「ベル音読」で子供たちに喝を【先生のための学校】
新しいクラスになれてくると、子供たちは何となくだるい態度を示す時期が出てきます。こんなときは「ベル音読」でクラスの雰囲気を変えていきましょう。
執筆/「先生のための学校」校長・久保齋
くぼ・いつき●1949年、京都府京都市生まれ。京都教育大学教育学部哲学専攻卒業。教育アドバイザー。40年以上にわたり「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(学力研)」において《読み書き計算》の発達的意義について研究するほか、どの子にも均質で広範な学力をつける一斉授業のあり方を研究・実践し、現在も講演活動を中心に精力的な活動を続けている。
目次
「ベル音読」とは
まず、先生が教室にいて、ベルが鳴ったら、すぐに音読を始めるのです。これだけでも教室の雰囲気は変わります。国語はもちろん、算数、生活、音楽、図工……、教科書のある教科はすべて、その時間に学習する範囲の音読から始めます。中学校で取り組まれている「ベル着」ならぬ、「ベル音読」です。
こうすると、遅れてきた子も授業が始まっているので、慌てて音読を始めます。遅れた子は「すみません、トイレに行ってて遅れました」などと凛々しくあいさつするように指導して、すぐに音読させるようにしておきます。
そのときの音読の方法は最もシンプルな「連れ読み」です。先生が1行読んで、それを子供全員が真似をする音読です。これを大きな声で始めるのです。
音読には不思議な力がある
音読には不思議な力があります。音読すると、なぜか子供たちが学習モードに変わるのです。
授業は文字言語の世界です。遊び時間は口頭言語・話し言葉、聞き言葉の世界なのです。音読すると、子供たちは自然に話し言葉の世界から書き言葉、読み言葉の世界へ誘われていくのです。だから、「早く授業の準備をしなさい」などと注意しているよりも、大きな声で音読させれば、子供たちは自然と授業モードになっていくのです。
もう一つ大事なことは、学習する範囲を読むということです。
こうすれば、この時間で学習する内容をどの子もおぼろげながら理解し、それがクラス全体の共通理解となっていくのです。
それだけではありません。音読は教師にとっても効果は抜群です。教材研究ができていなくても、子供たちと一緒に音読していると、自然に授業のイメージがつくられてきます。
このように授業はじめの音読、「ベル音読」 には三つの得があるのです。だまされたと思って試してみてください。
音読の量を飛躍的に増やす
すべての教科で音読の訓練を
音読が、子供たちの脳を全面的に刺激する「脳の全身運動」であることが明らかにされてきました。音読は単に一つのスキルではなく、子供たちの脳そのものを鍛える行為として特別な意味をもつということです。
この音読についての担任の理解の度合いが、そのクラスの音読の量と質を決めています。現実の問題として、音読、音読と言われながら、明らかに音読の量が足りないのではないか、というのが私の感じるところです。
私は、すべての教科で音読をさせてきました。 どの教科でも、その時間に学習するところを「連れ読み」で2回音読させ、その後、数名を指名して音読させます。
普段は順番に読ませますが、 一斉読みのときにいい加減な音読練習をしている子には指名することにしています。発言準備や音読準備など、準備の時間を保障したときには誰でも指名する、というのが私のルールです。
こうして、すべての教科で音読すると決めておくと、音読の機会が一気に増え、音読するとい う心構えが子供たちにできてきて、それだけで音読がうまくなります。1時間の授業で4~5名の指名音読を入れますので、1日5時間もあれば 30 名のすべての子の音読を聞いてやることができます。
最近の教科書は、きっちりとした説明文が少なく、音読には不向きですが、地の文だけでなく、図の中の説明、キャラクターの吹き出しなど、文というものすべてを音読させます。地の文、図の解説、キャラクターの発言、それぞれをそれらしく読むように指導すると、子供たちはけっこう楽しく音読をしてくれます。
音読の心地よいクラスは学習規律の高いクラス
高学年で、ぼそぼそと音読している授業を見かけます。この場合、子供たちが「間違わずに読めているからいいだろう」という意識になっているのですが、そうなるのは担任がそういう考えになっているからです。
音読の心地よいクラスは学習規律が高いクラスです。なぜなら、学習は単に自分だけのものではなく、みんなで高め合っていくものだと子供たちが感じているということだからです。
ぼそぼそ読むのでは、みんなの前で読む意味がありません。「一斉読み」だけで十分です。 一人で音読する子は、自分の音読の中に、自分はどれくらい音読がうまくなっているのか、どれくらいこの文の内容を理解して読んでいるのかをみんなに聞いてもらおうという気持ちが必要です。また、自分の音読で、この授業を高めていこうという態度が必要です。
担任は指名して音読させた子に対して、
「音読、うまかったね。 聞いていて心地よかったよ」
「内容がよく理解できている読み方だったね」
と学習能力を評価するとともに、「明るい声で、みんながうきうきして授業ができるね」とその子の学習規律の高さもひと言評価していくことが大切です。担任は何気ない日常の評価、声掛けによって、子供たちを高みへと導いていくのです。
こうすることで、量も質も高い音読指導ができていくのです。もう一度、学年はじめに戻ったつもりで音読に取り組んでみましょう。新たなクラスの雰囲気が生まれるものです。「たかが音読、されど音読」です。
『小二教育技術』2018年10月号より