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授業で育てる学級経営-春の学習を起点に相互承認の学級文化をつくろう-【学級経営1年間の見通しと毎月のアイデア#10】

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学級づくりという言葉から、学級活動や行事を思い浮かべることが多いかもしれません。しかし、子どもたちが日々最も長く過ごしているのは授業です。その授業の中でどのようなやり取りが生まれているかが、教室の雰囲気を少しずつ形づくっていきます。
クラスがまだ落ち着いていない春の時期に、まさに「春」を題材として、学級づくりに役立つ実践をやってみませんか? 今回は、そんなアイデアをご紹介します。

若手先生の航海図|学級経営1年間の見通しと毎月のアイデア バナー

執筆/環太平洋大学教授・内田仁志

授業が学級をつくるという視点

例えば、発言が一部の子どもに集中し、正解にたどり着くことだけが重視される時間が続くと、教室には見えにくい距離が生まれます。発言できる子どもとそうでない子どもが固定化され、関係は広がりません。一方で、自分の考えを言葉にし、それをもとに友達の考えを聞き、もう一度考え直すような時間が積み重なると、教室の関係はゆるやかに変わっていきます。

授業は単に知識を扱う場ではなく、関係が動く場でもあります。

「自分の春」から始める授業

春の学習に入るとき、教師が季節の特徴を説明することは簡単ですよね。でも、その前に「自分にとっての春は何? ノートに書いてみましょう」と、子どもたちに問いかけてみましょう。

ノートに書かれる言葉を見ていくと、「桜」「入学式」「いちご」といった言葉に加えて、「帰り道の風」「校庭のにおい」といった表現も見られます。同じ春という言葉であっても、子どもが見ている世界はそれぞれ異なっています。

ここで教師が整理してしまうと、言葉はそこで止まります。あえてそのまま並べていくことで、「人と違っていてよいのだ」という空気が教室に生まれます。この空気が、その後の学びを支える土台になります。

ベスト3が言葉に厚みをもたせる

春に連想する言葉をたくさん出したあとは、自分の中での「春のベスト3」を考える活動に移ります。この活動を入れることで、子どもの思考にもう一段階の深まりが生まれます。

単に「春といえば何か」を挙げるだけであれば、言葉は並びます。しかし、「3つに絞る」となると、子どもは手を止めて考え始めます。どれを残すか、なぜそれを選ぶのかを考える必要があるからです。

実際の場面では、「桜といちごは入れたいけれど、あと1つが決まらない」と悩む子どもが出てきます。そのとき、「どんなときのことを思い出しているのか」と問い返すと、「帰り道に桜がたくさん落ちていた」といった具体的な場面が語られます。

さらに理由を書き添えることで、言葉はより具体的になります。「きれいだから」という表現が、「風が吹いたときに花びらが一気に落ちて、道が明るく見えたから」と変わっていきます。この変化は、単に言葉が増えたというよりも、経験が言葉として整理されてきた状態といえます。

ここで生まれた言葉は、そのまま文章表現につながる素材になります。ベスト3の活動は、発想を広げるだけでなく、言葉に厚みを持たせる役割を果たします。

交流が教室の関係を動かす

個人で考えた後は、グループで交流を行います。この場面では、教室の雰囲気に変化が見られます。
子どもたちは互いのベスト3を聞きながら、「それは思いつかなかった」「同じことを感じていた」といった反応を示します。同じ季節でも見方が異なることに気づくことで、対話が生まれます。

あるグループでは、「春は桜」という意見に対して、「私は風の方が春らしいと思う」と別の意見が出ました。その理由を聞くと、「冬の風は冷たいけれど、春の風は少しあたたかい感じがする」と説明します。それを聞いた子どもが、「そういえばそうかもしれない」とうなずきます。このように、一つの言葉から新しい見方が広がっていきます。

教師はここで評価を与えるのではなく、やり取りをつなぐ役割を担います。
「今の話、もう少し聞いてみたいよね!」
などと声をかけることで、子ども同士の対話が続いていきます。教師が前に出てまとめるのではなく、子どもの言葉を生かすことで、教室の中に安心して話せる雰囲気が広がっていきます。

第3学年「春のくらし」での実践例―言葉を集め、経験と結びつけて書く

(1)「身の回りの春」を持ち寄る導入

授業の導入では、「身の回りで見つけた春」を家庭学習として持ち寄らせます。単に思いついたことを書くのではなく、「自分で見つけてきた春」であることに意味があります。実際の教室では、「公園に花が咲いていた」「朝、外に出たらあたたかかった」「家でいちごを食べた」といった具体的な言葉が出てきます。ここでは正誤や優劣をつけず、すべて板書していきます。

言葉が並んでいくと、「同じ春でも違う」「こんな春もあるのか」といった気づきが自然に生まれます。この段階では整理せず、まずは量を出すことを優先します。

(2)言葉を分類し、視点を広げる

次に、出てきた言葉を分類していきます。
「食べ物」「自然」「行事」「生活」といった形で整理すると、子どもは自分の言葉の位置づけに気づきます。

例えば、「いちご」は食べ物、「風」は自然、「入学式」は行事というように整理されます。この作業を通して、「春は一つではない」という認識が少しずつ形になっていきます。

ここで教師が分類を決めてしまうのではなく、「どこに入ると思うか」を子どもに問い返すことで、考えが広がっていきます。

(3)文章を書くための支えを用意する

いよいよ文章を書く段階に入りますが、すぐに書ける子どもばかりではありません。そこで、ワークシートには「春の言葉」と「それにまつわる出来事」を結びつけて書けるような形を用意します。

また、迷う子どもに対しては、「いつのことだったか」「誰と一緒だったか」「そのときどう思ったか」といった問いを順に投げかけます。すると、「昨日、家族と散歩したときに花を見た」「そのときいいにおいがした」といったように、言葉が具体的な場面と結びついていきます。

ここで重要なのは、教師が文章を作るのではなく、子どもの中にある経験を引き出すことです。言葉が出てこないのではなく、まだ結びついていないだけであるという見方が必要になります。

(4)読み合いと付箋による交流

書き終えた後は、4人程度のグループで読み合いを行います。このとき、「よかったところを必ず書く」というルールを明確にします。

付箋には、「ここが分かりやすい」「この言い方がいい」「この場面が想像できる」といった具体的な言葉を書かせます。否定的な表現は書かないように事前に確認しておきます。

子どもは、自分の文章に対して他者から言葉をもらうことで、「伝わっている」という感覚を持ちます。単に書いて終わるのではなく、読まれることによって、文章の意味が変わっていきます。

(5)発表と振り返りで学びを共有する

最後に代表者が発表を行い、聞いている子どもは拍手で応えます。発表後には、「どこを工夫したか」「どんなところがよかったか」を簡単に言葉にさせます。

振り返りでは、「最初に書いたときと比べてどう変わったか」「友達の文章を読んで気づいたことは何か」を整理します。この時間を通して、学びが個人の中だけでなく、教室全体に共有されていきます。

授業を見る視点の転換

授業を振り返るとき、「どのように教えたか」だけでなく、「子どもたちにどのような関係が生まれていたか」に目を向けてみましょう。

  • 子ども同士の言葉が増えていたか
  • 新しい見方が生まれていたか
  • 安心して発言できていたか

春の学習は、単なる導入の単元ではありません。ここでどのような言葉が交わされるかが、その後の教室のあり方に影響していきます。
一つ一つの言葉を丁寧に扱い、それをつないでいく過程の中で、教室の関係は少しずつ形づくられていきます。特別な方法ではなく、日々の授業の中にあるやり取りの積み重ねが、学級文化を支えていきます。

イラスト/しゅんぶん


内田仁志(うちだ・ひとし)。
環太平洋大学准教授。栃木県の小中学校で三十余年、子どもたちと向き合いながら学級づくりや国語科の授業に取り組んできました。現場にいる頃から大学や地域の研究会に関わり、先生同士が学び合う場づくりを続けています。現在は、その経験を生かして環太平洋大学独自の教員の実践力養成講座「青年教師塾」を中心に、学生や若手の先生方と一緒に成長できる学びの場を全国へ広げる準備を進めています。専門は国語教育・初等教育。著書に『国語教師のための「反論の技術」入門』(明治図書)、ほか共著も多数。現場の悩みに寄り添いながら、明日の教室で使えるヒントをお届けします。

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