小6 国語科「夏のさかり」全時間の板書&指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修のもと、小6国語科「夏のさかり」(光村図書)の全時間の板書例、教師の発問例、予想される子供の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した授業実践例を紹介します。
監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/山梨大学大学院教授・茅野政徳
執筆/成城学園初等学校・木村大望
目次
1. 単元で身に付けたい資質・能力
本単元では、「立夏」から「大暑」までの夏にまつわる二十四節気の語彙の意味を知り、それぞれの語彙が夏を象徴する情景や、季節の移り変わりを知らせる語句であることを理解できるようにします。
また、暑中見舞いを書く活動を通して、夏を表す語彙を活用して、自分の伝えたいことを明確にできる力を育てていきます。
2. 単元の評価規準
3. 言語活動とその特徴
「春のいぶき」と同様、本単元の言語活動も、①語彙を知る活動(語彙の量的な充実)と②語彙を活用する活動(語彙の質的な充実)という二つの段階によって構成されます。
一つ目の語彙を知る活動として、「春の語彙カルタ」に続き、「夏の語彙カルタ」を行います。春に行った学習活動に繰り返し取り組むことで、児童は季節の移り変わりに目を向けるようになっていきます。
カルタの取り札の表には「立夏」や「芒種」といった夏の二十四節気の語彙を書き、裏面にその言葉を象徴するような写真を貼っておくと、情景とともに理解ができます。読み札には、「立夏」や「芒種」などの意味を書いておくようにしましょう。
二つ目の語彙を活用する活動として「暑中見舞いを書こう」を行います。暑中見舞いは、「小暑」(七月七日ごろ)から大暑(「立秋」の前日まで)に送ることが通例とされています。まさに児童の学習時期とちょうど重なります。
この文化の起源は、お盆の時期に贈り物を持って親戚やお世話になった人を訪れる習慣とされています。かつて、正月とお盆は一年の中でも特に大切な節目と考えられていました。そのため、この時期に相手の健康をお見舞いすることは、人付き合いに欠かせないものでした。最近はインターネットの普及でメールやSNSでの伝達が主流となってきたことから廃れつつありますが、その由来を考えると、子供たちにもぜひ触れてほしい我が国の言語文化の一つと言えます。この活動を通じて、思いやりの心を言葉に込めることのよさも味わってもらえるといいですね。
子供たちに目的意識を持たせるために、完成した暑中見舞いを日本郵便等が主催する手紙コンクールなどに応募してみることも考えられます。代表的なコンテストのリンクを掲載するので、参考にしてみてください。
●日本郵便株式会社主催 手紙作文コンクール
https://www.post.japanpost.jp/contest_text/tegamisakubun/
また、手紙あるいは書簡という側面に焦点を当てて、作家や地域の文化人の暑中見舞いについて調べてみることもよいでしょう。6年生の教科書に掲載されている作家に限っても、宮沢賢治は短い生涯の中でたくさんの手紙を残していることで有名です。現代のような情報伝達手段がない時代だったからこそ、手紙のやりとりに込められた想いの強さはひとしおだったと推察されます。それゆえに、一通の手紙からもさまざまな傑出した表現を見出すことができます。そこから、その人物の思いや考え、人となりなどについて理解を深めることができます。このように手紙をきっかけに、当時の人について思いを馳せることができるところも、手紙というメディアの持つよさと言えるでしょう。
4. 指導のアイデア
〈主体的な学び〉「繰り返し」で季節の移り変わりに目を向ける習慣をつくる
「季節の言葉」は、年間を通して位置付けられています。児童は季節が移り変わるごとに、季節の言葉を扱う小単元を学んでいきます。そこで、本単元で行う「季節のカルタ」のように、年間を通して「繰り返し」行える学習活動を設けることで、児童は学習の見通しを持ち、過去の学びを生かしやすくなります。児童が学習の見通しを持つようになると、「だんだん寒くなってきたけど、今は二十四節気で何て言うのだろう?」「秋のカルタづくりはいつやるの?」といった言葉が聞かれるようになります。こうした「繰り返し」の指導によって、児童が季節の移り変わりに目を向けるようになることを期待しています。
また、その習慣づくりを支援するために作成したカルタを教室内に掲示しておくとよいでしょう。
季節の移り変わりとともに、量的に充実していく掲示物があることで、年間を通した四季の変化に気付くことができます。
なお、今回は暑中見舞いというお盆の時期に合わせて行われる手紙の文化に親しむことを念頭に置いたので扱いませんが、「繰り返し」という観点から、春・秋と同様に俳句づくりに取り組む単元を構想してもよいでしょう。
〈対話的な学び〉 手紙のやりとりをする
暑中見舞いに限らず、手紙はある特定の受信者に対して書かれるものです。したがって、本単元で扱う暑中見舞いについても「だれに」宛てたものなのかを具体的にする必要があります。
暑中見舞いは、自分の近況を報せる季節の便りですので、形式的な書き方よりもその人らしさの出る書き方のほうが好ましいです。その点をふまえ、本単元では、学校外の大人ではなく、学級内の友達に宛てることとしました。ペアを割り振ってもよいですし、班やグループ内で相手を決めてもよいでしょう。いずれにせよ書く相手がいないということがないように配慮しながら、学級の実態に合わせた対象の設定を行いましょう。
書く相手が決まり、暑中見舞いを書き終えたあとは、学級内にポストを設けて、そこに投函するような機会を設けるとよいでしょう。もちろん切手は不要です。ポストに集まった手紙は一度内容を確かめたうえで、翌日それぞれの机やロッカーなどの決められた場所に置いておきます。
こうした簡易的な仕掛けであっても、一度自分の手を離れた手紙が、時間差で相手に届くという手紙の特性を味わうことは、手紙という言語文化を知るうえでとても効果的です。あくまで「手紙であること」にこだわることで、届いた手紙の中で用いられている相手の言葉をより深く味わおうとします。
〈深い学び〉 語彙の解釈を広げる
本単元では、届いた手紙に対して返事を書く活動も行います。
これには、暑中見舞いが相手と交換するものであるという礼儀を学ぶだけではなく、語彙の解釈を広げるねらいもあります。
相手が手紙に綴った「夏」のイメージと、自分のイメージする「夏」の共通点・相違点に目を向けることで、夏を感じる情景やそれを表す言葉について理解を深めることができると考えました。
5. 1人1台端末活用の位置付けと指導のポイント
(1)視覚的情報による語彙理解の充実と、情報収集
ICT端末を活用して、二十四節気の語彙に関連した動画や画像を視聴するようにします。これによって児童が情景を具体的に思い浮かべながら語彙を理解、獲得することができます。
また、暑中見舞いの形式や文化については、インターネット上に関連記事が多数見つけられるため、教師が事前に閲覧したサイトをモデルとして参照させてもよいでしょう。ただし、本単元ではあまり形式的な書き方にならないように留意したいです。
インターネットから情報を獲得する際には、情報リテラシーの側面から、引用の方法や出典の明記のしかたを指導する必要があることも頭に入れておきましょう。
6. 単元の展開(3時間扱い)
単元名:暑中見舞いを出し合おう
【主な学習活動】
・第一次(1時)
① 夏を表す語彙を知り、夏の語彙カルタをする〈 端末活用(1)〉
・第二次(2時、3時)
② 身近で感じた「夏」を伝え合い、暑中見舞いを書く〈 端末活用(2)〉
③ 届いた暑中見舞いに返事を書き、学習をまとめる
全時間の板書例と指導アイデア
●発問の例
「春のいぶき」で学習した二十四節気を覚えていますか?
「春の語彙カルタ」をやったね!
二十四節気で夏はどのように表されるのかな?
今回も二十四節気の夏言葉をまとめて、夏の語彙カルタをやりましょう。
● 指導のポイント
・既習事項を想起させながら、本単元の学習の見通しを共有します。「春の語彙カルタ」が掲示物として貼られていると、より過去の学びを生かしやすくなり、効果的です。
● 留意点
・二十四節気は自然や生き物の様子を表す言葉が多いですが、「芒種」に穀物の種をまく時期という意味合いが含まれているように人間の営みが垣間見える言葉もあります。そのことに自分で気付く子もいれば、そうではない子もいることでしょう。こういった言葉については学級全体で立ち止まり、日本の暮らしや文化について全員が理解を深められるように支援しましょう。
● 端末活用の方法や効果
・二十四節気についてまとめる際に、調べ学習の支援ツールとして用います。画像や動画など視覚的な情報を得ることで、語彙の理解を助けます。
<ワークシート>
〇 夏の語彙カルタの実際
● 発問の例
ちょうど今の時期に送られる手紙のことを何と言うか知っていますか?
暑中見舞いです。
小暑と大暑の間に送られるから「暑中」なんだね。
どうしてこの時期に手紙を交換するのだろう?
● 指導のポイント
・授業の前半は暑中見舞いという文化について理解を深める時間です。ICT端末を活用して、児童に調べさせながら、起源などについても触れられるとよいでしょう。
・授業の後半は暑中見舞いを書く時間となります。モデルとなる暑中見舞いを教師が用意しておくとよいでしょう。準備が難しい場合は、インターネット上で参考となる手紙の例が多数見つけられるため、それらを紹介してもよいでしょう。
● 留意点
・この活動では、自分の感じた「夏」に関連させながら、季節の便りを書くことをねらっています。
したがって、あまり形式的な書き方にならないように留意しましょう。書き出しを「暑中お見舞い申し上げます」とする程度に留めて、あとはその子らしい書き方を促しましょう。
・手紙の相手を決める際には学級の実態に合わせて、適切な方法を採ってください。
・学級内に簡易ポストを設けて、書き終えた手紙を投函できるようにすると効果的です。
● 端末活用の方法や効果
・情報の検索ツールとしてICT端末を活用します。検索をすると、暑中見舞いの文化について紹介したサイトや記事を多数見つけることができます。その際、出典やURLを書き留めるなどの情報の扱い方についても必要に応じて指導します。
● 発問の例
届いた手紙にはどのような「夏」が書き表されていましたか?
ぼくは「夏といえば海」というイメージだったけど、出してくれた子は「暑いから家の中にばかりいる」と書いてあってなるほどなあと思った。
昆虫と草木という違いはあったけど、どちらも「活発になる」というところは同じだなあと思った。
● 指導のポイント
・授業の前半は届いた暑中見舞いの中で書き表されている「夏」と、自分の書き表した「夏」の共通点・相違点に着目します。そこから気付いたことを相手への返事の内容に取り入れるように促します。
・授業の後半はワークシートを用いて、本単元の学習を振り返ります。相手の返事が届いてから行ってもよいでしょう。
● 留意点
・児童は手紙が届いたことの嬉しさを感じていることでしょう。こうした簡易的な仕掛けでも手紙のよさを実感することができたことに触れ、日常的に手紙を書くことのよさを共有しましょう。
・文面に添えたイラストの上手さなどが目につきやすくなりますが、あくまで言葉の学習であることを子供が意識できるように、言葉に注目するような声かけをしましょう。
<ワークシート>
イラスト/横井智美