子どもの「わくわく」を引き出す自然事象との出合い 【理科の壺】
授業の導入で、先生がどのような教材を使って、そのような点に意識させるかによって、子どもの「わくわく度」が大きく変わります。「やってみたい」と思えるような教材の提示をして、「やりたい」という気持ちから体験を通して自然と気づきや疑問が出てきて、問題の見いだしにつながることが理想です。教科書に載っていないような教材の提示は、これまでの先生方の工夫からうまれてきているものです。本屋さんにある先生用の授業づくりの本にもたくさん事例が出ています。一度真似をしてみて、子どもたちがどのような反応になるのか調べてみるのもいいですよ。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/神奈川県公立小学校教諭・森田浩一
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
理科を学ぶ子どもたちは、これから解決していく問題とどのように出合うのでしょうか。「あれっ?どうしてだろう?」「不思議だな…もっとくわしく調べてみたい!」とわくわくした気持ちを高めながら問題解決をスタートさせたいところです。今回は、子どもの問題解決への願いを大切にした自然事象との出合いと教師の働きかけについて、3年生「磁石の性質」と6年生「水溶液の性質」の単元を事例にしてご紹介します。
1 子どもの「わくわく」を引き出す自然事象との出合い
理科授業で子どもが問題を見いだすときには、「これは、こういうことかな!」「あれっ?どうしてだろう?」といったこれまでの自分の経験や知識との結び付きやズレを感じることができるようにする自然事象との出合いが大切です。不思議に感じたことを「さらに調べてみたい!」「もっと〜してみたい!」と思えるような、子どもの問題解決へのエンジンをかけるきっかけを創り出したいものです。子どもの問題解決を支える教師の支援として、子どもがどのように自然事象と出合い、どのような気付きや疑問を価値付けるとよいでしょうか。
2 子どもの「わくわく」を教材で引き出す 〜3年「磁石の性質」〜
3年「磁石の性質」の単元では、「どんなものが、磁石につくのだろうか」「磁石についた鉄は、磁石になったのだろうか」といった問題を見いだし、学級で解決する問題を設定します。子どもが磁石への「わくわく」を高めながら問題を見いだすことができるようにするためには、どのような出合いが必要でしょうか。「磁石の不思議を見つけよう! 魚つりゲーム」と題して、子どもが磁石を鉄くぎやクリップ、アルミホイル、紙などの様々な身近なものに近づけて遊ぶことができる場を準備しました。
【磁石の不思議を見つけよう!魚つりゲーム】
磁石につく魚とつかない魚
磁石につく魚につながる魚
単元導入時に、このようにして磁石で遊ぶ場を作ることによって、子どもたちは磁石を繰り返し魚のおもちゃに近づけながら、「磁石につく魚とつかない魚があるけれどどうして?」「磁石についた魚に群がるようにたくさんの魚がつながった!」「磁石で魚つりゲームをしてとても楽しかった!磁石にはどんなものがつくかもっと調べみたい!」と夢中になって学び始めます。
また、子どもの気付きや疑問を学級で共有する場面では、次のような子どもと教師の対話がありました。
磁石につく魚もあれば、磁石につかない魚もあったよ。
磁石についた魚には、2ひき、3ひきと魚がつながることもあった。
それはどんな様子だったの?その時の様子をもう一度みんなに見せて!
(磁石についた魚につながる魚をテレビに映して見せながら)磁石についている魚のくぎに、ほかの魚のくぎがついていて、磁石がないのにくぎとくぎがつながっていてふしぎ。
不思議だね!くぎとくぎはそもそもつながるものではないのに。
磁石についたくぎが磁石になっていたら、ほかのくぎがつながるのも分かる気がする。
磁石についたくぎは、磁石になるのか調べてみたい!
教師が子どもの抱いた気付きや疑問に共感し、事象の不思議さを全体化する発問をすることによって、子どもが磁石に対する気付きや疑問をより具体的に語る姿を引き出すことが大切です。
このように、磁石の性質に関する問題の見いだしに結びつき、子どもが繰り返し試しながら楽しめる教材と、子どもの自然事象に対する気付きや疑問をあたたかく褒める教師の構えがあれば、子どもの自然事象への「わくわく」が高まり、見いだした問題を解決していきたいという願いを引き出すことができるでしょう。
3 子どもの「わくわく」を実験器具で引き出す 〜6年「水溶液の性質」〜
鉄やアルミニウムに塩酸を加えたときの変化を調べる実験をする際、試験管に入れた2種類の金属のそれぞれに塩酸を加え、変化の様子を観察します。実験の途中で、「先生、アルミニウムからどんどん出てくる泡をもっと詳しく観たいです!」という子どもの発言から、安全指導を十分に行った上で、金属が塩酸に溶けていく様子を顕微鏡で観察できる場を準備します。
接眼レンズを夢中で覗く子どもたちから、次のような気付きや疑問が生まれました。塩酸を加えたときの金属の変化の様子を肉眼と顕微鏡で観察したときの子どもの気付きや疑問を比べてみましょう。
顕微鏡で金属の変化の様子を観察することによって、子どもはより微細な自然事象への気付きや疑問を創り出していきました。
このように、実験中の子どもの気付きや疑問から自然事象へのさらなる「わくわく」を引き出す教師の教材準備によって、目の前で起きている化学変化の不思議さに目を見張り、溶けた金属の行方をさらに詳しく調べてみたいという願いを高めることができるでしょう。
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。
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〈執筆者プロフィール〉
森田浩一●もりた・こういち 神奈川県公立小学校教諭。生活科・総合的な学習の時間の研究校に勤務しながら理科の実践研究を行っている。横浜市小学校理科研究会3年部会副部長。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。