自分たちが住む地域の土地利用やまちづくりに携わってきた人々の思いと行動について知り、課題意識を持って情報収集・比較検討を行い、その情報に対する自己の価値観・判断を明らかにしながら、より良いまちづくりについて考えを整理する。

(4)授業展開

①理科 釧路湿原での体験学習 6月頃、全8時間
総合的な学習の時間で扱うタンチョウの生息地に足を踏み入れるとともに、科学的に自然を研究する方法を学びます。通常は立ち入ることのできない湿原での体験学習は、知識・技能・思考だけでなく、驚きや感動といった感情を伴った体験となりました。
なお、この学習の成果を観光客にむけてまとめ、地域の自然センターに掲示すると共に、ラムサール条約シンポジウムでの発表に活かしました。

②道徳(郷土を愛する態度)自主教材:ラムサールの手前に(修正版)
体験学習や事前学習でお世話になったガイドの過去の活動(ラムサール条約締結)を軸に、人々の繋がりが広がることで、地域の未来をつくり出せることを知り、自分事として地域に関わる意義を感じるとともに、郷土を愛する態度を育てることをねらいました。
主な発問
「開発派の人々が、保全派の田中さんやSさんと話し合おうと思えたのはどうしてなのでしょう」
「活動継続を支えたものには、何があったのでしょう。班でいくつか考え、大切だと思うものの順に並べてください」
「自分たちの住んでいるところを大切にすることで、田中さんやSさんは何を得たのでしょう」
こうした発問に対し、生徒たちからは、
【人々の繋がりが活動を支えた、繋がることで活動が実現する、自分の地域を自分たちの願いでつくっていくことができた】などの記述がありました。

資料写真1・2

③理科(科学技術と人間) 【 】内は想定される生徒の答え
ねらい 地域の自然環境の保全と科学技術の利用のあり方について調べ、科学的に考察することを通して、持続可能な社会をつくることが重要であることを認識すること。

CO2の増加と気温の上昇のグラフを見る。
「CO2は炭素と酸素の化合物です。どのような化学反応によって生まれますか?」【燃焼・酸化】
「産業革命後、人類は何を反応させて(燃やして)エネルギーを得ていますか」【化石燃料】
「あなたの家庭で、最も活用しているエネルギーは何エネルギーですか?」【電気】

コンセントの画像を出す。
「電気はどこから来ていますか?」【電線・発電所】
「では、釧路にはどのような種類の発電所がどこに何基あるか知っていますか?」
【水力?火力?一基だけ?太陽光発電はある、うちの屋根にもある、原子力・風力発電はない、等。多くの生徒は知らないと予想する】

発電量が大きいのは釧路火力発電所であること、その他にも企業の持つ火力発電・バイオマス発電などがあることを紹介する。また送電・交流電流の仕組みとして、釧路で発電した電気はまず他の地方に送られ、再び分配されることを簡単に伝える。(地産地消や停電時の給電には難がある)
「化石燃料を燃やす火力発電の問題があるとしたら何でしょう」【CO2、地球温暖化】

いくつかの発電方法について仕組み、メリット・デメリットを確認する。
「CO2は排出しないが、発電量は低いと言われる再生可能エネルギーの現状から学んでいきましょう」

北海道電力株式会社・再生可能エネルギー電力供給/割合実績(以下のようなグラフ。北海道電力株式会社サイトより)を見る

<1年間>資料データ1

<2016~2023>資料データ2

「年度、季節の変化から、どのような傾向があると考えますか?その傾向から、エネルギー供給に関し、どのようなよさや課題があると言えそうですか?」
【再生エネルギーだけで供給率100%になっているときもある、そんなに供給できているとは思わなかった、確かに太陽光パネルを見る機会が最近増えたかも、CO2も減らせそう、冬は消費が激しい、まだ再生エネルギーが不足している】

■↓太陽光発電事業の推移(出典・もっと釧路湿原 学習会資料)

パリ協定(COP21)の目標に対する達成率を確認する。
【削減目標までの差が大きい、時間がない、温暖化を止めるにはまだ不足している】

釧路近郊の太陽光発電施設の写真や新聞記事を掲示。
屋根の上や開発済み地域に設置しているものの他に、山林伐採して丘陵地に設置しているものや、釧路湿原を埋め立てたり海岸線を覆うように設置されたりしている様子が新聞などで取り上げられている。
「釧路も、もっと太陽光パネルをどんどん設置していけばいいのでしょうか」
【温暖化対策のため建てるしかない、森を切り拓いて建てているのは変ではないか、等】
「今後の再生エネルギーの導入にあたり、釧路の現状を調べてみましょう」

資料画像3

理科・総合(地域学習)
写真やニュースを見て気になったことを発表し、全体で問いを集める
専門家に聞いてみたいことをICT上で共有する。以下のような疑問が予想される
【自然を埋め立てて太陽光パネルを建てていることへの違和感、ここ数年で急激に増えたこと、大規模な設置による景観の悪化や貴重な生物への影響に対する驚き、ラムサール条約で守られているのではないのか、津波対策、停電時対応、耐用年数と不法投棄のリスクなど】

再生エネルギーの重要性と共に課題も知り、どのように電力を得ていく地域・街にしたいか意見を発表する。

理科・総合(地域学習)
専門家への質疑応答(地域のNPOや研究施設、市町村の環境保全課など対応にあたっている部署に依頼する。ZOOMやメール、村役場職員の来校などを想定している)

⑥社会
授業質問の答えを整理し、再生可能エネルギーに関わる情報、考える根拠を共有する

情報を参考にしながら、電気に関わって、地域に住む私たちが、この町をどのような街にしたいか、どうなると嫌なのか意見を集める。その上で、以下の二つに取り組むことを伝える。

A:釧路市で必要な電力数値を基に、どのように配置したいか考える。
B:釧路市全域で、他の地域の電力も担う(何万kWを担うか選択)場合の配置を考える(必要W数、日本と釧路市の人口、それぞれの土地面積などの情報を渡す)。

【自給自足したい、発電していない地域の分も担わないといけない、売電するといい、設置方法を自然環境への負荷の小さなものにすると良い、設置場所をすでに開発された地域にすると良い】などが考えられる。

考えた配置プランのねらいと根拠を示せるよう以下の活動に取り組む。

保全されている地域とされていない地域の境界線と(建設可能か)を書き込んだ衛星写真の印刷物を用意する。
また、キタサンショウウオ(釧路市指定の天然記念物)の生息適地マップを渡す。生徒は、地図に模型を置きながら土地利用とその理由・根拠を考える。
火力発電所(発電端112,000kW)、太陽光パネル5㎡(1kW)100㎡(20kW)など記載されたモデルを置く。

キタサンショウウオの生息適地マップ
↑キタサンショウウオの生息適地マップ

釧路市に必要なエネルギー、温暖化対策のためどこまで再生可能エネルギーを導入できそうか、また持続可能な社会にむけてどのように考えて設置したか、どのような町にしたいと考えたかを発表する。 

4 想定している授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり

持続可能な社会にむけ、CO2排出量を減らしながら電気を得るために、急速な対応が求められています。
しかし、地元住民の声が反映されず、自然環境を壊して再生可能エネルギー施設ができることや、不法投棄のリスクなどのニュースが日本全国で散見されるようになりました。
今回の学習では、「地域の自然を体験的に学ぶこと(理科)」「地域の自然と関わり続けた人々の思いと歴史から、「自分事」として地域について考えること(道徳)」「自分たちのまちの課題について調べること(総合)」「データ・資料分析を参考に自分たちが暮らすまちの未来、自分たちが望む生活の意味・価値について見つめながら未来を描くこと(総合・社会)」を構想してみました。
課題は、「自分の地域さえよければ良い、という結論にならないような構想ができるか」「再エネ施設建設に関わる仕事をしている家庭があることも考慮しつつ、不要な土地を所有している人の土地を売りたいという思いや、所有権を侵害しないように考えることができるか」等です。
また、政治に関わる部分があるため、学校では扱いにくい部分もあると考えます。

【参考文献】
北海道電力株式会社・再生可能エネルギー電力供給/割合実績
株式会社釧路火力発電所
環境省 4.日本の中長期目標とその達成のための施策
太陽光発電施設の問題を環境倫理学から読み解く 江戸川大学社会学部講師 吉永明弘
「NIMBY のどこが悪いのか」をめぐる議論の応酬 江戸川大学社会学部講師 吉永明弘
北海道生物多様性保全ダイアログ 第6回「メガソーラーと生物多様性:今、釧路湿原で何が起きているのか」 提示資料
北海道生物多様性保全ダイアログ 第8回「地域の環境保全と再生可能エネルギーの両立をめざす道内自治体の取組」 提示資料
画像 ふるさと納税:釧路町
画像 東洋経済新聞 北海道「釧路湿原」侵食するソーラーパネルの深刻
・もっと釧路湿原 学習会資料


この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!

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