理科をもっと好きになる! 子どもが学びに夢中になる単元のゴール 【理科の壺】
これまでの理科の壺では、子どもが問いを見いだすための導入や予想や実験など問題解決のプロセスの中で教師が留意すると良いことを紹介してきました。それらの手立てを教師が行っていくことで、子どもたちは、自然事象との出会いや問題を解決して新しい発見をすることに楽しみを感じて授業に参加していることでしょう。今回は、11月から年度末に向けて、子どもがもっと理科学習を楽しむためにどんな単元のゴールを設定していくと良いかを紹介していきます。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/神奈川県公立小学校教諭・松永陵
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.「共通性・多様性の見方」を働かせて、新しい発見を!
5年生の「植物の種子の発芽」では、主に「インゲン豆」の種子を中心として、植物の種子の発芽には、「水」「空気」「適切な温度」が必要であることを学習します。しかし、世の中にある種子にはすべて、その条件が当てはまるのでしょうか? また、インゲン豆の種子を検証しただけで「すべて」と言っていいのでしょうか?
5年生の子どもたちであれば、3、4年で必ず複数の植物の発芽や成長を目にしています。ヘチマやホウセンカ等のこれまでの学習の中で扱った植物の種子でも同様の条件が当てはまるのか検証してみましょう。「空気や水が必要なことは同じ! でも適温は少しずつ違う?」ということに気付いていくと、「もっとたくさんの植物で検証したい」「同じところや違うところがあって植物って不思議」と「インゲン豆」の種子の発芽条件を調べる学習を活用して、自分の理解を深めたり楽しんで学び続けたりする姿が見られるでしょう。
植物には同じことが言える部分と、同じ植物なのに異なる部分があります。このような、共通性・多様性の見方を働かせ追究していくと、子どもたちの力で新しく調べたい対象が増え、理科の学びが充実していきます。多様な自然事象に触れ、不思議さや面白さを感じることは「自然を愛する心情」にも繋がります。教科書の中に例示されていないものに触れることで「自分たちの力で解決できた!」という喜びも感じることができ、もっと理科が好きになることへと繋がるでしょう。
2.「きまり」に着目して、深い探究を!
3年生の「光の性質」では、物に日光を当てると明るさや温かさが変わることを学習します。平面鏡を何枚か重ねたものと重ねていないものを比較する場面で、鏡の枚数と温度の上昇にはどんな関係があるのかについて確かめてみます。
実験結果を数値で表したものをグラフや表にして整理することで、「鏡1枚で15℃、2枚で20℃ってことは5度ずつ増えていくきまりがあるのかな?」「4枚、5枚と重ねていくと温度の上がり方にきまりがありそう!」と実感しながら確かめていくことができます。
5年生の「電流がつくる磁力」では、電磁石の強さは、電流の大きさや導線の巻き数によって変わることをたしかめていきます。電流の大きさや電磁石の巻き数のそれぞれの条件に着目して、「電流の大きさと電磁石の強さの関係は?」「巻き数と電磁石の強さの関係は?」と自分で確かめたい条件に合わせて “きまりがあるかどうか” の検証を行う機会をつくってみましょう。
理科の授業時間だけでなく、日常でも自然事象に楽しんで “きまりさがし ”に関わろうとすることもできます。例えば、4年生の「天気と一日の気温の変化」では、「どの季節でも晴れの日の一日の気温は同じように変化するの?」であったり、5年生の「天気の変化」で、「どの場所でも雲は西から東に動いているの?」であったり、問題を設定するなど、子どもに対する目の向けさせ方を工夫することで、より学びが深まっていきます。
3.「日常を振り返って」実感を!
最後は、学習を通して理解したことを自分の日常生活に適用して考えることについて説明します。
6年生の「てこの規則性」では、身の回りにはてこの規則性を利用した道具があることを学習します。学習を通して身に付いたことを生かして、校庭に埋まったままになっている古いペグを抜く体験をしてみましょう。
どんな用具が必要でどこに力を加えれば良いのかについて学習したことを実際に試す機会があることで、「学習したことが役に立っている!」と実感することができます。学習前にまず一度同じような体験をしておいて、学習後に「再チャレンジ!」のような構成にするのもおすすめです。
5年生の「電流がつくる磁力」では、実際に身の回りで電磁石が使われているものを調べる活動がよく行われているでしょう。ここで、さらにもう一歩! 調査してわかったことを基に、実際の掃除機や扇風機などを分解してその中身をたしかめる活動をやってみます。
調べて理解するのと、体験を通して実感を伴った理解をするのとでは、子どもたちの学びの深さや広がりは、大きく変わります。
「扇風機よりも掃除機の方がたくさん導線が巻いてあった。掃除機の方がよりパワーが必要だからだね。」「本物の電磁石は巻き方も工夫されていたよ、巻き方もやっぱり関係していそう。」ともう一度自分たちの学びを再認識して振り返る機会になります。
このように、子どもが理科の学びに夢中になる手立てや場面は他にもいっぱいあります。すべての単元での実践は難しくても「これなら子どもたちと一緒に解決できそう」という単元を一年の中に位置づけることで、子どもが生き生きと学ぶ教室になると思います。先生も一緒に楽しめると素敵ですね。
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。
理科の壺は毎週水曜日更新です!
〈執筆者プロフィール〉
松永陵●まつなが・りょう 神奈川県公立学校教諭。同校研究副推進委員長。「自ら問い・自己選択・自己決定しながら学び続ける子ども」の育成を目指して、子どもたちがどの教科の学習でも自ら身に付けたい力や身に付いた力を自覚しながら学習を行う姿を目指し、日々授業実践・改善を行っている。SSTA横浜支部会員。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。