小3体育「水泳運動(浮いて進む運動、もぐる・浮く運動)」指導アイデア

文部科学省教科調査官の監修による、小3体育科の授業案です。1人1台端末を活用した活動のアイデアも紹介します。今回は「水泳運動(浮いて進む運動、もぐる・浮く運動)」の単元を扱います。
執筆/東京都公立小学校主任教諭・田窪えり果
監修/国立教育政策研究所教育課程調査官・塩見英樹
秀明大学教授(元東京都公立小学校校長 元東京都小学校体育研究会会長)・橋本茂樹
目次
単元名
みんなでプカプカ スーイスイ
年間計画表
単元目標
●知識及び技能
浮いて進む運動、もぐる・浮く運動の行い方を知るとともに、け伸びや初歩的な泳ぎ、息を止めたり吐いたりしながら、いろいろなもぐり方や浮き方をすることができるようにする。
●思考力、判断力、表現力等
自己の能力に適した課題を見付け、水の中での動きを身に付けるための活動を工夫するとともに、考えたことを友達に伝えることができるようにする。
●学びに向かう力、人間性等
浮いて進む運動やもぐる・浮く運動に進んで取り組み、きまりを守り誰とでも仲よく運動をしたり、友達の考えを認めたり、水泳運動の心得を守って安全に気を付けたりすることができるようにする。
授業づくりのポイント
中学年の水泳運動は、「浮いて進む運動」と「もぐる・浮く運動」で構成されています。
「浮いて進む運動」は、け伸びや初歩的な泳ぎをすること、「もぐる・浮く運動」は、息を止めたり吐いたりしながらいろいろなもぐり方や浮き方をすることにより、浮いて進んだりもぐったり浮いたりする楽しさや喜びに触れることができる運動です。
低学年の水遊びの学習をふまえ、中学年ではけ伸びや初歩的な泳ぎ、もぐる・浮くことなどの基本的な動きや技能を身に付けるようにし、高学年の水泳運動の学習につなげていくことが求められています。
単元の前半は、水泳運動の心得を守って安全を確かめること、1・2年生からの流れを受けて「もぐる・浮く運動」のなかに水遊び的な要素を取り入れることを大切に学習を進めていきます。
そのなかで、連続してのボビングなどにより、呼吸の仕方についても学習していきます。
「浮いて進む運動」では、初歩的な泳ぎにつながる水の抵抗が少ないけ伸びの姿勢ができるようにします。学習した浮き方に手足の動きを加え、補助具を使って腕や足の動き、呼吸の仕方を学習します。
子供の実態に応じて、練習方法や練習の場を選んで学習できる時間を確保し、自己の能力に適した課題に挑戦できるようにします。2~3人のペア学習・トリオ学習を取り入れると効果的です。
1人1台端末を活用したアイデア
単元前半では、1人1台のICT端末を使って、動きのポイントを確認できるようにしていきます。
単元後半では、子供が撮影した動画をふり返りに活用したり、バディの友達の動きと手本動画や学習資料と比較して気付いたことを伝え合ったりすることができるようにしていきます。
子供の必要感に応じて活用することで、自己の課題に適した活動を選択するための手助けになります。
単元計画(例)
バディシステムについて
バディシステムは、2人1組をつくり、互いに安全を確かめ合うことができる方法で、事故防止のみならず、学習効果を高めることもできます。単に手を組ませることにねらいがあるのではなく、組数を数えること、その数を記録しておくこと、表情や動作を観察することなどが重要となります。
また、子供どうしで相手の表情、動作について観察し、おかしな点や気になる点があった際に、ただちに指導者に伝えるように指導しておくことも大切です。
授業の流れと指導のポイント
楽しく運動をしよう(第1~6時)
めあて
水泳運動の学習の進め方を知り、学習の見通しをもとう。(第1時)
いろいろなもぐり方や浮き方、け伸びの行い方を知り、自己の力に応じて運動を楽しもう。(第2~6時)
授業の流れ
1 学習の流れとめあての確認
2 用具準備・準備運動・シャワー
3 リズム水泳
4 今もっている力で楽しむ運動
5 もぐる・浮く運動
6 浮いて進む運動
授業のポイント
まずは安全に学習を進めることができるように、「水泳運動の心得」や用具の安全な使い方について理解するところから始めましょう。
子供が水の中でいろいろなもぐり方や浮き方を行うための易しい運動を取り入れたり、ビート板などの補助具を使ったりして、楽しく取り組むなかで動きが身に付くようにしていきましょう。
(1)安全管理
水泳運動の魅力はすべて、「安全」のうえで成り立っています。ここ数年間、地域によっては、水泳運動を行えない状況にあったため、教員が行う安全管理について再度、確実な理解と適切な実施が求められます。学校・学年で安全管理の内容を確かめてから、授業を始めましょう。
●監視体制・役割分担
プール内に死角をつくらないために、教員の配置は事前に打ち合わせをしましょう。全体指導者と水中指導者、監視者が常に互いの位置を意識しながら動き、子供の安全を確認できるようにしましょう。
●用具などの使用上の注意
ビート板などの補助具やコースロープなどの用具は、使用上の留意点と保管状況を十分確認しておきましょう。例えば、ビート板の状態を水泳指導が始まる前に確認する、ビート板の正しい使用の仕方を指導する、ビート板の枚数を授業前後に確認するなどが挙げられます。
●緊急時の対応
日常的にプールサイドや更衣室などを清潔に保つこと、整理・整頓しておくことで子供が安全に水泳運動に取り組む環境をつくることができます。
万が一の事態に備え、AED (自動体外式除細動器)や携帯電話、毛布などをプールサイドに用意しておくことや、緊急時の対応マニュアルを作成し、対応手順を共通理解したり、簡潔なフローチャート図などを職員室、保健室及びプールなどの日頃から見やすい場所に掲示しておいたりすることが考えられます。
水泳指導が始まる前にこうした対応を共通理解できるように研修を実施し、誰もが緊急時の対応を確実に行うことができるようにしておくことが大切です。
●施設・設備の安全管理
水泳指導に際しては、プール施設の安全管理、適切な水位設定、プールの水温及び水質管理なども確実に行うことができるようにします。
(2)安全指導
水泳運動の事故は生命にかかわることから、水の危険から自己の命を守るために、「水泳運動の心得」「運動の約束」「用具の準備の仕方」など、必ず指導し、ていねいに確認していくことが大切です。
●水泳運動の心得の例
・準備運動や整理運動は正しく行いましょう。バディで互いに安全を意識しながら活動しましょう。
・シャワーを浴びてからゆっくりと水の中に入りましょう。
・プールサイドは走らない、プールに飛び込まないなど、プールの安全の約束を守りましょう。
●運動の約束の例
・順番や場所のきまりを守り、誰とでも仲よく励まし合いましょう。
・用具の準備や片付けを、友達と一緒にしましょう。
・友達の考えを認めましょう。
●用具の準備の仕方の例
・プールサイドや水面に危険物がないか確かめて、見付けたら先生に知らせましょう。
・用具は、決まった場所から使うものだけを取り、使い終わったら片付けましょう。
・水着などは正しく身に付けられているか確かめましょう。タオルの置き場所を確かめましょう。
(3)リズム水泳
授業の始めに子供が好きな音楽に乗せて体を動かすことで、子供たちの水に対する恐怖心を和らげることができます。自然と顔に水がかかったり、もぐる・浮く運動につながる動きを経験できるようにしたりするなど、低学年との接続を意識した易しい運動を取り入れましょう。
●音楽に合わせて行う動きの例
・水かけっこ




・まねっこ遊び




(4)2年生までの水遊びとの関連
水泳運動は泳げる・泳げないがはっきりしており、水に対する不安感をもつ子供も少なくありません。また、現在はコロナ禍の影響から学校の実施状況によっては、低学年の水遊びを経験していない子供がいる実態もあります。
そこで、授業の始めには水遊びで例示されている運動遊びを「今もっている力で楽しむ運動」として扱います。
子供の実態に応じた教師の言葉がけを行うことで、どの子供も楽しんで水泳運動に取り組もうとする意欲を育むことができます。
●宝探し
浮く輪やいろいろな石を入れて、どの子も1つは取れるようにします。宝によって点数を変えたり、チームで競争したり、行い方を工夫してみましょう。


運動が苦手な子供へ
・まずは浮いている輪から集めていこう。腕を大きく使って移動できましたね。
運動が得意な子供へ
・黄色の石だけ選んで集めましょう。
・石を全色集めてみましょう。
思考を促す発問
・どうしてプールの底にある宝をたくさん取ることができたのかな。
・続けて宝を取れる方法を考えてみよう。
価値付ける言葉がけ
・プールの底を見て探しているね。
・続けてもぐって宝を取っているね。すごい!
●輪くぐり


運動が苦手な子供へ
・カニさんのように息を吐きながらもぐってみましょう。
・おなかを支えているから、力を抜いてごらん。
運動が得意な子供へ
・輪の下からや上からも通れるかな。
思考を促す発問
・まっすぐもぐるためには、どこを見るともぐりやすいかな。
・もぐるためには、体のどこに気を付けるといいかな。
価値付ける言葉がけ
・水底を見て体を一直線に伸ばして、スムーズに進んでいますね。
・体の力を抜いているから、水の中をスイスイ進めていますね。
●いろいろな浮く遊び
はじめは、体で文字をつくったり、動物になりきったりして遊びます。文字を連続でできるようにしたり、別の動物に変身できるようにしたりすることで、変身浮きや連続したボビングにつなげられるようにしていきます。
・いろいろな文字を浮いて表す



・いろいろな文字をもぐって表す


・友達と一緒にいろいろな文字を浮いて表す






(5)「もぐる・浮く運動」での指導内容
3年生の最初は1・2年生からの流れを受け、「もぐる・浮く運動」のなかに水遊び的な要素を取り入れて学習を進めていきます。
呼吸を調整しながらいろいろなもぐり方をしたり、背浮きの姿勢で浮いたり、簡単な浮き沈みをしたりします。
友達の真似をしたり、手をつないで一緒に運動したりする活動を取り入れると、どの子供も楽しみながら安心して学習することができます。
一人一人が自己の能力に適した浮き方を選んで取り組むことができるように、学習資料として浮き方の例をタブレットに配付しておくことも考えられます。また、慣れてきたらリズム水泳のなかで扱うことも考えられます。

●浮く運動の運動例
・くらげ浮き
手と足の力を抜いて、だらっとする。


・だるま浮き
両膝を抱えて、おへそを見るようにする。


・伏し浮き
手と足を伸ばして、あごを引いて、おへそを見る。


・大の字浮き
あごを引いて、背中を少し丸める。手足を大きく開く。


・背浮き
耳を水中に入れ、体をまっすぐにする。


・集団浮き

・いかだ引き

運動が苦手な子供へ
・背浮きをするときは、補助具を体から離さないように持ってみましょう。友達に背中を支えてもらうのもよいですね。
運動が得意な子供へ
・体の力を抜いてぷかぷかと浮くことができましたね。連続でいろいろな浮き方をして、変身浮きをしてみましょう。
・人数を変えて友達といろいろな浮き方に挑戦してみるのもよいですね。
(6)「浮いて進む運動」での指導内容
「浮いて進む運動」では、プールの底や壁を蹴った勢いを利用して進むけ伸びを学習します。
はじめは、友達に手を引かれたり足を押されたりした勢いを利用して、伏し浮きの姿勢で続けて進むことを通して、「体を一直線に伸ばし、視線は水底を見ること、力を抜くことが大切」という動きのポイントに気付けるようにしましょう。
教師は、子供が動きのポイントをイメージしやすいような言葉がけに留意することが大切です。
け伸びの行い方やこれまでに学習した初歩的な泳ぎの行い方について説明するときは、学習資料や動画資料を活用すると効果的です。
●浮いて進む運動の運動例
・伏し浮き

・け伸び
運動が苦手な子供へ
・体の力を抜いて、先生の手につかまってみましょう。(そのまま引っ張る)顔をつけたまま、進めましたね。
・底を見て、体を一直線に伸ばしてみましょう。
運動が得意な子供へ
・け伸びで進めたところに印を置いて、自己の記録に挑戦してみましょう。
工夫してもっと楽しく運動をしよう(第7~10時)
めあて
課題解決のための活動を工夫して、いろいろなもぐり方や浮き方、け伸びや初歩的な泳ぎをすることを楽しもう。
授業の流れ
1 学習の流れとめあての確認
2 用具準備・準備運動・シャワー
3 リズム水泳
4 今もっている力で楽しむ運動
5 自己の課題を見付けたり、解決したりするための運動
〈参考文献〉
小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 体育編 文部科学省
学校体育実技指導資料第4集「水泳指導の手引(三訂版)」 文部科学省
小学校体育(運動領域)指導の手引 ~楽しく身に付く体育の授業~ スポーツ庁
小学校体育(運動領域)まるわかりハンドブック 文部科学省
東京都小学校体育研究会水泳運動系領域部会HP 資料
イラスト/高橋正輝
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