理科ってどんな教科? 意識してみよう、教科の独自性【理科の壺】
教科の特徴について考えたことがありますか? 中でも理科は、教える内容や系統に違いがあることは明確ですが、もっと具体的な言葉でいうと、どんな特徴や良さがあるのでしょうか。日頃行う授業の具体的なことについて知るのもいいですが、今回はちょっと角度を変えて理科について考えていきましょう。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/東京都公立小学校主任教諭・小林 隼
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
教科の独自性を意識してみませんか?
みなさんは、小学生の頃には、当たり前のように時間割の中に理科という教科があり、理科の学習をしてこられたことと思います。また小学校教員として、当たり前のように、理科の時間には理科の授業をされていることでしょう。
でも、改めて考えてみてほしいのです。
理科ってどんな教科なのだろう? 他の教科と何が違うのだろう? 自分が理科の時間に授業しているものは、本当に理科なのだろうか? と。
3年生を担任される先生は4月、理科に初めて出合う子どもたちに、どのような説明をしましたか?
子どもたちは理科をどんな教科だと認識していますか?
今回は、理科はどのような教科で、他教科と何が違うのかといった点について、実践例を交えながらお伝えしていきます。様々な教科の授業をする先生方にとって、教科の独自性を理解していることはとても重要なことだと思います。
1.理科は他教科と何が違うの?
みなさんは、「理科ってどんな教科ですか?」という問いにどのように答えますか?
次のようなワードが思い浮かんだ方が多いのではないでしょうか。
「理科と言えば実験だ!」
このイメージは間違いではありませんが、理科という教科を説明するにはやや不十分です。私は4月の1回目の理科の授業で、子どもたちに次のように伝えています。『理科は自然の中から「なぜ? どうして?」を見つけて、自分なりの考えを観察や実験で確かめていく教科』です、と。
この下線部が、他教科にない理科独自の部分と言えます。
つまり、理科は「学習の対象」と「その対象への働きかけ方」が異なる教科なのです。
2.教科ごとの「学習の対象」の違い
理科は、学習する対象が「自然の事物・現象」です。
例えば、4年「電流の働き」の学習において、導入時に乾電池とモーターとプロペラを用いて、簡易扇風機を作成します。いざスイッチを入れると、「ああ、涼しい!」という子もいれば、「僕の扇風機は反対から風が出てる!」という子もいます。このやり取りから、子どもたちは「なぜ扇風機の風の向き(モーターの回転の向き)が変わるの?」という疑問を抱くことでしょう。
回路に電流が流れて、モーターが回転するという自然の事物・現象を対象として、そこから疑問が生まれていることがお分かりでしょうか?
これが他教科になるとどうでしょう。5年の社会科「米づくりの盛んな地域」の学習では、都道府県別のお米の生産量の資料を見て、「なぜ東北・北陸地方にある県は、お米の生産量が多いのかな?」という疑問が生まれるという流れは、よくある学習展開です。この場合、「都道府県別のお米の生産量」という社会的事象から疑問が生まれていますね。
6年の体育科「ボール運動ネット型ソフトバレーボール」の学習では、他チームとゲームをすることで、「どうしたらみんな楽しく運動できるのかな?」「自陣にボールを落とさないためにはどうしたらいいのかな?」という課題が生まれる学習展開例があります。この場合は、「他チームとのゲーム」の中での子どもたちの動き(体)や心から課題が生まれます。
3.教科ごとの「対象への働きかけ方」の違い
話を理科に戻しましょう。モーターの回転が逆向きになることに疑問を抱いた子どもたちは、乾電池の向きが逆になっていることに気づき、「乾電池をつなぐ向きを逆にしたら、電気が逆向きに流れるのではないか」という自分なりの考え(予想や仮説)をもちます。このことをどのようにして確かめるのか。当然、「実験」によって確かめますね。乾電池をつなぐ向きを逆にすることで、回路内の検流計の針が逆向きに振れ、かつモーターの回転も逆向きになる。このような実験を通して自分の考えを確かめ、きまりを見いだします。
先ほどと同様に、他教科と比較してみましょう。
社会科では、子どもたちは「お米の生産量が多いのは、お米にあった気候があるのだと思う」「私は、お米づくりに適した地形があると思うよ」と、自分なりの考え(予想)をもちます。
この考えを確かめるために、社会科では「資料を活用」して必要な情報を得たり、お米づくりをされている人たちにインタビューをするなどの「調査」をしたりします。
体育科ではどうでしょう? 自陣にボールを落とさないためには、「メンバーのポジションを決めた方がいいと思う」「パスする人の名前を呼びながら、パスするのはどうかな?」などと自分なりの考え(作戦)をもつでしょう。このことを確かめるには、どうしますか? 実験でも資料の活用でも調査でもなく、ゲーム(運動)をしてうまくいったかどうかを確かめます。
このように、自分の考えを確かめる方法、すなわち対象に働きかける方法も異なるのです。以上をまとめると下の表のようになります。
授業者である教師自身が、このことをしっかりと頭に入れて日々の授業に向かうことで、子どもたちの学びが本質的なものになっていくことでしょう!
イラスト/難波孝
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
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<執筆者プロフィール>
小林隼●こばやし・じゅん 東京都公立小学校主任教諭。理科を中心に日々実践研究を行い、地域の理科教育の推進に努める。東京都小学校理科教育研究会会員、日本初等理科教育研究会役員、教科書の編集委員。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。