micro:bitやViscuitで思考力を育む理科の授業 ー つくば市立前野小学校・内田卓先生のICT実践
平成29年度から先行的にプログラミング教育をスタートした茨城県つくば市では、現在「第2期つくば市プログラミング教育 for PBL」が推進されています。つくば市立前野小学校の内田卓先生はこの実践として、「児童がプログラミング的思考力を働かせて問題解決に取り組む理科の授業」を行っています。どんな授業なのか、詳しくお話を聞きました。
内田卓(うちだ・すぐる) つくば市立前野小学校
つくば市ICT教育推進委員、教務主任。ICT活用の実践に取り組む。MIEE、micro:bit champion、Google認定教育者レベル1・2、ロイロ授業デザイントレーナー。特定非営利活動法人教育の環、Coder Dojoつくばほか幅広く活動。共著「ICT“超かんたん”スキル」。ICT夢コンテスト 2018年度 宮島龍興記念教育賞
目次
プログラミング的思考を育む系統的な理科の授業計画
私は子供たちがプログラミングをより身近に感じ、系統的にプログラミング的思考を育むために「理科」が果たす役割は大きいと考えています。そこで、プログラミングを通して問題解決に取り組むことができる、小学校3年生から6年生まで一貫した理科の授業開発を行いました。
プログラミングを身近にするために使うツールとして選んだのは、Viscuit (ビスケット)、Scratch (スクラッチ)、そしてmicro:bit (マイクロビット)です。
小学校理科の「電気」の領域では、3年生から6年生の間に、「電気をつくる・ためる・つかう」、「電気を光・音・熱・磁力・運動として利用する」そして、「便利な暮らしは電気の働きによるもの」だということを学習します。
私はmicro:bitを使って、3年生の「電気の通り道」から6年生の「電気の利用」に至るまでを、系統的に、実際に仕組みを体験しながら学ぶ授業計画を立てました。micro:bitを使ったのは、エネルギーの変換と保存について外部機器を使って行う「ものづくり」活動にとても適しているからです。例えば3年生では「通電テスター」を、4年生では電気自動車を止めるスイッチを、micro:bitのプログラミングを体験しながら作ります。
同時に、プログラミング的思考を育み、いろいろなツールの利用に慣れるために、電気以外の領域でも、フローチャートを使った分類をアンプラグドで行ったり、Scratchでクイズを作ったりするさまざまな活動も計画しました。
micro:bitの「通電テスター」で身のまわりのものをチェック
3年生の「電気の通り道」の単元は、身の回りには電気を通すものと通さないものがあることを理解し、身近なものについて予想して、実際はどうなのか確かめるのが目標です。今までは、電気が流れるかどうかを豆電球の点灯で判断するテスターを使っていました。この豆電球を、micro:bitに置き換えて、電気が流れた時にアイコンが表示されたり、音が鳴ったりする「通電テスター」を作ることにしたのです。
授業は、豆電球に明かりがつく条件はなんだった?という質問からスタートし、明かりがつく電池のつなぎ方や、電流の通り道は「回路」で、電気を通す物質は「金属」だということなどを復習します。そして、豆電球の代わりにmicro:bitを使った「通電テスター」で、身の回りのさまざまなものをチェックするという授業の目標を伝えます。
micro:bitのプログラミングは、「もし電気が流れたら」というシンプルな条件分岐を使い、2人1組で協力して行いました。回路の一部をmicro:bitに置き換えるだけなので、授業時間を増やさずにプログラミングに取り組むことができます。結果を表示するアイコンや音は、自分たちで好きなものを選び、ペアによって違うテスターが出来上がりました。
テスターで実際にチェックする前に、まず教室にあるいろいろなものについて、どんなものが電気を通すのか、通さないのかをペアで予測して、ロイロノートの思考ツール「ベン図」を使って分類しました。その後実際にテスターでチェックします。
調べるものについては私からは指示せず、子供たちは自由に教室中を探します。鉢植えの植物や自分の顔を試す児童もいました。調べた結果は予測でも使った思考ツールにまとめ、ロイロノートの提出箱で共有してもらいます。それぞれの提出箱をお互いに見られるようにして、まわりがどう進めているかチラ見しながら作業しました。この結果を、私が気づいたことを書き足せるように電子黒板に映し出して、各ペアに発表してもらいました。
この取り組みで、子供たちは、身の回りのものには、電気を通すものと通さないものを組み合わせて作られているものもあり、そのために電気を安全に利用できるということを楽しく学ぶことができたと思います。「通電テスター」の作成を通して、子供たちは、プロブラミングに関しては「条件分岐」を使いこなすという目的を達成できました。
4年生では、「電気自動車を止めるプログラミングスイッチ」作りに取り組みました。「電流の働き」で直列・並列の回路を学ぶときに、モーター、電池、導線、スイッチがついている電気自動車のキットをよく使います。この電気自動車は、電気が流れるとどこまでも走っていくため、止めるには追いかけていってスイッチを切らなくてはなりません。 そこで、スイッチの代わりに「Aボタンを押した時に電流が流れ、2秒後に止まる」などとプログラムしたmicro:bitを取り付けて、自動的に止まるようにしました。このプログラムを作ったことで、子供たちは自動運転の仕組みの基礎を身につけることができたと思います。
プログラミングを取り入れた理科の授業を行った結果、子供たちは「理解や解決のために、問題・事象・活動等を分解して考える」という、プログラミング的思考ができるようになりました。また、自分で考え、試行錯誤して粘り強く取り組む姿勢も見ることができました。
Viscuitを使って生物の変化や生命の連続性を表現
Viscuit(ビスケット)は、「メガネ」を使って、右側にあるものが左側にあるものに変化するプログラムが作れるツールです。私は理科の「生命」の領域を学ぶ際に、3年生から6年生までの全学年でこのViscuitを活用しています。
授業では、まずViscuitのメガネのような「リアル」メガネを用意しました。子供たちは、このメガネで、自分が見たい生物にフォーカスし、変化の様子を当てはめてみて「生物の成長には順序があること」を学びます。さらに、記録のために、デジタルの「メガネチャート」を作って配付しました。ここに今日観察したもの、前に観察したもの、次の観察時の予想を入れて、生命の連続性を記録するなどして使います。メガネを思考ツールとして使うことは、思考を可視化すること、単純化することにとても役立つと思っています。
そして、Viscuitのプログラムを使って、生物の変化の予想や、学んだことのまとめを、一人一人が自由に表現しました。デジタルのメガネチャートはそのままViscuitで使うことができます。3年生では、「ヒマワリの種まき」で、種が芽を出して、大きくなり、花を咲かせて枯れるという変化を、4年生は「春の生き物」で、タッチすると花が咲いたり散ったりする様子を、5年生では「メダカの受精」で、オスとメスが出会うと卵を産むことを表す作品ができました。
6年生では、「食物連鎖」を表現しました。メガネを使って、メダカの餌になる生物と、メダカ、それを食べる大きな魚を動かします。子供たちは、このメガネの数を調整することで、どの生物が生き延びて、どの生物が絶滅するかを表現しました。メガネで作る生物の動きはランダムに出てきます。それを制御するためにメガネの組み合わせを工夫したりする過程で、子供たちはプログラミング的思考ができるようになっていきました。 食物連鎖のプログラムはこちらでご覧いただけます。
ICT活用はまずやってみて子供たちと一緒に学ぶ
Viscuitを使うと、子供たちは自由な発想で作品をつくります。例えば3年生なら、ヒマワリの種が芽吹いて最後に枯れるまでの順序を表現できればいいのですが、周りに笑顔の人がいたり、青い空が描かれたりします。6年生では、SDGsにまで発想を広げて作品を作る児童もいます。Viscuitを使った活動を通して、理科の学習や、プログラミング的思考を身につけるという目的を達成するだけでなく、創造性を育むこともできていると思います。
Viscuitを使うのはもちろん理科だけではありません。まず、Viscuitサイトの「がっこうでつかう」にある「ビスケットのきほん」のお弁当作りから始めて、解説動画を見て、先生がサポートに回りながら、みんなでプログラミングを覚えます。授業では、算数の九九や国語の漢字、図工の模様作り、社会のまちづくりなど、なんにでも使います。学んだことをキャラクターにして、シューティングゲームのような学習ゲームもよく作っています。Viscuitには共有ボタンがあって自由に他の人の作品を見ることができますし、画面に全員の作品が表示されるビスケットランドも子供たちに人気があります。Viscuitを使う授業では、子供たちはみんな笑顔になります。
micro:bitもViscuitもScratchも、なじみがなく、今回ご紹介したような実践には手が出しにくいという先生もいるかもしれません。でも、ICTツールは、できるようになってから使うのではなく、まず始めてみて、子供たちと一緒に学んでいけばいいのです。うまくできた児童、得意な児童に聞いて教えてもらうのもいいでしょう。まわりに詳しい先生がいたら頼ったり、できる先生がいなかったら一緒にやってみたりして、どんどん仲間を作ってください。ICTの勉強会やグループもたくさんあるので、参加してみるのもおすすめです。ICTツールを活用して、楽しみながら、子供たちのプログラミング的思考や論理性、創造性を育んでほしいと思います。
取材・執筆/石田早苗
教育現場でICT活用を実践している先生や学生たちが、その実践事例やノウハウをプレゼンテーション形式で紹介するYouTubeチャンネル「iTeachers TV 〜教育ICTの実践者たち〜」はこちら → https://www.youtube.com/iteacherstv