国語科の「授業環境」アップデート|「子供の目に何が入るか」を考えた座席配置【中野裕己の授業技術アップデート10】
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『授業はタイミングが9割』『対話型国語授業のつくりかた』の著者で、国語科、対話指導、ICT活用の研究を精力的に進める中野裕己先生による連載です。国語科の授業にとどまらず、“明日から”できて“ずっと”役に立つ授業の技を、多岐にわたってお届けします。
第10回目のテーマは、《子供の目に何が入るか」を考えた座席配置》です。
執筆/新潟大学附属新潟小学校教諭・中野裕己
目次
教室環境とは?
連載第10回目となりました。新潟大学附属新潟小学校の中野裕己(なかの・ゆうき)です。
今回は、教室環境のアップデートについて取り上げたいと思います。
教室環境とは、文字通り子供たちが過ごす教室の環境を指します。といっても、多くの教室は、下図のような「一般的な」机の配置に固定されているのではないでしょうか。いわゆるスクール型と呼ばれる教室環境です。
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このような教室環境は、子供が自分の座席に座って教師の話を聞くことが前提となっています。子供が授業中に移動する動線は確保されていませんし、黒板とその前に立つ教師に視線が向くようになっています。いわゆる一斉教授型の授業においては、子供たちにとって学びやすい環境と言えるでしょう。
一方で、「主体的・対話的で深い学び」「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」が求められる現在、一斉教授型のみならず、様々な授業のあり方が工夫されてきています。当然、教室環境も再考される必要があるでしょう。
教室環境再考の手がかりは幼稚園にあり
以前、新潟市内の公立幼稚園へ保育参観に伺ったことがあります。
幼稚園は、基本的に「椅子に座って、先生に教わる」といった形式に縛られることはありません。子供たちがそれぞれの思いや感じ方を発揮して、遊びを通した学びが生まれることが重視されます。
朝、登園した子供たちは思い思いに遊びを始めます。教室で飼育しているザリガニを見つめる子供、前日に作成した被り物を被ってごっこ遊びをする子供、セロハンテープの芯を転がし始める子供など、本当に様々です。これら様々な子供に寄り添い、適切に支援する教師の姿から、我々小学校教師が学ぶべきことはたくさんあります。しかしながら、ここでは様々な遊びが深まるように意図された教室環境について述べたいと思います。
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複数のエリアで構成された教室。じっくり活動できる空間と、子供の動線が確保されている。"
複数のエリアで構成された教室。じっくり活動できる空間と、子供の動線が確保されている。
上の写真を見ると、教室内が複数のエリアで構成されていることがわかります。そして、それぞれのエリアには手製の道具が配置されています。おそらく、これまでに子供たちが作ったり遊んだりした経験のある道具なのでしょう。また、生き物を飼育している水槽の周辺には、関連する図書、水替え用の“たらい”やビニール袋が置かれています。
各エリアには十分な空間が確保されていて、腰を据えてじっくりと活動できるようになっています。空間が確保されることで、同じエリアで活動する友達とつながることも促されるでしょう。
さらに、エリアとエリアの間隔が十分にあり、子供の動線が確保されています。「どこで遊ぼうかな」と、歩いていく中で、自分にとって素敵な活動を発見することができるかもしれません。
このように、子供がどう動くか、そして「子供の目に何が入るか」を考えて、教室環境が構成されているのです。
まずは「子供の目に何が入るか」を考えて座席を配置する
幼稚園の教室環境を参考に、小学校でまず手をつけることができるのは、座席の配置です。ここでは「子供の目に何が入るか」を十分考えて、3パターンの座席の配置を考察してみます。
A:スクール型
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黒板とその前に立つ教師とに視線が向けられる座席配置。「黒板に書かれたこと」「教師の姿」に視線を向けやすい。教師が何らかの解説を行う授業場面に適している。
【例】
・教師が教材を提示する場面
・教師が学習のまとめを解説する場面
B:コの字型
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学級の子供同士がお互いに視線を向け合う座席配置。体の向きを変えなくても、「他の子供」や「教師」に視線を向けやすい。学級全体で、何らかの検討や交流を行う授業場面に適している。
【例】
・子供と教師とで解を練り上げる場面
・子供が追究の成果を発表する場面
C:グループ型
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小グループ内の数名で視線を向け合う座席配置。「お互いの表情」「机の上」に視線を向けやすい。他者との相互作用を通して学んだり、課題について深く検討したりする授業場面に適している。
【例】
・課題について検討する場面
・他者を参考に個人の追究を進める場面
なお、私の教室では、B〈コの字型〉の座席を基本としています。子供同士が検討することを学習の中心として考えているからです。そのため、授業のほとんどの場面で、個の追究と他者との検討を行き来しながら、子供たちは学んでいます。
もちろん、教師が解説したり、学級全体で練り上げたりすることが必要な場面もあります。そこでは座席の配置を変更して行います。
そのとき、子供たちには、「ここは先生の話を聞くことが大切な場面だから、席を変えるよ」などと、座席の配置の意味を伝えています。
そうすることで、子供自身が環境を意識しながら学ぶようになると考えています。
そして、ゆくゆくは、自分の学びやすい環境を自分で整えられるようになってほしいと願っています。
……と、いうことで、ズバリ! 今回の教室環境アップデートは、
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と、いうことになります。
明日の、そしてこれからの授業づくりの参考にしてくださいね。
次回の予定テーマは、《国語授業のアップデート》です。
私が専門としている教科は国語科です。「国語科は何を教えるか分かりづらい…」そんな声にお答えするアップデートをご紹介します。
どうぞ、お楽しみに……!
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【著者紹介】
中野裕己(なかのゆうき)
新潟大学附属新潟小学校教諭。1986年新潟県生まれ。新潟市公立小学校教諭を経て、現職。「授業は、子供と教材の相互作用」を合言葉に、子供の学びを「支える」授業づくりを大切にしている。新しい国語実践研究会会長。全国国語授業研究会監事。授業改善コミュニティ「授業てらす」プロ講師。教員サークル「国語授業“熱”の会」代表。
[著書]
『教科の学びを進化させる 小学校国語授業アップデート』(2021年)
『学びの質を高める! ICTで変える国語授業3 Google Workspace for Education編』(2022年、共編著)
『子供が学びを創り出す 対話型国語授業のつくりかた』(2022年)
『授業はタイミングが9割』(2024年)
『タイプ診断で見つける 小学校国語 授業技術大事典』(2024年)
X(旧Twitter):https://twitter.com/yuuuuki0430
新潟大学附属新潟小学校初等教育研究会HP:https://www.fuzoku-niigata.jp
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多種多様な「授業技術」と、その技術を活用した「実践」を、5つの授業タイプ、8つの方向性から整理。中野先生の最新刊『タイプ診断で見つける 小学校国語 授業技術大事典』も、ぜひお読みください。
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教師の授業技術を「タイミング」を中心にまとめた中野先生の新刊『授業はタイミングが9割』も、ぜひお読みください。
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