小学校理科にかかわる子どもの素朴概念や誤概念を知ろう 【理科の壺】
水を沸騰させる際、次第に「あわ」が出てくると思います。この「あわ」は何ですか? と子どもに尋ねると「空気」と答える子どもたちが多いです。日常で水をかきまぜたときに出るあわの姿と似ているからだと思われます。あるいは、水の中に含まれている空気が出ていると答える子もいます。
しかし実際は「水蒸気」であり、冷やせば水になるわけです。このように子どもたちが感覚的に間違って理解しているものを「誤概念」といいます。実は、この「誤概念」が強いと、いくら授業で勉強をしたとしても、元の間違った「誤概念」に引き戻されてしまうため、非常に厄介です。
では、小学校の理科に関係する「誤概念」には、どのようなものがあるのでしょうか。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/東京学芸大学附属小金井小学校教諭・三井寿哉
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.子どもの誤概念を理解しておこう
子どもが理科の授業を通して「科学概念」を学ぶ前には、それぞれの子どもたちは経験などから体得してきた何らかの「概念」を持っています。これは科学的に誤っていることも多々あることを、指導者はあらかじめ理解しておく必要があります。
科学的に精緻化されていない子どもの概念を「素朴概念」「誤概念」「プリコンセプション」「子どもの科学」などと呼ぶことがあります。子どもたちが学習前、教師が獲得させたいと考えている科学概念とは異なる概念を持っていることはよくありますが、例え学習した後であっても、こうした既存の概念に邪魔されて、科学的に正しい概念に変わっていないことも多いのです。
今回は、小学校理科のエネルギー領域を例に見られる子どもの誤概念の“ツボ”について解説します。授業改善に生かしていきましょう。
2.誤概念あれこれ
①授業の進行に役立つ素朴概念
第5学年「振り子の運動」では、導入時に振り子のようすを観察させながら「振り子が1往復する速さの要因」について、子どもたちに予想させます。
すると子どもたちは、
「おもりの重さの違いが関係するのではないか」
「振り幅の違いが関係するのではないか」
と予想します。なんとも子どもらしい、素朴な考え方ですね。もちろん、これらは正しくないです。
まだ学習を始める前の段階の子どもたちは、このような素朴概念を持っていることが多いと言えます。
そこで、問題の見いだしの場面や予想の場面において、このような誤概念をしっかり引き出しておきましょう。すると、子ども同士の意見が対立し、問題が見いだしやすくなったり、探究する気持ちが高まったりするのです。教師は、これをうまく活用しない手はないと言えます。
②生活経験から得られる誤概念
エネルギー領域の学習で、子どもが問題を見いだしたり、予想や仮説を立てたりする活動においては、これまで学んだことや、生活場面で経験してきたことを思い起こしながら思考を進めます。
先の「振り子の運動」の学習例において「振り子の速さには、おもりの重さの違いが関係する」と予想した子どもに理由を聞いてみます。すると、
「体の大きな子と小さな子では、ブランコが1往復する速さが違うから」
と、生活経験から得られた概念を基にして、考えを述べます。
また、「振り子の振り幅の違いが関係する」と予想した子どもは、
「大きな子はブランコを漕ぎ出す位置が高く、小さな子は低いから、ブランコの勢いが変わる」
と、やはり自分が見聞きしてきたことから得られた概念を理由にします。
実際には、ブランコの長さは変わりませんので、体の大きさや漕ぎ出しの位置、勢い(振れ幅)が変わったとしても、ブランコの周期は変わりません。
しかし、体の大きな子は小さな子より年齢が上のことが多く、したがってブランコを漕ぐ技能も高いのでしょう。技能が高い子は乗りながらブランコを加速させるので、加速させない子のブランコより実際に速く動いて見えます。
このように、エネルギー領域における子どものもつ誤概念は、生活的な体験から会得されたものが多いようです。
③素朴概念は授業後にも起きている
第4学年「電流の働き」では、乾電池の数やつなぎ方を変えると、電流の大きさや向きが変わり、豆電球の明るさやモーターの回り方が変わることを学習します。電流の大きさや向きは直接体験ができず、実体がつかめないため、子どもが電流の様子を理解するのが難しいとされます。
このため、
「電流は乾電池の両極から流れ、豆電球やモーターなどの抵抗器具でぶつかることで明かりがついたり動いたりする」
「+極から流れた電流は豆電球で明かりに変換されて消滅してしまう」
といった様々なイメージをもちます。これらは、学習をきっかけとして表に出てくる、子ども特有の素朴概念であり、正しい内容を学習したからと言って、それが目に見えない科学的知識を有している人(主に教師)からは通常正しくないとみなされる概念になります。授業を行った後も、子どもがどのような考えを描いているかを追ってみることも大切です。
④なかなか消すことのできない誤概念
子どもは新しい概念を学習して理解するとき、まず自分が持っている概念と関連させて考えることがあります。この自分の既有の概念を「プリコンセプション(前概念)」といいます。
このプリコンセプションの中でも、「子どもの科学」は頑迷です。
子どもは、自分の経験から感得した自然観の中で、科学に関する言葉に独自の意味を定義していることがあるのです。このような概念が「子どもの科学」と呼ばれます。これは例え科学的に間違っていたとしても、子どもにとっては、自分の経験から得られた概念であるという論理的な一貫性があります。そのため、以後の理科での学習結果に影響されないまま、頑固に残ってしまうことがあるのです。
例えば振り子の学習で、
「1往復する速さには振り子の長さのみ関係している」
という結論を得たとしても、ブランコでの体感が抜けきれていない子どもは
「振り子が1往復する速さには少しばかりおもりの重さが関係している」
と、学習前の概念を保持してしまうことがあります。
また、第3学年「電気の通り道」では、
「金属が電気をよく通すことは分かったが、どんなものでも少しは電気を通す」
と解釈している子がいます。これは、アニメの表現から得た電流に対する誤概念が働き、学習後も修正しきれていない例です。
3.科学的な概念になっているかを追って授業改善へ
教師は、授業を立案する上で、子どもが保持している科学的に精緻化されていない知識や概念を、子どもの発達や経験を踏まえながら把握することが大事になります。
そして、科学的な概念を獲得させるために、発達段階を考慮した授業展開を行い、思考の流れを追っていくようにしましょう。
特にエネルギー領域は、子どもたちの体感から得られる力の感覚を基にしながら、科学的な概念に更新できるよう言語化していきます。
そして学習後にも、子どもがどんな概念を獲得したかを丁寧に確認することで、今後の授業改善にも役立てられていきます。
イラスト/難波孝
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〈執筆者プロフィール〉
三井寿哉●みつい・としや 東京学芸大学附属小金井小学校教諭。理科を中心に日々実践研究を行う。本学教育実習をはじめ、東京未来大学非常勤講師、姫路大学非常勤講師の教員養成にも携わる。理科おもしろゼミ研究会代表、NHK Eテレ『ふしぎエンドレス』作成協力委員、共著に『GIGAスクールに対応した小学校理科1人1台端末活用BOOK』(明治図書出版)、『小学校理科フローチャート型授業ガイド』(東洋館出版社)など。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。