理科授業での “振り返り” で「問題解決の力」を育てる 【理科の壺】

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理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~
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國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓

理科授業の振り返りは、どのようなことをさせていますか? 振り返りをする際、子どもたちがどのようなことが書けることを想定していますか? 振り返りの時間には、①教師が子どもの理解度を確認するため、②子どもが自分自身の理解を確認して強化するため、③子どもが自分の考えを見直すため、など、いくつか役割があると思います。今回は、「意味のある振り返り」がテーマです。具体的にどのように振り返りをしたらいいのか考えてみましょう。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような“ツボ”が見られるでしょうか?

執筆/筑波大学附属小学校教諭・志田正訓
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.振り返りの際、どんな声かけをしていますか?

「では、今日の授業の感想を、ノートに書いてみましょう」

理科の授業が終わって、その授業について振り返るときに、こんな言葉で子どもたちに授業の振り返りを書かせていませんか? でも、振り返りは、その授業時間を文字通り「振り返り」、その授業で大切だったことを改めて思い出したり、その授業で学んだことを、他の生活と結び付けたりすることができる貴重な時間です。上のような声かけだと、子どもたちは、授業について、自分が感じたことに注目し、「楽しかった」とか、「もっとたくさん実験してみたかった」といった、自分の感情に沿った記述が多くみられることでしょう。これでは、効果的な振り返りができたとは言えません。

2.どうして振り返りをするの?

そもそもなぜ授業の振り返りをするのでしょうか?

その答えの一つは、子どもたちに問題解決の力を育成するためです。例えば、第5学年の「発芽の条件」に関する学習で、種子の発芽に必要な条件を制御しながら実験の方法を考えたとしましょう。授業が終わって、「実験方法を考えるときには、条件を制御しながら進めることが大切なんだ」ということを授業を受けた子どもたち全員が考えられるようになったといえるでしょうか。私は子どもたちが授業について振り返り、「条件制御に注目して実験の方法を考えることが大切なんだ」ということを自分の言葉で書けたときにこそ、授業で学習した大切なことを学んだといえるのではないかと思います。

3.視点をしぼって声かけをしてみましょう!

では、子どもたちに問題解決の力を育成するためには、振り返りのときにどんな言葉かけが必要なのでしょうか。それは、「視点をしぼって、声かけをする」ということです。先ほどの「発芽の条件」の例でいうなら、実験の方法を考える場面にその授業のねらいがあったと思います。ですから、

「今日の授業で、実験の方法を考える時に大切なことは何だったでしょうか。」

と、その狙いに視点をしぼって、子どもたちが授業について振り返られるようにしましょう。おそらく、子どもたちは、その授業時間の板書や自分のノートを振り返り、実験方法を考えるときに大切なことを自分の言葉で表現しようとするでしょう。さらに、このように振り返りとして子どもたちの記述を残しておくことは、その授業における評価の資料としても活用することができます。

4.振り返りを次の授業でも活用してみよう!

このように、視点をしぼった振り返りをしておくと、その記述は、他の授業でも活用することができます。例えば、振り返りを行った次の授業で、「●●さんが、こんな振り返りをしていたよ」と紹介したり、「〜という振り返りをしている人が多かったね。大切なことを学びましたね」とフィードバックをすることができます。こうすることで、振り返りのときに、問題解決の力の育成が今ひとつという子どもにも、間接的に声かけをすることができます。

また、「発芽の条件」の学習が終わった後、新たに「振り子の運動」の学習で、実験の方法について考えるとき、先に学んだ「条件制御すること」を意識するでしょう。
このとき教師が、
「●●さん、発芽の条件について考える授業で、実験の方法を考えるときに大切なこととしてどんなことを振り返っていたっけ?」
といった声かけをしたり、
「実験の方法を考えるときに、どんなことに気をつけようか。振り返りで以前に書いていなかったっけ?」
といったガイドをすることで、以前の振り返りの記述にもどって、考えさせることができます。

このような声かけを教師がすることで、子どもたちは、自分が残した「振り返り」が単にその授業を振り返るためのものではなく、その授業で学習した大切なことを抽出したものであり、今後の学習にも役に立つことなのだという意識をもつことができます。

5.視点をしぼって振り返りをするときには…

私は、視点をしぼって振り返りをするときには、それを宿題などにせず、授業時間内に振り返りを行うようにしています。これは、授業が終わった直後の方が、その授業について振り返りやすいと考えるからです。そして、授業時間内で振り返りをするときには、5分〜10分間は時間をとるようにしています。授業終了間際の数分間では、子どもたちは十分に振り返って自分の考えを書くことは難しいです。授業時間内で振り返りを行うのであれば、十分に時間をとるようにしましょう。

イラスト/難波孝

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志田正訓先生

執筆者プロフィール
志田正訓●しだ・まさくに 筑波大学附属小学校教諭。理科を専門の教科として、研究中。毎年6月と2月の研究会では、理論と実践の両面から発表を行っている。最近では、専ら「科学の本質(Nature of Science)」を実践にどう取り入れていくかについて研究中。日本初等理科教育研究会電子コンテンツ部部長。共同制作で監修・指導したものに「2020年新学習指導要領対応!小学校理科DVD〈ショートコンテンツシリーズ〉全37巻」(企画集団 創)。共著に「小学校 新教科書 ここが変わった! 理科」(日本標準)「理科でつくるウェルビーイング」(東洋館出版社)など。


<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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