新学期の学力格差は「さかのぼり指導」で解決【先生のための学校】

連載
久保齋の「先生のための学校」

学力研 先生のための学校校長

久保齋

前の学年の学習が身についていないために、クラスの中に学力格差が発生している状態はどのクラスにもあることです。なにも対策をとらないまま授業を進めれば、特に算数においては格差がますます拡大し、指導が困難になっていくでしょう。一学期に学力格差を縮める方法は、ズバリ「さかのぼり指導」です。

執筆/「先生のための学校」校長・久保齋

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くぼ・いつき●1949年、京都府京都市生まれ。京都教育大学教育学部哲学専攻卒業。教育アドバイザー。40年以上にわたり「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(学力研)」において《読み書き計算》の発達的意義について研究するほか、どの子にも均質で広範な学力をつける一斉授業のあり方を研究・実践し、現在も講演活動を中心に精力的な活動を続けている。

どのクラスでも起こる「学力格差の拡大」

子供たちの学力格差が広がっています。

クラスの学力実態を調べると、前学年の課題が確実に身につき、すぐに授業についてこられるA群は2割、十分とは言えない中庸のB群が5割、脳の機能には問題はないが、怠けていたり、家庭の事情で学力のついていない子(私はこのような不幸な子を「仮性低学力児」と呼んでいます)のC群が2割、特別なニーズの必要な子のD群が1割という状況が全国に広がっています。

別にあなたのクラスが特別大変ということではなく、これが普通ということです。2年生で言うならば、1年生のことがしっかりわかって、2年生の授業にスーッと入っていける子と、そうでない子がいるということです。

このような事実に何も配慮せず授業を進めていけば、授業内容の理解が進まないだけでなく、格差はますます拡大し、6月には中庸の子供たちが反乱を起こして、指導困難に陥ることは必至です。

では、どうすればいいのか。答えは簡単です。授業のはじめ10分間を利用して、5月は「さかのぼり指導」を行い、学力格差を縮め、学力回復にクラスを挙げて取り組めばいいのです。

全部の教科で「さかのぼり指導」を行う必要はまったくありません。「さかのぼり指導」は、国語の読解指導の初歩算数の計算だけで十分です。

国語は授業中に今教えている教材を使って、「逐語的読解」の指導をします。これを指導すると、市販テストでどの子も100点が取れるようになるので、B・C群の子供たちがすごい自信に満ちてきます(「逐語的読解」「算数のさかのぼり指導」については『授業づくりと学級経営の技 88 』(小学館)を参考にしてください)。

理論的・分析的なルートから
直観的・全体把握的なルートへの転換

今回は「計算のさかのぼり指導」について話しましょう。

二年生の算数の指導をしていていちばん困ることは、一年生の学習が十分習熟できていない子供たちがかなりいるということです。いちおうできていても、計算が遅くて、不確実なのです。

私は「習熟」ということをよく話題にします。人間が一つのことを獲得しいくときには「わかる」「できる」の段階があり、その次に「より深くわかり、より速くでき、絶対に間違わず、その技を瞬時に応用できる」段階がきます。この段階まで鍛えられたことを「習熟」と表現し ます。

「計算のさかのぼり指導」とは、B群の学力強化、C群の学力回復、そしてD群の子の学習的特徴をつかみ、すべての子の計算の習熟を行う取り組みですが、1年生と同じ学習過程を再度行うこととは違うのです。

なぜ、二つのルートが必要なのか

私たち大人は、7+8は 15 と瞬時に答えるし、7+8が 15 になることを説明することができま す。2年生なのに7+8ができない子供に、私たちは一生懸命説明してやります。

「7に3をたしたら 10 でしょう。8から3あげたら5残るでしょう。あるいは、7の5と8の5を合体して10 。残りの2と3で5……」

しかし、このことを何回繰り返しても、この延長線上に7+8を瞬時に答える子供の姿を想定することできないのです。なぜならば、7+ 8は 15 と瞬時に答えることは7+3+(8-3) という操作に習熟し、瞬時にこの計算ができる ということではないからです。

人間の数的な認識には、そのような「理論的・ 分析的な認識のルート」のほかに、別のルート、 すなわち「直観的・全体把握的なルート」があるのです。

簡単に言えば「7+8は 14 、15 、16くらい 」という感覚です。この感覚的なルートの習熟こそが「7+8は 15 と瞬時に答える能力」に直結しているのです。私の提案する「いくつといくつの表」(下図)のクラスみんなでの暗唱は、この感覚的ルートに正確さを与え、習熟させるのに役立ちます。

『徹底反復 新計算さかのぼりプリント1年「いくつといくつの表」
『徹底反復 新計算さかのぼりプリント1年』 (小学館)より
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教師は往々に理論的・分析的方向に偏りがちです。2年生になっても計算に遅い子、不確実な子はひょっとすると、教師のこの指導の偏りによる犠牲者かもしれません。

計算が子供たちの「認識能力の基礎づくり」に役立つのは、人間の大切な二つの能力、すなわち、理論的・分析的な能力と直観的・全体把握の能力の両方を鍛えるものだからです。

2年生の「計算のさかのぼり指導」では、直観的・全体把握の能力を活性化するという新たな視点で計算の習熟に取り組みましょう。

算数の最初の10分で学力回復を

2年生の子供たちを見ていると、指を使って計算する「ゆび算」をしている子がいます。くり下がりのひき算をするとき、いつも同じところで間違ったり、立ち止まったりする子がいます。

基本計算はたし算もひき算も100問ずつ あります。しかもくり下がりのあるひき算は50問、くり上がりのあるたし算も50問あります。このような基本計算のプリントを用意して、子供たちに取り組ませますが、初めに「11からのいくつといくつの表」を壁に貼っておいて、クラスみんなで暗唱してから計算練習をします。

実は先生たちも気がついていないのですが、くり下がり、くり上がりの計算はたった20 、この数字の組み合わせでできているのです。例えば、15 は「9と6」と「8と7」の2つの組み合わせしかありません。だからこれを覚えればいい のです。この表を見ながら、みんなで声を出して暗唱します。

先生が「11は?」と問うと、子供たちは「9と 2、8と3、7と4、6と5、おしまい」とリズムにのって大きな声で答えます。「17は?」「9 と8、おしまい」「18は?」「9と9、おしまい」 というところで、なぜか子供たちは大笑いします。

こんな楽しい暗唱をやっていると、そのうちにゆび算も克服され、どの子もくり上がり、くり下がりの計算が驚くほど速く、確実になっていきます。100問計算が全員確実になった段階で100ます計算を指導し、さらに習熟させるのも一つの手です。

みんなで声を出して唱えるだけで子供たちの計算力がアップ

学校での取り組みなしに、さかのぼりの学習の取り組みを宿題でするのはよくありません。 なぜなら、できない子はできないままだし、できる子はドンドン速く、確実になるので、格差がますます拡大していくからです。

5月は「計算月間」と銘打って、授業と個別指導で格差をなくす取り組みをしましょう。きっとクラスは明るくなります。

100問計算や「いくつといくつの表」「チェックテスト」などは『徹底反復 新計算さかのぼりプリント1年』『徹底反復 新計算さかのぼりプリント2年』(小学館) にあるので活用ください。

イラスト/イワイヨリヨシ

『小二教育技術』2018年5月号より

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