ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #08 「Goal 4 質の高い教育をみんなに」|中島征一郎 さん
全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回からは「質の高い教育をみんなに」を学ぶ授業づくりについて提案します。提案者は、新潟県のNPO法人の理事長・中島征一郎さんです。
執筆/NPO法人 Grow Up 理事長・中島征一郎
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和
目次
1 はじめに
はじめまして。新潟県でNPO法人Grow Upの理事長をしている中島征一郎と申します。
私は、今回の執筆者の中で唯一教員ではありません。
私の子どもがいじめを受け、その対応に1年近く学校と向き合ってきた経験から、「誰にもいじめを経験してほしくない」と考え、いじめをなくすことを目的として仲間と共にNPO法人Grow Upを立ち上げました。
当法人では、外部講師として授業や職員研修、保護者向けの講座を行っています。他にも、プロのコーチとして保護者の方や学校の先生方の個別相談を受け、問題解決のサポートを行っています。
2 SDGsのGoal 4についての解説
Goal4「質の高い教育をみんなに」。この目標は、すべての人々が包括的で公平な質の高い教育を受けることを目指しています。
SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)*1では「MDG2 普遍的初等教育の達成」として小学教育の普及等を目標にしていましたが、SDGsでは、より広い範囲の人たちに質の高い教育の普及とアクセスを包括的に目指しています。
具体的なサブターゲットが5項目あります。
1.教育への平等と包摂の確保
2.質の高い教育の普及
3.生涯学習の機会の拡充
4.ジェンダー平等の推進
5.持続可能な開発のための教育
質の高い教育とは、読み書きだけでなく批判的思考や問題解決能力を向上させる事であり、学習指導要領にも三つの資質・能力として「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力など」「学びに向かう力、人間性など」が記載されています。
また、子どもや性別だけでなく、年齢に関係なく学び続ける文化を醸成することを目指しており、私たち大人も学び続けることが求められています。
3 SDGsのGoal 4についての授業の実際
私は教員ではありませんので、「授業の実際」ではなく、2023年8月に行った小学校での職員研修の準備と実践について解説していきます。
講師が研修内容の裏側を公開するのは、手品師が手品のタネをバラすようで複雑な気持ちですが、この記事が「質の高い教育」への一助となればそれに勝る喜びはありません。
私の考える質の高い教育とは、「教わる側の特性や能力に依存せずに、自分事として捉え、変容を促す学びの場」です。ただ知識を伝えるだけでは、質の高い教育とは言えません。その知識を日常で活かすために、ワークとシェアを研修に組み込んでいます。「学びを楽しんでいたら、変容していた。」というのが理想です。
授業展開としては、日本道徳教育学会で研究発表させていただいた、道徳授業に苦手意識がある先生向けにU理論*2を参考に開発した「道徳授業準備支援ツール 道徳マップ*3 」を用いました。
縦に流れる指導案と異なり、左上からU字を描き右上へと進んでいくフレームワークです。研修の流れを感じていただけると嬉しいです。
⑴学年 学校職員全員
⑵教科及び領域 勤務時間内の職員研修
⑶ねらい 先生方が自分の価値観を手放し、子どもの価値観に興味を持つことで、子どもたちや他の先生方に寄り添う力を育む。
⑷教材 子どもの自己肯定感を高める関わり方「つみきメソッド」
⑸授業展開
※以下の図(↓)をクリックして拡大し、左上から下へ進み、下端からは右へ、右端にたどり着いたら今度は上へ進む、という流れでお読みください。中央のスペースには内容項目とねらいが記されています。
今回は「子どもの自己肯定感を高める関わり方」と題して、プロコーチとして活動する私のコーチング技術をフレームワーク化した「つみきメソッド」*4と、その土台となる理論をお伝えしました。
ですが、難しい内容をそのまま伝えては、受け取ってもらえません。意欲だけでなく、知識や経験に差があるのは当たり前ですから、学ぶ側に依存せずに、分かりやすい表現や構成にする必要があります。
今回の研修の中でも重要ですが分かりにくい、自我発達理論*5については、第一者視点を「自分めがね」、第二者視点を「相手めがね」と噛み砕いた表現にしました。
内容構成も大切です。導入から理論の解説を行うと、やる気のある先生しかついてこられないでしょう。
ですから、早い段階でワークを行い、自分事として捉えるよう促した後に、知識をお伝えしています。その後、一番伝えたい子どもたちとの関わり方について再度ワークをしていただきました。
今回は、視点の切り替えが重要ですから、各ワーク後に小グループでのシェアの時間を入れて、アウトプットすることと、他者の意見を聞くことに多くの時間をかけています。
実際に研修を行う時に大切なのは、心理的安全性とアハ体験です。
今回は、小グループでのシェアを行う際に、人前で自分の考えを話すことに対する心理的抵抗感を可能な限り小さくするため、「他の先生方と違う意見の方が学びが深まります。」「皆さんが子どもたちにやらせている事ですが、やっぱりドキドキしますよね。」等の話をしています。
また、アハ体験と言っても、ドッキリさせる必要はなく、内容構成により「前半のワークが後半のワークにつながっているのか!」と感じてもらえるようにしています。
さらに、あえて民間としての私の意見を伝えることで、先生方が「そんなやり方があるの!?」「それでいいの!?」とより視野を広げていただくことを意識して話しました。
4 授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり
⑴ 授業の成果
研修後のアンケートでは、9割近い先生方に最高評価をいただきました。
記述欄にも「今まで自分が良かれと思っていた事が『自分めがね』であった可能性が高いと感じた」といった、自分の視点を替えることの大切さを感じた先生が多数いました。
他にも「外部講師の視点を学ぶことで視野が広がった」等、たくさんの感想を記入していただきました。
また、研修の翌日以降でも、「自分めがね」についてや「夏休み明け子どもたちに興味を持って関わりましょう」等の、研修の内容を活用している先生方の姿が見られるとご連絡をいただきました。
以上により、先生方の変容を促す「質の高い研修」ができた、と考えています。
⑵ 授業の課題
今回の研修は1時間でしたので、伝えたいことをかなり削ったのですが、ワークの時間をもっと多くした方が、より深いシェアになったと思います。
また、1回の研修で先生方に定着するのは難しいですから、実際に子どもたちや他の先生方との関わりから感じた事をリフレクションする研修を提案しています。
⑶ 他教科・他領域とのつながり
「教育の質を高める」には、「自分めがね」のままでは高まりません。
子どもたちに興味を持つ「相手めがね」に替えることで、子どもたちの心理的安全性が高まり、教科指導や生徒指導での成果を高めることにつながります。
…と文章にすればわずか89文字ですが、自分事で捉えることは難しいものです。
自分が教わる側に立つことで、子どもたちに寄り添うことができますから、他教科の授業でも学級経営でも転用が可能です。
もちろん、子どもたちに限らず、保護者との関わりや、職員間のコミュニケーションといった学校経営にも効果的です。
【参考文献】
*1 公益財団法人日本ユニセフ協会HP「ミレニアム開発目標」2023/09/2取得
*2 C・オットー・シャーマー「U理論」英治出版 2017 中土井 僚 由佐美加子 訳
*3 道徳が苦手な先生のための「道徳マップ」紹介動画 2023/09/2取得
道徳授業が苦手な先生のために開発した「道徳マップ」公開します! 2023/09/2取得
*4 「つみきメソッド」子どもの自己肯定感を高める関わり方 2023/01/22取得
*5 スザンヌ・クック=グロイター「自我発達理論における9つの段階の詳細」2005 門林 奨 訳
この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!