小2道徳「ぐみの木と小鳥」指導アイデア
使用教材:ぐみの木と小鳥(学研教育みらい)
執筆/埼玉県公立小学校教諭・藤原祐介
監修/前・埼玉県公立小学校校長・藤澤由紀夫、文部科学省教科調査官・浅見哲也
目次
授業を展開するにあたり
教材について
「ぐみの木と小鳥」は、教科書会社6社に掲載されているほどの名作の一つです。ぐみの木の実を食べにきた小鳥が、最近姿を見せないりすのことを聞き、ぐみの木の代わりに嵐の中でもりすの見舞いに行く、心温まるお話です。
低学年の発達の段階と教材の内容
低学年の子供は、まだ自己中心的な考え方をすることが多いものの、心の中はとても純粋です。そうした子供たちだからこそ、空想的な想像の世界に浸ることのできる発達の段階を生かし、「ぐみの木と小鳥」の温かい世界観に没入させ、感動を味わわせながら、親切のよさについての考えを深めさせることが大切です。
教材の世界観を大切にして
昨今、道徳科においても、教材の内容や発達の段階を問わず、すべての授業の導入で必ず「めあて」や「学習課題」を立てることが多くなったように思います。また、低学年の子供に対して、導入時より「親切」という言葉を示して進める展開もよく見ます。しかし、それらを毎時間必ず行うようにすることが、果たして低学年の子供たちにとって本当に効果的なのでしょうか。
今回は、導入で「親切」について想起させることはあえてせず、物語の世界に浸らせながら、自ずと「親切」のよさに気付かせていく展開を考えました。
展開の概略
1 「ぐみの木と小鳥」の舞台と登場人物を説明し、世界観に入り込ませる。
2 教材提示をする。ペープサートを動かす、嵐の音をBGMで流すなど、臨場感を演出しながら教材を提示する。
3 小鳥に自我関与させながら、親切にすることのよさや難しさについて、以下の視点で考えられるようにする。
①「ぐみの木」から「りす」が姿を見せないことを聞き、「小鳥」はどう思ったか。
②嵐がやみそうもない中、「小鳥」はどんなことを考えていたか。
③嵐を乗り越えて「りす」に実を届けたときの「小鳥」と「りす」の思い。
④「小鳥」をどう思うか、また、どんなところが優しいか。
4 親切にしたり、されたりした経験を想起し、「やさしさカード」に書き、それを「ぐみの木」の掲示に貼る。
5 教師が説話をする。
▼ワークシート
▼やさしさカード
実際の授業展開
主題名
相手のことを思って
教材名
ぐみの木と小鳥
ねらい
小鳥に自我関与して話し合うことを通して、相手のことを考えて優しく接するよさに気付き、身近な人に温かい心で親切にしようとする態度を育てる。
内容項目
B 親切、思いやり
準備するもの
・ぐみの木の掲示物
・小鳥のペープサート
・やさしさカード
・ワークシート
ワークシートやイラストのPDFはこちらよりダウンロードできます
指導の概略(板書計画例)
導入
①登場人物や、ぐみの木と小鳥の世界を知る。
- 小鳥になりきって羽を動かし飛ぶ真似をさせるなどしながら、教材の世界観に入り込ませ、より深く登場人物に自我関与できるようにする。
展開1
②りすさんがこのごろ姿を見せないことを聞いた小鳥さんは、どんなことを思ったでしょう。
- 小鳥がりすのもとへ見舞いに行った理由を考え、困っている人の身になって手助けしたいと思うときの気持ちを考えられるようにする。
展開2
③やみそうにない嵐の中、小鳥さんはどんなことをじっと考えていたのでしょう。
- 嵐の中、りすのもとへ行こうか迷っている小鳥の心の中を心情円盤などで表現しながら話し合い、親切にすることの難しさや大切さについて考えられるようにする。
展開3
④嵐の中、小鳥さんがぐみの実を届けたとき、小鳥さんとりすさんはどんなことを感じたでしょう。
- 嵐の中、ぐみの実を届ける小鳥と届けてもらったりすの役割演技をする。それを通して、親切にしてよかったという小鳥の気持ちをより深く捉えられるようにし、親切にすると、お互いに気持ちが温かくなることを実感できるようにする。
展開4
⑤小鳥さんのことを、みんなはどう思いますか。どんなところが優しいと思いますか。
- 客観的な視点に立って小鳥の姿を捉え、小鳥のどんなところが優しいかを考えることで、相手のことを思って行動するよさについて焦点化できるようにする。
展開5
⑥みんなも、小鳥さんのように相手のことを思って優しくしたり、されたりしたことがあると思います。そのときの気持ちを思い出してみましょう。
- 相手のことを思って親切にできた経験やされた経験を想起させ、「やさしさカード」に書き、黒板に掲示したぐみの木に貼らせていくことで、子供の中の親切な心を視覚化する。
終末
⑦親切に関わる子供の作文を読み聞かせたり、日ごろの子供の親切な行為を紹介したりする。
- 相手のことを考えて親切な行為をする大切さやよさを 改めて実感できるようにする。
ここがアクティブ! 授業展開の補足説明
役割演技の方法
相手のことを考えた親切のよさを実感できるようにするために、嵐の中、「小鳥」が「りす」のもとへ行こうと決意し、力をふり絞って飛び続けて「りす」のもとへたどり着き、「りす」と会話をした一連の流れを役割演技で表現します。
その際に重要なのは、教師の役割です。まず、役割演技を見る観客の子供に対しては、「『小鳥』と『りす』の様子や会話から、二人がどんなことを感じているかに注目しましょう」などと、見る視点を明確に伝えます。次に、演者の子供に対しては、教師は「監督」として、その場の状況を適切に設定し、役割演技をリードします。
例えば、嵐の中で飛んでいる小鳥の演者にして、「雨が羽に強く当たって痛いよ。どう思うかな」などと投げかけながら、「小鳥」が嵐の中を飛んでいるときの心の声を引き出します。その過程を経て、最後に「りす」の演者と言葉を交わすと、親切に行動したときの思いがより鮮明になります。
そして、演技後に、「二人はそれぞれ、どんなことを感じたかな」と投げかけ、観客と演者を含めた全員で、相手のことを思って親切にするよさについて話し合い、考えを深めていきます。
自分たちの親切な心を視覚化
自己を見つめる学習活動の際、自分が親切にしたりされたりした経験を「やさしさカード」に書き、黒板に掲示した「ぐみの木」に貼るようにします。こうして、子供の親切な心を視覚化し、「自分たちの生活の中にも『親切』があふれている」ことを実感させ、これからも相手のことを思って行動しようとする心を育みます。
授業をするうえでの注意点 ・ ポイント解説
この教材による授業は、ともすると、「危険を顧みずに自己犠牲をはらって困っている人を助けることがよいこと」と感じさせる方向に流れてしまいます。そうならないよう、「相手のことを思って行動すると、お互いに気持ちが温かくなる。それは、普段の生活の中にもたくさんある」ということに十分に共感させ、焦点化することが必要です。
そのために、役割演技後の話合いで、小鳥とりすで共通する気持ちを確かめたり、「小鳥さんのどんなところが優しいかな」と発問し、小鳥の行動を客観的に捉えます。そのうえで、自分の親切に関わる経験をふり返るようにします。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
道徳科では教材を活用して授業を行います。特に低学年の子供たちは、教材の世界に入りやすく、誰もが興味や関心をもって話合いに参加でき、それでいながら、自然にこれまでの自分の体験を重ねて考えることができます。藤原先生は、このような発達の段階を生かし、演出を加えながら教材を提示することで、子供が教材の世界に入り込み、登場人物が立たされた状況に共感しやすくしています。
この教材では、危険を顧みずに困っている人を助けることをよしとするような考えが出されることがありますが、その点にも配慮し、役割演技を取り入れて、その会話のやりとりから伝わる温かな気持ちを感じることに焦点を当てるようにしています。
ここまででしたら道徳的心情を育てる授業ですが、ねらいは道徳的態度としています。本授業で学んだ相手を思いやる親切な心は、実際にどんな場面で表れているのかを「やさしさカード」によって具体的にイメージできるようにしているのも、よく考えられた指導の工夫と言えます。
『教育技術 小一小二』2020年10月号より