「合同体育で運動量をアップするコツ」子供たちの可能性を引き出す!学級経営&授業アイデア#10

連載
子供たちの可能性を引き出す!学級経営&授業アイデア

宮城県公立小学校教諭

鈴木優太
「子供たちの可能性を引き出す!学級経営&授業アイデア」バナー 執筆:鈴木優太

自ら考え、活動したり学習したりする子供たちの可能性は無限大。そうした子供の内に秘めている可能性を引き出すための「学級経営&授業アイデア」を紹介する連載です。『教室ギア56』(東洋館出版社)などの著書をもつ鈴木優太先生が、学級活動、教室環境、授業アイデアなどの中から、毎月1本厳選して解説します。第10回は、合同体育で個々の子供たちの運動量をアップするコツを伝授します。

執筆/宮城県公立小学校教諭・鈴木優太

合同体育の3つの利点

例えば、跳び箱運動を思い浮かべてください。学級担任と学級の子供たちだけで、跳び箱の準備や片付けをしなくては……と考えただけでも、負担感が大きい先生も多いことでしょう。そんなときは、「合同体育」をしましょう!

(主に同学年の)学級間で体育の合同授業を行う利点があります。
①多様な学びの機会の創出
様々な仲間と協力し、多様な考え方に触れながら、より深い学びを体験できます。

②安全性の確保
複数の教員が同時に指導することで、より安全な学習環境を確保できます。

③効果的な学習の実現
複数の教員が異なる視点から子供を観察することで、より適切な学習に結びつけることができます。

このように、子供たちの学習の場を充実することができるのが「合同体育」なのです。

合同体育をさらに充実するための提案

しかし、合同体育では、一度に活動する人数が増えます。そのため、運動量と思考量が減少しがちです。そこで以下を提案します。

・「ペア」を活用しましょう。
・「選択」を求めましょう。

自分や仲間にとって必要な学び方を子供たちが自ら「選択」する経験を、集団の最少単位である「ペア」で積み重ねることにより、合同体育が劇的に充実します。

アイデア1:構造的ペア活動

教室と同じ「ABCペア」(Aペア…隣の座席、Bペア…前後の座席、Cペア…斜めの座席のようにパートナーを変えながらペア活動をする)を活用しましょう。日常の授業と「地続き」の体育授業となるようにすることがポイントです。

ABCペア…Aペア…隣の座席、Bペア…前後の座席、Cペア…斜めの座席のようにパートナーを変えながらペア活動をする

そのため体育でも、教室と同じ席順で整列することによりペア活動に取り組みやすくなります。

「ABCペア」を活用したウォーミングアップの例を3つ紹介します。準備物など一切必要ありません。場所を選ばず、どこでもすぐに実践できるものです。

①Aペアとミラーストレッチ

今日の学習で必要なウォーミングアップをAペアで考えて取り組みます。考えてといっても、0から1を生み出す訳ではありません。これまで取り組んだことのある10も100もある動きから「選択」するのです。

鏡のように向かい合わせになって取り組みます。屈伸や伸脚といった定番もOKです。それだけでなく、両手の指を開いたり伸ばしたりする動き、肩関節の柔軟性を高める動きも必要です。そのため、今日のゴールを子供たちが捉えている状態でウォーミングアップを行う点が欠かせません。

今日は(跳び箱の)台上前転に取り組みます。首の柔軟運動は、はじめに全員が取り組みましょう。

このように、具体的に指示をしてから始める場合もあります。本時のゴールや欠かせない動きなど、押さえるべきポイントは教師が明確に示すことも大切です。子供任せにすればよいという訳ではありません。

②Bペアとコーディネーション

馬跳び、かえるの足打ち、かえる倒立、股下くぐり、手押し車などにBペアと取り組みます。コーディネーションとは、様々な動きを経験し、運動神経を鍛えるトレーニングです。跳び箱運動では、腕支持の感覚を育てる補強運動を中心に行いましょう。

全身じゃんけんと組み合わせるのもおすすめです。

【全身じゃんけん】
・グー……体を丸めるようにしゃがむ
・チョキ…手足を前後に大きく開く
・パー……手足を左右に大きく開く

全身じゃんけんで勝った人が、例えば、前述した5つの運動の中から「選択」して、ペアで一緒に取り組みます。1回ずつ交互に行ったらすぐに全身じゃんけんを行って、次の運動を「選択」します。テンポよく取り組むことで、体も頭も心もぽかぽかになります。ゲーム性が増し、楽しく運動量を向上できます。

ペアになってコーディネーションを行う子供。手前はかえるの足打ちに取り組むペア、奥は全身じゃんけんで次に取り組む運動を選択しているペア。
ペアになってコーディネーションを行う子供。手前はかえるの足打ちに取り組むペア、奥は全身じゃんけんで次に取り組む運動を選択しているペア。

③Cペアとやり足りない運動を「選択」して取り組む

AペアやBペアとは「やり足りなかった動き」を、Cペアと「選択」して取り組みます。

開脚跳びができるように、脚を開いた柔軟をやらない? 背中を押してくれる?

いいね。次は、手押し車をやっていなかったから、やろうよ。

このように、主体的・対話的で深い学びを実現するためにも、子供たちが頭も動かしながら取り組む体育授業が大切です。頭の中にも汗をかくようなウォーミングアップを子供たちに求めていきましょう。

授業の冒頭に「3回」もペアを変えるウォーミングアップの例を示しました。頻繁にペアが変わることで、誰とでも協力できる協調性が育まれ、多様な運動経験を積むことができます。それぞれのペアで異なる種類の運動や動きを取り入れ、運動の幅を広げます。相手が変わるたびに「よろしくお願いします」「ありがとうございました」と挨拶することも大切です。対話的なムードが重要だからです。

主運動や振り返りでも、教室と同じ「ABCペア」を活用します。跳び箱運動に限らず、あらゆる単元に汎用可能です。100名を超える合同体育でも、一人一人の運動量や思考量を充実することができます。

アイデア2:流動的ペア活動

「合同体育」だからこそのうまみを一層味わえるのは、他学級の仲間との学び合いです。跳び箱運動では、自分に合った練習の場を「選択」します。例えば、技の難易度によって複数(10程度)の練習の場をつくります。それぞれが自分の習得したい技に合わせて場を選びます。そして、出来具合いに合わせて場を変えていきます。そこで、一緒に活動する仲間との流動的なペア活動を紹介します。

選んだ場や並んだ順によって、ペアが次々に変わるのが特徴です。他学級の仲間との学び合いが自然発生する仕組みです。これも、準備物など一切必要ありません。

跳び終えた子が、「ジャッジ」となります

たったそれだけ、とてもシンプルな仕組みです。個別最適で協働的な学びが加速します。

技の難易度によって2つの跳び箱のレーンに分かれて、跳び箱運動をする子供。跳び終わった子供がジャッジ係を行っている。

安全を子供たち同士でセルフジャッジする

跳び箱運動であれば、跳び箱を跳び終えた子が「ジャッジ係」となります。跳び箱やマットにずれがあれば調整し、安全な場に整えます。マットの端まで移動し、次に跳ぶ人の方を向きます。両腕で大きい丸印を出しながら「どうぞ!」と、合図を出します。次の人が跳び終えるまでその場に留まり、見守ります。

ジャッジ係の一つ目の役目は、安全を「ジャッジ」することです。

跳び箱を跳ぶ人は、片手を上げて「行きます!」と言います。安全を子供たち同士でセルフジャッジするシンプルな仕組みです。子供たちの力で安全に練習できる仕組みがあるから、運動量が確保できるのです。

※セルフジャッジ…審判を置かずにプレイヤー同士でジャッジを行うこと。

技の出来栄えを子供たち同士でセルフジャッジする

ジャッジ係の二つ目の役目は、技の出来栄えを「ジャッジ」することです。

次の人が跳び終えるまでその場に留まり、跳び終えた人にフィードバックをします。

Aです。

ありがとうございます。

跳び箱運動では、技のポイントを「両足・両手・腰・ピタ」の合言葉にしています。ここでは、開脚跳びでピタッと着地までできたので、ジャッジ係は「Aです」とシンプルに評価を伝えます。両腕で大きい丸印を出しながらフィードバックします。

Aです。腰が高く上がっていました。

ありがとうございます。

このように、よかったところも付け加えて伝えられる人は「スーパージャッジ係」と名乗れることを全員に共有します。ちょっとした工夫ですが、技のポイントを細分化して捉える目が鍛えられ、子供たちのフィードバックする言葉も豊かになっていきます。自己申告制で、紅白帽子の色で区別してもおもしろいです。

ピタッと着地できると、Aになります。

ありがとうございます。

うまくいかなかった場合は、Aになるポイントをフィードバックします。

私たち教員は、子供たちの学び合いを促したい願いから、「アドバイスをし合いましょう」と安直に伝えがちです。しかし、「アドバイス」という表現には少し慎重になったほうがよいでしょう。子供たちにとっては、できている子ができていない子に技のポイントを教える印象のある表現だからです。そのために、「何て言っていいか分からない」ということがよくあるのです。そして、せっかく上達しているのに、いつまでたっても達成感が得られません。ネガティブ体育ではなく、運動の喜びを実感できる「ポジティブ体育」を目指したいものです。

「Aです。◯◯◯◯ができていました」「◯◯◯◯できると、Aです」と、シンプルにフィードバックすることで救われる子がたくさんいます。相手が変わるたびに「どうぞ!」「行きます!」や、フィードバックに対して「ありがとうございました」と挨拶することはやはり大切です。前向きで対話的なムードは、子供たちのチャレンジしようとする背中を後押しします。

相手によって「選択」が変わります。ここに学びが発生します。他学級の仲間との流動的なペア活動による学び合いを通して、子供たちの学びは深まるのです。

教室で日常的に関わっている「ABCペア」との関わり合いは、他学級の仲間たちと関わり合うためのウォーミングアップにもなります。「構成的ペア活動」と「流動的ペア活動」を駆使しながら、「合同体育」の運動量と思考量を充実していきましょう。


鈴木優太(すずき・ゆうた)●宮城県公立小学校教諭。1985年宮城県生まれ。「縁太(えんた)会」を主宰する。『教室ギア56』『教室ギア55』(共に東洋館出版社)、『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版)など、著書多数。

参照/鈴木優太『教室ギア56』(東洋館出版社)、鈴木優太『教室ギア55』(東洋館出版社)、鈴木優太『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版)、多賀一郎監修、鈴木優太編、チーム・ロケットスタート著『学級づくり&授業づくりスキル レク&アイスブレイク』(明治図書出版)

イラスト/高橋正輝

【鈴木優太先生 連載】
自治的な学級をつくる12か月のアイデア(全12回)
子供同士をつなぐ1年生の特別活動(全12回)
どの子も安心して学べる1年生の教室環境(全12回)

【鈴木優太先生 ご著書】
教室ギア56(東洋館出版社)
教室ギア55(東洋館出版社)
「日常アレンジ」大全(明治図書出版)
学級づくり&授業づくりスキル レク&アイスブレイク(明治図書出版)

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