授業力を高めたい!③ 指導案に思いを込める|樋口綾香のすてきやん通信

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板書や指導のコツを伝授!樋口綾香の「すてきやん通信」

大阪府公立小学校教諭

樋口綾香

Instagramでは2万人超えのフォロワーに支持され、多くの女性教師のロールモデルにもなっている樋口綾香先生による人気連載! 研究の仕方が分からなかったり一人では不安だったりする先生に向けて、授業力を高めるための手段や考え方についてお伝えするシリーズの第3回です。今回のテーマは、「授業案に思いを込める」。いっしょに学んでいきましょう!

執筆/大阪府公立小学校教諭・樋口綾香

イラストAC

指導案を書くことの価値

前回のテーマ「一年の見通し」では、以下のことに留意して授業研究を進めていくことについてお伝えしました。

  1. 個人研究テーマのために、自分ができることを具体的に考える
  2. 各学期に1本、指導案(略案)を書いて、授業を行う予定を立てる
  3. 授業につながりが生まれるように工夫する

今回は、上の②にあたる、「指導案の書き方」について詳しく考えていきましょう。

指導案を書くことに対して、みなさんはどんな思いをもっていますか。決して楽な作業ではないですよね。経験が浅かったころの私は、文章力がなく、苦行以外の何物でもありませんでした。50本を超える指導案を書いてきた今でも、指導案を書くのは、骨が折れる作業です。

しかし私は、この大変な思いをしながら書く指導案が、授業力を高める鍵であると考えています。

単元の全体を見通して、指導目標や評価規準を明確に捉え、それらを達成することのできる授業を組み立てていきます。一時間や一活動を見るのではなく、単元全体の中で、授業者の意図と子供の思考のつながりを織り交ぜながら、子供たちが理解を深められる授業をつくっていきます。

この計画を立てる過程において、「授業者」と「学習者」の立場を行ったり来たりしながら、思考錯誤を繰り返して指導案を書き上げることで授業力を磨いていきます。

  • 予想した子供の反応と実際はどんな違いがあったか。
  • 指導言や活動は目標を達成するために有効であったか。

など、自分が考えた授業実践を振り返るために、指導案は大きな役割を果たすものです。

しかし、上記のような指導案の価値を、十分に受け取れない書き方をしている場合があります。どのような書き方なのでしょうか。

指導案の価値半減? こんな書き方はもったいない!

NG① 項目ごとに分担して書く。

教材観、児童観、指導観、単元計画など、項目ごとに分けて指導案を書いているという話をよく聞きます。私もかつてこのように取り組んだことがありました。

指導案を書くとき、もっとも重要なのは、「授業者の意図」です。「研究授業ありき」で考えるのではなく、「子供ありき」で授業を考えます。目の前の子供たちが今どんな様子なのか、その子供たちにどの力をつけられる教材なのか、力をつけるためには、どんな活動がよいのか、と考えることが重要なのです。つまり、教材観も児童観も指導観も単元計画もつながりあっています。バラバラに分担してしまっては、このつながりが指導案の中に生まれません。

NG② 指導書をそのまま写す。

指導書は、具体的なクラスを想像して書かれたものではありません。そのため、大きな提案もありません。

一方で指導案は、目の前の子供のために、授業者が考え抜いた、最善の方法について書かれたものであることが望ましいのです。そのため、今のクラスで実践していること、子供たちの具体的な学習履歴とその結果、課題やそれを解決するための手立てなど、指導書には無いオリジナリティを出して、授業者の思いを込めていくことが大切です。

NG ③指導案検討によって、細かな表現を指摘しすぎる。

指導案検討というのは、授業者が指導案を書き上げたあと、学年や教科部会等で指導案を読み合わせて、授業がうまくいくかどうかを検討するものです。

指導案検討は本来、想定した授業が無理なく流れるか、子供たちの思考はつながるか、教科の見方・考え方を働かせた活動になっているかなど、「授業者」「学習者」「教材」それぞれの立場から吟味して、よりよい授業になるよう意見を出し合います。

しかし、言葉の揚げ足取りのように表現について指摘したり、誤字脱字だけを見るのは、指導案検討とはいえません。このようなことに時間をかけた結果、授業者の思いが失われてしまっては、とても残念です。

指導案の価値倍増! こんなところに思いを乗せよう!

①児童観

  • その教科の学習に対する子供の様子
  • 子供の力を伸ばすために今のクラスで実践していること
  • その教科の子供たちの具体的な学習履歴とその結果(成果と課題)

②指導観

  • 目の前の子供たちに対して、どのように授業をしたいか(どんな子供たちを育てたいか)
  • 教材のおもしろさを引き出すポイント(提案)
  • 教材のおもしろさを子供に生かすポイント(手立て)

③単元の指導計画

  • すべての授業のつながりはあるか
  • 本時の授業で引き出したい言葉や、身につけたい力は、どの授業とつながっているか
  • 子供たちが主体的に動き出せる工夫はあるか

④本時案の指導上の留意点

  • 学習活動一つひとつにどんな授業者の意図があるか
  • 子供の予想される反応はどうか
  • どのような発問で活動をつなぐか
  • 子供のどんな思考を引き出すために、どのような手立てを講じるか

私は、③と④に時間をかけています。

単元の指導計画(③)は、1時間1時間の授業を細かに想定して、初めて書くことができます。本時案ができてから書きなおすので、いつも指導案の項目の中で最後に書き上げることになります。

本時案の指導上の留意点(④)は、ぎっしり埋めることを目標にしています。

以前、児童の学習活動に「音読する」とあり、指導上の留意点について何も書いていない指導案を見たことがあります。指導上留意することが何もないというのは、「音読する」活動自体、なくてもよいものと捉えることができます。子供たちは、ただ音読するだけ、ということになります。

なぜ子供たちは音読するのか、めあてに対してどんな意味があるのかを考えて、指導上の留意点を書く必要があるのです。例えば、「〇〇の心情の変化を考えて音読させる」や、「音読することで、物語の山場を捉えられるようにする」など、子供たちに着目してほしい視点や、学習の意図を書きます。

授業者の思い

指導案は、授業者の思いを参観者に明確に伝えるものでないといけません。

参観者は、指導案を読むことによって、授業者がこの1時間で何をしたいのか、そのためにこれまでどんなことを意識して取り組んできたのかというこれまでの積み重ねを想像し、学びに変えていきます。

授業者は、自分の実践を振り返るとともに、子供たちの様子を細かに観察し、実態と課題を捉えて、目指す授業や子供たちの姿をアップデートしていきます。これを繰り返すことで、授業力を高めていくのです。

書いたものは残り、自分の財産となります。ぜひ、授業者の思いがつまった指導案を書いてみてくださいね。

最後に、私の国語科学習指導案を公開しますので、参考にしてみてください。

樋口先生の国語科学習指導案ダウンロード(PDF)

樋口綾香教諭

樋口 綾香

ひぐち・あやか。Instagramでは、ayaya_tとして、♯折り紙で学級づくり、♯構造的板書、♯国語で学級経営などを発信。著書に、『3年目教師 勝負の国語授業づくり』(明治図書出版)ほか。編著・共著多数。

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