子供の「自然をみつめる感覚」を磨く指導アイデア【理科の壺〜理科担任のはじめ方】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
【理科の壺】
子どもの「自然をみつめる感覚」を磨いてみませんか?

私たちが日常生活をしていると、特に意識しない限り何かをしっかり「みる」ということはしないと思います。例えば、私たちが出勤するときに毎日通る道、ここに木があるということはなんとなくわかっていても、どんな木があるのか、どのような形の葉っぱのなのか、など、細かなことを気にしていないですよね。でもそれをしっかり見ようとしたとき、何を見ますか? 「形」「色」「種」など、、、。「みるための観点」をもって物事を見ないと、自然事象を見ることはできないのです。理科では自然を様々な視点でみることができる「引き出し」を増やしたい。小学校理科では、どのように「自然をみつめる力」をつけるのでしょうか? 優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような“ツボ”が見られるでしょうか?

執筆/神奈川県公立小学校総括教諭・佐藤洋一
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

子どもの「自然をみつめる感覚」を磨いてみませんか?

学習をスタートして1か月。一緒に学んでいる子どもたちには、せっかくなら理科好きになってほしいと思いませんか?
そのために理科の授業で、子どもの「自然をみつめる感覚」を磨いてみませんか? 「自然をみつめる感覚」とは、自然の「あれ? 不思議だな」「もしかしたら…?」「こんなきまりがあるのか!」などを、自分で見つけられるようになるための感覚です。今まで見つけにくかったことを見つけられる感覚が身に付いたら…。理科好きになること間違いなしです。
「自然をみつめる感覚」を磨くには授業と授業を繋ぐことが大切です。授業で磨く「自然をみつめる感覚」って何なのか? どうやって繋ぐのか? 3年生の「植物を育てよう」と「昆虫を育てよう」の授業を通してご紹介します。

「生き物の成長を『 形 ・ 数量 』の変化でみる」という感覚を磨く視点でみてみましょう。

事例1 3年「植物を育てよう」

その1「種(たね)との出合い」

この単元では、花の種子を受け取った子どもたちが、その成長を期待することから学習がスタートします。育てたい理由を子どもたちにたずねると…「どんな芽が出るのか知りたいから!」「いつ芽が出るのか知りたいから」「どんな花が咲くんだろう? 楽しみ!!」と大盛り上がり。そこで、種と出合って、知りたくなったことを整理すると、これから学んでいくことが「植物の育ち方」であることがはっきりしてきます。
こうやって、「種はこの後どのように育つのだろうか」という単元を通した問題意識をもつことができます。

その2「芽との出合い」

「植物の育ち方」という問題意識をもって栽培活動を行ってきた子どもたちは、しばらくすると変化に気付き、喜びます。種から、芽が出ているのです。
マリーゴールドやホウセンカなど、数種類から種を選択して栽培している場合は、芽を比較することで、種類による芽の形の違いや、双葉の数が同じ(2枚)であることに着目することができます。
さらに、成長を観察すると、新しい形の葉(本葉)が見られることや、葉の数が増えていくことにも気付きます。こうやって、植物の成長と「形」や「数(量)」の関係性に気付いていきます。

「自然をみつめる感覚を磨く」ポイント
ここでは、「芽との出合い」で変化を感じた「形」や「数(量)」が、「自然をみつめる感覚」です。例えば「種から、白いひものようなもの(根)と葉っぱが2枚出てきた」のように、形や数で変化を捉えたものです。これは、2年生までの栽培経験で味わってきた「種から何か出てきた」や「新しい葉っぱが出てきた」という驚きを感じる学びから一歩踏み込んで、植物の変化を具体的に捉えています。自分も他者も「育ち方」について、同じように納得できる捉え方ということもできるでしょう。
このように、同じ感覚を通して自然を見つめ、同じことを捉えられたときに、子どもは納得します。そして、この感覚は、「次の形は…」「次の数は…」と、次の成長への明確な見通しへとも繋がっていきます。
芽と出合ったばかりの時期の子どもたちは「成長すると『形』や『数(量)』が変化する」という感覚をもち始めたばかりです。理科学習における初めての「自然をみつめる感覚」ですから、ここで全員に教え込む必要はありません。成長にともなって、形や数(量)が変わっていく様子に何度も出合い、感動し、観察することで感覚が磨かれていくと考えて指導していくとよいでしょう。

【子どもの自然のみつめ方の変化】  
~その2「芽との出合い」を通して~

〈例〉(芽が出た)変化した

~「自然をみつめる感覚」を磨いていくと…~

〈例〉種から種類によって形が違う芽が出た。葉は2枚。白い根みたいなものもある。成長すると形の違う葉が出てくる。etc.

事例2 3年「昆虫を育てよう」

その1「チョウの卵との出合い」

この単元では、モンシロチョウやアゲハチョウなどの卵を発見した子どもたちが、その成長を期待することから学習がスタートします。育てたい理由を子どもたちにたずねると…「どんな赤ちゃんが出てくるのか知りたいから!」「いつ生まれるのか知りたいから」と大盛り上がり。そこで、卵との出合いを通して、知りたくなったことを整理するとこれから学んでいくことが昆虫の「育ち方」であることがはっきりしてきます。
こうやって、「卵はこの後どのように育つのだろうか」という単元を通した問題意識をもつことができます。

※ここまで、読んでいただいた読者の方はもうお気付きですね。「自然をみつめる感覚」を磨くことを意識して単元を構想すると、「植物を育てよう」と同じように単元は進んでいきます。

その2「チョウの幼虫との出合い」

「育ち方」という問題意識をもって飼育活動を行ってきた子どもたちは、しばらくすると変化に気付き、喜びます。卵から、幼虫がかえっているのです。
モンシロチョウやアゲハチョウなど、数種類から卵を選択して飼育している場合は、幼虫を比較することで、種類による幼虫の形の違いや、いわゆるチョウの形ではなくイモムシの形をしていることにも着目することができます。
さらに、飼育を続けて成長のようすを観察し続けると、大きさ(数量)が著しく変化していることにも気付きます。また、アゲハチョウは形の変化が著しいことにも着目することができます。こうやって、昆虫の成長と「形」や「数(量)」の関係性に気付いていきます。

蝶の成長と、種の発芽で気づきをする子供

「自然をみつめる感覚を磨く」ポイント
「幼虫との出合い」で、変化を感じた「形」や「数(量)」が、「自然をみつめる感覚」です。「成長すると『形』や『数量』が変化する」という感覚を身に付けた子どもたちは、「アオムシがチョウより大きいぞ。この後どうやって、チョウの形に近づいていくのかな?」「サナギになるって聞いたことがあるよ。」などと形や数(量)に着目して見通しをもつことができるようになっていきます。

資質・能力の育成プラスαの気持ちで

2つの単元の途中までご紹介してきました。「生き物の成長を『形・数量』の変化でみる」という感覚に重点を置くことで、続きが見えてくると思います。「生き物の成長を『形・数(量)』の変化でみる」という感覚がそれだけ、この2つの単元において重要だからだといえるでしょう。この感覚は、4年「あたたかさと生き物」5年「魚のたんじょう」でも活かすことができて、同様の授業デザインが可能になります。
学校の授業では、複数の子どもが様々な感覚で自然をみつめます。自由な感覚で自然をみつめ続けると、「理科」だったはずの学習が、まるで別の教科のようになってしまうこともあるほどです。
理科には理科の「自然をみつめる感覚」が必要です。同じ感覚を使ったときに、同じことがいえれば子どもは「本当だ」と納得できるからです。ばらばらの感覚を使ったときには、その反対で、他者が納得のできないものになってしまうおそれすらあります。
資質・能力を育成していくことはもちろん大切なことです。プラスαの気持ちで「自然をみつめる感覚」を磨きましょう。そして、自分も他者も納得させる感覚をもった、理科好きの子どもを育てていきませんか?

「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。

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〈執筆者プロフィール〉
佐藤洋一●さとう・よういち 神奈川県公立小学校総括教諭。理科を中心に日々実践研究を行う。「これからはじめる“GIGA”全学年・全単元×1人1台端末×活用事例」(日本標準)執筆。川崎市立小学校理科教育研究会研究推進部長。

寺本貴啓先生

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。

イラスト/難波孝

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