小6国語「海のいのち」板書の技術
今回の教材は、物語文の「海のいのち」です。本単元の目標は、「物語を読んで、人物の生き方について考えよう」です。そのため、本時では、主人公である太一を中心にし、太一がどう変化していくのかが視覚的にも伝わり、また、比較できるような板書の工夫を紹介します。
監修/元京都女子大学教授
同附属小学校校長・吉永幸司
執筆/大阪府公立小学校教諭・岡本美穂
教材名 「海のいのち」(東京書籍)
目次
単元の計画(全11時間)
- 全文を通読し、初発の感想を書く。
- 初発の感想を交流する。単元の学習の見通しを立て、「付けたい力」を確かめる。
- 物語のあらすじを捉える。場面ごとに題名を付ける。
- 太一と父の関係に注目して、1・2場面の太一について考える。
太一の父の生き方を考えよう。 - 太一と与吉じいさの関係に注目して、3・4場面の太一について考える。
与吉じいさの生き方を読み取ろう。 - 太一と母の関係に注目して5場面の太一について考える。
母の悲しみを知りながら海にもぐる太一の気持ちを読み取る。 - 6・7場面の太一の変化について考える。また、なぜ変化したのかについて考える。
- これまでの場面とつなげて、8場面の太一について考える。
村一番の漁師と一人前の漁師の違いについて考える。 - 太一の生き方について考えたことをまとめ、伝え合う。
- 自分の選んだ場面を朗読し、その様子をタブレットで録画して提出する。
- 物語を読んで最も強く心に残ったこと、その物語が自分に強く語りかけてきたことを学習のまとめとしてポスターにまとめる。題名である「海のいのち」という言葉に着目して、作者の伝えたいことをまとめ、自分の考えも書く。
板書の基本
初発の感想として子供たちに、「このお話は~という物語」と書くように伝えると、
・このお話は、太一のクエ(おとう)に対する気持ちの変化が読み取れるという物語です。
・このお話は、いろいろな人→おとう・与吉じいさから、魚は大切だ、ということを学んでいたという物語です。
・このお話は、太一が大魚を海のいのちと感じるという物語です。
・このお話は、太一が村一番の漁師になるけれども、魚など海のいのちを大切にするという物語です。
・このお話は、主人公の太一がまぼろしのクエに出会って成長するという物語です。
というように、太一を通して「海のいのち」を読んでいる子供たちが多いことが分かります。小学校生活のまとめの時期を迎える子供たちにとって、将来について考える機会も少しずつ増えてきて、人間の成長や生き方について考えることに適した作品だと考えています。
「海のいのち」は、中心人物である太一が、父や与吉じいさなどの人物との関わりを通して成長していく作品です。文章中では、細やかな行動描写、巧みな比喩や色彩表現、臨場感を生み出す文末表現などがあり、これらの優れた表現によって子供たちは物語の世界観を豊かに想像し、味わうことができます。
また登場人物も
父:太一にとっての憧れであり、背中を追う存在。
与吉じいさ:確かな技術と漁師としての「生き方」を教える存在。
母:太一を心配しながら、見守る存在。
クエ:太一が追い求めるもの。「海のいのち」。
というように、太一を通して見ていくことで、より考えも深まります。そこで、太一を中心にして、太一がどう変化していくのかが視覚的にも伝わるような板書にしていくことを意識しています。特に太一の変化を考える場面をテーマにした授業では、一人一人の意見を大切にし、それぞれの考えと板書の関わりがよく分かる板書の工夫を紹介します。
板書のコツ(8/11時間目導入)
板書のコツ
めあては、「太一の変化について考えよう」です。前回、6・7場面の太一の変化について指導しました。まず、これまでの場面とつなげて、8場面の太一について考えます。次に、前回の学習を振り返りながら、「めあて」を確認していきます。
板書のコツ(8/11時間目前半)
板書のコツ
7場面は太一が瀬の主(クエ)と対峙する山場の場面だと言えるでしょう。物語が太一の視点で描かれているからこそ、この場面では中心人物、太一の心情のゆれ動きがこと細かに描写されています。
この魚をとらなければ、本当の一人前の漁師にはなれないと泣きそうになりながらも、太一は水の中でふっとほほえみ、クエに向かってもう一度笑顔をつくります。太一はどう思ったのかは、はっきりとは叙述していません。だからこそ、思考を巡らせることができるのです。子供たちの実態に応じて使い分けたいものです。この部分が「大きく変化」した部分だと気が付いた子供たちは、村一番の漁師と一人前の漁師の違いは何かについて考えるようになりました。
板書のコツ(8/11時間目中盤)
板書のコツ
ここでは、太一は瀬の主(クエ)を目の前にして「この魚をとらなければ、本当の一人前の漁師にはなれない」と考えます。結末では「村一番の漁師であり続けた」とあります。この2つは同じなのか? という視点で子供たちは考えていたので、板書では視覚的にも比較ができるようにしました。
子供たちの考えと考えの比較もあれば、言葉と思考の比較、思考と思考の比較など様々です。事実と考えを区別するためにもチョークの色や、囲むなどの技法を使って区別していくことも大切です。
板書のコツ(8/11時間目後半)
板書のコツ
最後に子供から「太一は一人前の漁師になれたのか」という発言がありました。振り返りでは、「瀬の主=父=海の命」と太一が捉え、そこに〈海に生きる、海とともに生きる〉という価値を見いだし、「海といっしょに生きられる漁師」や「海に生きる、海とともに生きる」と考える子供たちがいました。
構成/浅原孝子