小学生のLGBTに教師としてどのように向き合うか?【専門家が解説】
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割合から推測すればクラスの中に1人~2人いるかもしれないLGBTの子どもたち。今認識できていなくても、そういう子どもがいるのだという意識を持って教室の子どもたちと接していたいものですね。
この記事では、NPO法人えじそんくらぶ代表で臨床心理士の高山恵子さんと、明治大学准教授で多様な性(セクシュアリティ)に対する臨床心理学的支援が専門の佐々木掌子先生に、LGBTの子どもたちが、安心して過ごせるクラスづくりについてお伺いしました。
監修/高山恵子・佐々木掌子
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目次
平成27年に文部科学省が通知
文部科学省が性的マイノリティの子供たちへの対応について初めて言及したのは、平成27年の性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について』という書面です」と、教えてくださったのは、佐々木掌子先生です。臨床心理士として性的マイノリティの子や、その保護者のカウンセリングをしています。通知による学校での対応で気をつけてほしい点は、「性に合わせた配慮をするために診断書は不要」ということです。
診断は身体的治療のためですが、学校から診断書を求められ、当事者や現場が困ることもよくあります。(佐々木先生)
この通知には、「支援の事例」も記載されていますが、その事例通りに支援しなければいけないということでもありません。
「大切なのは、教師がそれぞれの子の性の在り方を尊重し、子から学ぶ姿勢を持つことです。尊重することは特別なことではなく、当たり前にみんなで考えていく問題だと思います」(佐々木先生)
「今日、初めて聞きました」研修会でのいつもの風景
「LGBT研修会で話をすると、よく『今日、初めて聞きました』と言われます。LGBTとは同性を愛するレズビアン(L)やゲイ(G)、両方の性を愛するバイセクシュアル(B)、異性として生きるトランスジェンダー(T)、『LGB』は好きな対象の性、『T』は自分自身の性の話なので、直面する課題が違うといった基本的な話でも、『何となく知ってはいたけれど、やっと整理がつきました』と言われることも。多くの先生にとっては、今は少しずつ理解が始まってきた段階です」(佐々木先生)。
「知らない」「間違えてはいけない」と身構えるのではなく、学び始める姿勢が大切です。
悩んでいる子に出会ったことがない
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芸能人のあの人みたいな人が、ゲイなんだよね? うちのクラスにはいないと思うけれど。
高学年になれば、「性」で悩んでいる子もいます。
「成長が早い子の中には、『自分は何か違うかも』と、漠然とした性の悩みを一人で抱えていることもあります」(佐々木先生)。
どうすればよいか、よくわからない。
教え方、接し方を教わっていないし、間違えたら怖いから、なるべくそのことに触れないでおこう。
「わからない」では、もうすまされないのです。「性」とは、人が生きると書きます。小学校高学年ともなれば、子供の個性を尊重する上で、「性」は避けては通れない事柄です。
特性:可視化するのが、難しい特性である
見た目で決めつけたり、それらしい子にカミングアウトを強制はできません。多くのケースが話してくれないので、それが難しいですね。(佐々木先生)
支援策:「よくわからない」のなら、学ぶ姿勢が大切です
「配慮しすぎることでまったく触れないのでは、『いないことと同じ』になってしまいます。大切なのは、教師自身が、これから学んでいこうという姿勢を子供たちに示すことです。『LGBTのことは先生も勉強を始めたばかりだから、言葉選びなどを間違えてしまうかもしれません。何か間違えたことを言っていたら、教えてください』そんなふうに子供たちに話してみるのもよいと思います。先生が学んだことをクラスで話題にすることも大切です。『先生は、理解があるんだ』と安心する子が、きっといると思います」(佐々木先生)。
気になる言葉の注意方法がわからない
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その言葉、聞き捨てならない。けど・・・どう注意すればいいかわからない。
当事者の多くが気にしている事柄です。「性を揶揄するような言動を先生が容認しているということは、当事者が傷つく事の一つです」(佐々木先生)。
「冗談で、ちょっと言っただけなのに」と、反論されたら?
イラつく気持ちの発散方法がわからなくて、そういう言葉を使うのかもしれないし…。
「どうして、そういう言動をするの? その言動は、他の人の性を揶揄していることになるんだよ」と、先生が毅然とした態度で接することが大切です。
支援策:安心して過ごせるクラスは、性を揶揄する言動のないクラス
誰もが安心して過ごすためには、性を揶揄する言動をなくす必要があります。教師は、まず、どんな言動が性を揶揄していることになるのかを教えます。「おかま・おなべ、女みたい・男女、ホモ・レズといった言葉で傷ついている子供たちは、たくさんいるのです(佐々木先生)」。
そうは言っても、こうした言動は癖になっているので、なかなか減りません。子供はメディアの中や、大人が無自覚に話しているのを聞いているからです。ですから、こうした言動をする子を、ただ注意するのではなく、「その言動は、あなたの癖になっているんですね。その癖を自覚して、今から気をつけていきましょう」と、言動をしてしまう側の子供とも向き合い、丁寧に指導していきます。安心なクラスづくりには、性を揶揄する言動に対し毅然とした指導ができる教師の姿勢が必要です。
男の子が男子用水着を嫌だと言っている
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そう言われても、どう対応すればいいんだろう?対応策がまったく思いつかない!
子供の話を評価せずに真剣に聞くことから。「そうか、そうなんだね」と、まずは子供の気持ちを受け止めます。この場合、大切なことは、教師が傾聴の姿勢を示すことです。
こんな時、教師として何をどんなふうに話せばよいのかがまったくわからない!
その水着のどんなところが嫌なの? その子の「困り感」のヒヤリングをします。男子用の水着が嫌だからといって、すぐさまトランスジェンダーとは限りません。
支援策:教育相談レベルではなく専門機関との連携が必要な時も
私自身、保健所で相談を受けたことがあります。その時は、男の子が自分の性器に対して嫌悪感を訴え、トイレに行くたびに苦痛を感じていました。教育相談のレベルではなく専門家との連携が必要と判断し、保護者には専門機関に相談するようアドバイスしました。
●ジェンダーの相談が可能な機関
■ちあきクリニック
http://chiakiclinic.littlestar.jp/index.html
心療内科・精神科のクリニックで、松永院長は性の違和感を持つ人に対し、個性や多様性を尊重した治療を行っています。
■ NPO法人 LGBTの家族と友人をつなぐ会
http://lgbt-family.or.jp/
LGBTの周りの家族や友人たちが当事者を受け入れていくことをサポートする活動を行っているNPO法人です。
■明治大学心理臨床センター
https://www.meiji.ac.jp/ccp/
本記事でお話をうかがった佐々木掌子先生の相談窓口です。
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高山恵子さん
NPO法人えじそんくらぶ代表『特性とともに幸せに生きる 高山恵子著/岩崎学術出版』など著書多数。診断名にこだわらず、その子の特性を理解し、一緒にうまくいく方法を考える指導を実践・提唱中。
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佐々木掌子さん
明治大学准教授。多様な性(セクシュアリティ)に対する臨床心理学的支援が専門。「多様性を目指す教員の会」(※)にも関わっている。
※「多様性を目指す教員の会」 http://diversity-teachers-network.com/
LGBTなどの子供たちが過ごしやすい教室を作るために、教職員を中心に構成された勉強会。
取材・文/楢戸ひかる イラスト/畠山きょうこ
『教育技術 小五小六』2019年7/8月号より