小3道徳「届けたい」指導アイデア

執筆/山形県公立小学校校長・佐藤幸司

4文字の資料提示

4文字の資料

一年間の最後、35時間目の道徳は、たった一つの短い言葉を使った授業に挑戦してみましょう。まず、黙ってこの文字「届けたい」を黒板に貼ります。子供たちの間から「届けたい…」という声が聞こえてきます。

「届」は、六年生で学習する漢字です。でも、読める子が何人かいます。子供の声(つぶやき)を拾って、「こんな難しい漢字、よく読めたね」と返します。届けたい―。たったこれだけの短い言葉から、子供たちは何を思うでしょうか。

「自分なら?」を問う

「届けたい」の読み方とその意味を確かめてから、子供たちに問いかけます。

「あなたは、だれに、何を届けたいですか」

「だれに?」の問いに対する子供たちの答えは、「友達・家族・外国の人たち」などに分けられます。届けたいものの中身は、「言葉・気持ち・元気・平和」など、さまざまな答えが出されるでしょう。

子供の意識は、友達から家族へ、そして、世界中の人々へと広がっていきます。全員の発表を終えたら、「質問タイム」を取ります。「もっと知りたいこと、詳しく教えてほしいこと」を出し合って、意見交流を深めます。

次に、自分たちが考えた「届けたいもの」を一つの言葉でまとめてみます。この思考により、それぞれの「もの」に共通する願いが見えてきます(子供たちは、「幸せ」という言葉でまとめました)。

読み聞かせで閉じる

『幸せの王子』(オスカー・ワイルド作)という童話があります。

町の中心に立つ王子の像に、南の国からツバメがやってきた。ツバメは、王子の涙に気付く。王子は、町の不幸せな人たちのことを思い、涙を流していたのだ。ツバメは王子の頼みを聞いて、その人たちに、王子の目に埋め込まれていた宝石を届ける。▼冬が近付き、ツバメは南の国へ帰らなければならない。しかし、ツバメは、王子の願いを聞いて、宝石を届け続ける。いよいよ雪が降り始めた頃、外見は輝きがなくなった王子の像は、何も知らない人々によって倒されてしまう。▼ツバメは、王子の像のわきで永遠の眠りについた。

誰かに幸せを届けられる人は幸せです。だから、この話の題名は『幸せの王子』だったのだと、子供たちの発言から気付かされました。

▼ワークシート(ダウンロードして使えます)

ワークシート
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実際の授業展開

タイトル
届けたい

指導目標
「届けたい」という一つの言葉から、だれかを思い、命あるものを大切にしようとする思いを広げることができる。

内容項目
D 生命の尊さ

準備するもの
・「届けたい」(黒板掲示用の文字)
・児童用ワークシート
・『幸せの王子』オスカー・ワイルド作(読み聞かせ用)

ワークシートのダウンロードはこちらからできます

指導の概略(板書計画例)

板書計画例

【導入】

  • 「届けたい」という言葉を黙って黒板に貼る。

①なんと読むでしょう。

  • 読める子を指名して発表させ、ルビをふる。

【展開1】

②「届ける」とは、どんな意味でしょうか。

  • 終止形(届ける)を確認してから問う。意味は、教室に国語辞典があれば引いて調べてもよい。

③あなたは、だれに何を届けたいですか。

  • すぐに考えついた子を数名指名して発表させた後、ワークシートを配付して全員に書かせる。
  • ワークシートに書いたら全員が発表。出された意見は「だれに」と「何を」に分けて、板書で整理していく。

【展開2】

④友達の発表で、もっと聞いてみたいことはないですか。

  • 質問タイムを設け、それぞれの「もの」には、その人の思いが込められていることに気付かせる。

⑤みんなが考えた「届けたいもの」を一つの言葉でまとめることができますか。

  • ここでは、出された意見を全部板書し、次の発問⑥へつなげる。

⑥このなかで、全部をまとめてくれる言葉はどれですか。

  • 実際に子供たちから出された言葉のなかから選ぶ。「幸せ」のほかには、「思いやり」「心」「愛情」などが考えられる。

【終末】

⑦『幸せの王子』という童話があります。なぜ「幸せ」なのか、考えながら聞きましょう。

  • 教師の「読み聞かせ」で授業を閉じる。

ここがアクティブ!授業展開の補足説明

短い資料で授業を展開するには、何より子供たちの発言が必要になります。子供たちは、この言葉から想像を広げ、たくさんの考えを発表します。自分の考えを発表し、友達の考えを聞いていく過程において、子供たちは、「自分たちで授業をつくっている」ことを自覚し始め、学習に満足感を覚えるようになります。

子供の何気ない発言に対して、「なぜ? どうして?」と理由を聞いていきます。子供の発言には、何かしらの理由があります。そして、その理由のなかに経験が表れます。経験を語れる空間(教室)は、子供が安心して学べる空間(教室)なのです。

自分が「だれに、何を届けたいか」の発表を終えたら、質問タイムを設けます。真っ先に出されたのは、「サンタさんは、どうしてプレゼントを届けたいのですか」という質問でした。これは、毎年のクリスマスにサンタさんからプレゼントをもらっているので、そのお返しをしたいという理由からでした。

質問タイムを終えたら、「みんなが考えた『届けたいもの』を一つの言葉でまとめることができますか」と問います。子供たちからは、「贈り物・優しさ・ありがとうの気持ち・幸せ」という考えが出されました。

このなかで、全部をまとめてくれる言葉はどれかを考えさせたところ、「幸せ」という言葉が選ばれました。この流れで、最後は、『幸せの王子』(オスカー・ワイルド作)の童話を読み聞かせて授業を終えます。

授業をするうえでの注意点・ポイント解説

私は、新しい学級を担任すると、年度当初に「3月最後の道徳は、『届けたい』の授業をやる」と決めていました。少ない資料で1時間の授業を組み立てるためには、子供たちからのたくさんの発言が必要です。

道徳授業で一貫して大切にしていくのは、子供が自分の経験を語ること、すなわち自分の人生を語ることです。道徳授業づくりは、学級づくりそのものです。

一年間の道徳授業を通じて、子供は自分の経験を語る経験を積み重ねていきます。そして、3月最後の道徳の時間には、たった4文字で授業ができる学級に成長させていくのです。学級づくりのゴールを見据えた授業です。

教科調査官からアドバイス

文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也

「子供にとって一番の評価とは」

年度末を迎えて、子供たちの評価を記録に残す時期となりました。道徳にかかわる評価は二つあります。

まず、全教育活動を通じて行う道徳教育という範囲では、道徳の内容項目にかかわる指導を、道徳科の授業に限らず、各教科やさまざまな教育活動で行っているので、きっと子供たちにも豊かな心が培われ、学校のさまざまな場面でその心が行為となって表れていることでしょう。

誰に対しても優しく接している姿、最後まであきらめずに努力する姿など、このような姿は、例えば「行動の記録」や「総合所見」などで評価することができます。次に、道徳科の授業の範囲では、子供たちはどのような学びの姿を見せていたでしょうか。

道徳的価値のよさを感じていたり、いろいろな見方をしていたり、自分をふり返りながら考えていたり、学んだことを自分の生き方に生かそうとしていたりする姿を、大いに認め、励ます評価ができるとよいでしょう。

全教育活動を通じて行う道徳教育及び道徳科の授業での指導は、すべて子供たちの成長を願って行うもの。そして評価は、子供が自らの成長を実感できるように工夫するものです。子供たちにとって一番の成長につながる評価はなんでしょうか。

それは、信頼できる教師に認められることです。ぜひ、そのような評価を子供たちにプレゼントしてみてください。子供たちにしてみれば、きっと一生の宝物になることに間違いありません。

イラスト/うえだ未知 横井智美

『教育技術 小三小四』2020年3月号より

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