ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #13 「Goal 6 安全な水とトイレを世界中に」・その2|阿次冨一輝 先生
全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回は「安全な水とトイレを世界中に」を学ぶ授業実践提案の第2回です。提案者は、沖縄県の阿次富 一輝先生です。
執筆/沖縄県公立小学校教諭・阿次富一輝
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和
目次
1 はじめに
沖縄県の石垣島で、今年度初任者として奮闘中の阿次富一輝です。
生まれ育ちは沖縄本島の勝連町で、石垣島での生活はもちろんのこと、文化や行事に触れるのも初めてです。初めて尽くしの1年ですが、「何事にもぶつかってチャレンジ」をモットーにしています。
今回は社会科や総合的な学習、道徳の授業で地域についての知識、理解を深め、Goal 6「安全な水とトイレを世界中に」について協働的に学ぶ機会にしたいと考え、実践しました。
石垣島の水道環境は、戦後に整えられました。子どもたちには、実際に浄水場見学をしたり講話を聴いたりするだけでなく、いつでもどこでも水が飲める環境になった歴史を知ることを通して、水の環境を持続可能なものにしたいという視点を獲得し、SDGsについて考える機会になることを期待します。
2 SDGsのGoal 6についての解説
SDGsのGoal 6「安全な水とトイレを世界中に」について解説します。
Goal 6は、「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」のテーマのもと、8個のターゲットから構成されています。「安全な水と衛生的な環境の整備(6-1,6-2,6-3,6-a,6-b)」「水資源の持続可能な活用・整備(6-4,6-5,6-6)」が大きな目標です。
【安全な水と衛生的な環境の整備】
水設備のない暮らしをしている人は、世界の人口の4分の1(約20億人)、安全に管理された飲み水やトイレが使えない人は約36億人で、これは世界人口の約半分にあたります。
生きるために欠かせない水のインフラが整備されていないために、人々の健康が害され命を落としてしまう現状があります。また、多くの地域では、生活に欠かせない水を確保するために「水くみ」をしなければいけません。その水くみを担っているのは主に女性や子どもで、水くみのために学校に通えなかったり、事件に巻き込まれたりする危険があります。
【水資源の持続可能な活用・整備】
水は生活以外にも、農業や工業・畜産業など産業にも欠かせないものです。生きていくために必要な水が、地球温暖化や人口増加、経済の発展などにより、今後ますます不足することが予想されます。
安全な水をこれからも使い続けるために、水資源の持続可能な活用と整備は必須の課題です。
日本では蛇口をひねればいつでもどこでも水が使えますが、世界ではそのような環境にない人がたくさんいる、という現実を知り、自分事として考えていくことが、よりよい社会の実現、ウェルビーイングをつくる一歩になるのではないかと考えます。
3 授業の実践
(1)対象学年 小学校4年
(2)教科及び領域 道徳科 内容項目C14「勤労・公共の精神」「島人の命を守る ~牧志宗得」
(3)ねらい 戦後、市民の命を守るために水道事業推進を諦めなかった牧志宗得市長の姿を通して、市民のために働くことの意味を考え、みんなのために進んで働こうという心情を育てる。
【SDGsとの関連】
市民の命を守るために水道を整えようと尽力した牧志市長の姿を通して、困難があっても市民のためにできることをやり続けたことの価値に気付き、みんなのために働こうという心情を育てる。
(4)授業展開
●戦後という時代背景を説明し、上記の問いを投げかけました。1番と解答した児童が一番多く、3番と答えた児童はいませんでした。
●牧志宗得さんの生い立ちや当時の状況などを紹介して、当時の島の人々の安全には水が必要だということを児童と確認しました。
●当時の牧志宗得が、「資金がない」「水道管を返せ」「水道より食糧だろ」と、島の人々から非難されたことを、「しくじり」として紹介し、「あなたなら続ける?」という問いを児童に投げかけました。
児童からは、「せっかくみんなのためを思って働いているのに、こんなことを言われるなら続けたくない」という意見が多く出ました。
その一方、「大切な水をどうしてもみんなに届けたいなら、やめたらもったいない」という意見もありました。
●ついに水道工事が成功したことを児童に伝え、「牧志さんについてどう思う?」という問いを投げかけました。
児童からは、「あんなにしくじったのにやり遂げてすごい」「自分だったらあきらめていたけどやり遂げてすごい」「牧志さんがいなかったら、今の石垣島の水道はどうなっていたんだろう」「私が今水を簡単に使えているのは、牧志さんのおかげなので、感謝したい」という意見が出ました。
●最後に「牧志さんはどうして頑張れたの?」という問いを児童に投げかけました。児童からは、「医者として、人々の安全を守るためにはどうしても水が必要だったから頑張れた」という発表がありました。
(5)児童による授業の振り返り
●牧志さんが水道を作って、その後の人たちも大切につないできた「水」を大切に使いたい。
●あんなにしくじって周りからも色々言われたのに、石垣島のみんなのために動いた牧志さんがすごかった。僕も諦めずに頑張りたい。
●牧志さんもやめたいと思った気持ちもあったと思うけど、自分の気持ちより市民の命を優先に考えていてすごいと思った。牧志さんが作った水道をこれからも大切に使っていきたい。
●牧志さんがいないと今の生活がないということが分かった。
【児童の振り返りを受けて】
身近に使っている水・水道が、牧志さんのおかげで整備されたという歴史を知り、児童が「水を大切にしよう」というSDGsの観点を持って学習に取り組んでいたように思います。
自分たちが住んでいる石垣島も、70年前までは自由に水を使えなかったという事実に気付き、世界にはまだまだ水が使えない国や地域が沢山あることにも気付いていくことで、学びがさらに深まっていくのではないかと感じました。
4 授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり
【成果と課題】
●地域の歴史、人物を取り上げることで、課題を自分事として捉えて考える機会となり、SDGsへとつなげることができた。
●安全な水を使うことが実は当たり前のことではなく、多くの人の努力によって支えられているということ、世界にはまだ安心して水を使えない人がたくさんいることを知り、視野を世界に広げ考えようとしていた。
●道徳的な心情とつなげた振り返りが少なかった。
【他教科・他領域とのつながり】
4月から総合的な学習を核にした地域学習に取り組んでいます。地域のゲストの講話や見学を通して、地域の魅力(島の宝)を見つけるためのヒントを集め、探究学習に取り組んでいます。
道徳科では、地域の文化継承のために尽力した人物を教材として取り上げ、自分たちの暮らしは先人の苦労や努力によって築かれていることを知り、未来に向けてよりよい島にするために自分ができることは何かを考えました。
社会科では、自分たちの暮らしを支える仕組みやまちづくりについて学習しています。暮らしを支えるインフラの整備は必要不可欠であり、全ての人が安全で健康に生きる世界にしたいというSDGsの「持続可能」というキーワードにつながっていることから、SDGsを考える上で大きなきっかけとなっています。
【参考文献】
・SDGsジャーナル(SDGs支援機構サイト)
・SDGs CLUB(公益財団法人 日本ユニセフ協会サイト)
・ソーシャルグッドcatalyst 社会課題の解決をめざすウェブマガジン
・牧志宗得先生をしのぶ(牧野清編)
・牧志宗得先生をわたしたちの石垣市(石垣市教育委員会編)
この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!