小6家庭科 「家族のために長く使える袋を作ろう」
今回は、「家族のために長く使える袋を作ろう」の授業実践を紹介します。課題をもって、袋の製作に必要な材料や手順、製作計画、ミシン縫い及び用具の安全な取扱いに関する基礎的・基本的な知識及び技能を身に付け、製作計画を考え、製作を工夫することを目指します。使用する目的、中に入れたい物に応じて、自分で袋の形や大きさを決めるとともに、袋を使用する家族にとって、より使いやすく、丈夫にする工夫を考えることができるようにします。
執筆/神奈川県横浜市教育委員会首席指導主事・大平はな(授業者資料提供/神奈川県横浜市公立小学校教諭・松村祐希)
編集委員/神奈川県横浜市公立小学校校長・本庄則子
監修/元文部科学省教科調査官・筒井恭子
目次
年間掲載内容
04月 いためる調理
06月 着方と手入れ
08月 製作 ふくろ作り
10月 1食分のこんだて
12月 共に生きる地域での生活
1 題材名
家族のために長く使える袋を作ろう
2 題材について
本題材の「家族のために長く使える袋を作ろう」は、「B衣食住の生活」の(5)「生活を豊かにするための布を用いた製作」について、課題をもって、袋の製作に必要な材料や手順、製作計画、ミシン縫い及び用具の安全な取扱いに関する基礎的・基本的な知識及び技能を身に付け、製作計画を考え、製作を工夫することをねらいとしています。
本校では、B(5)「生活を豊かにするための布を用いた製作」については、基礎的・基本的な知識及び技能の定着を図り、学習が無理なく効果的に進められるように2学年間の段階的な題材の配列を工夫しています。基礎的なものから応用的なものへ、簡単なものから複雑なものへと次第に発展するよう、題材や教材を配列するために、それぞれの題材における指導事項を表1のように整理しました。
第5学年の製作では、小物の製作を通して手縫いやボタン付けなどを学習しました。また、ミシン縫いによる製作では、ランチョンマットの製作を通して、ミシンの安全な使い方、布の裁ち方、直線縫いの仕方等を学習しました。第6学年では、タブレット型端末を持ち運びするための袋の製作を行いました。その際、不織布で作成手順を確認したり、袋の丈夫さについて考え工夫したり、場面を設定し、縫いしろやゆとりの必要性、袋の構造等に着目できるようにしました。タブレット型端末を持ち運びするための袋は、全員が同じ大きさの布で製作したため、本題材では、使用する目的、中に入れたい物に応じて、自分で袋の形や大きさを決めるとともに、持ち手やまちを付けるなど、袋を使用する家族にとって、より使いやすく、丈夫にする工夫を考えることができるようにします。
3 題材の目標
〇製作に必要な材料や手順、製作計画、ミシン縫いによる目的に応じた縫い方及び用具の安全な取扱い、材料(布)の無駄のない使い方について理解するとともに、それらに係る技能を身に付ける。
〇家族のための袋の製作計画及び製作について、問題を見いだして課題を設定し、様々な解決方法を考え、実践を評価・改善し、考えたことを表現するなどして課題を解決する力を身に付ける。
〇生活をよりよくしようと、家族のための袋を製作することについて、課題の解決に向けて主体的に取り組んだり、振り返って改善したりして、生活を工夫し、実践しようとする。
4 題材の評価規準
●知識・技能
・製作に必要な材料や手順が分かり、製作計画について理解している。
・ミシンの安全な扱い方や目的に応じた縫い方について理解しているとともに、適切にできる。
●思考・判断・表現
家族の生活を豊かにするための袋の製作計画及び製作について、問題を見いだして課題を設定し、様々な解決方法を考え、実践を評価・改善し、考えたことを表現するなどして課題を解決する力を身に付けている。
●主体的に学習に取り組む態度
家族の一員として、生活をよりよくしようと、生活を豊かにするための袋の製作について、課題の解決に向けて主体的に取り組んだり、振り返って改善したりして、生活を工夫し、実践しようとしている。
5 指導のアイデア
事前に家族の生活の観察やニーズを調査し、それに合った種類の袋を持参したり、袋に入れるものを持ち寄ったりして、袋の特徴や使用目的に合った大きさや形があることに気付かせるようにします。また、家族の好みに合わせた丈夫な材質の布を選び、袋の形や持ち手の長さ、製作手順等を友達と共有し、自分が製作する袋に応じた製作計画を立てられるようにします。子供の振り返りや製作の進捗状況については、クラウド型学習支援アプリケーションを用いて把握します。製作手順や製作のヒントになる動画を資料箱に用意し、選択していつでも閲覧できるようにし、完成のイメージを具体的に描きながら、製作に取り組めるようにします。その際、デジタル上だけでなく、様々な種類の袋の実物や布地見本を準備し、実際に子供が手に取りながら確認することができるようにします。子供が課題解決する上で必要な情報などを、自分で自由に選べるよう、学習環境を工夫することが大切です。
写真 学習環境の工夫①
〔製作手順を確認できる掲示物とデジタル学習カードの連動を図る〕
写真 学習環境の工夫②
〔一人一人の『作りたい!』に対応するための様々な実物見本、段階見本〕
6 題材の指導計画(全7時間)
時間 | 学習内容 |
---|---|
課外 | 家族の生活を観察したり、インタビューしたりして、どのような袋があるとよいか調べよう。 |
1 | より使いやすく、丈夫な袋を家族のために製作する上で、「タブレット型端末の持ち運び袋」の製作の振り 返りから問題を見いだし、課題を設定しよう。 |
2 | 家族のために作る袋の形や大きさなどを考え、製作計画を立てよう。〔不織布による試し作り〕 |
課外 | 試し作りの「不織布バッグ」を持ち帰り、家族の好みや使いやすさを確かめてみよう。 |
3 | 家族の意見やアイデアを取り入れて製作計画を工夫し、改善しよう。 |
4・5・6 | 改善した製作計画に沿って、ミシン縫いで袋を製作しよう。 |
課外 | 製作した袋にメッセージを添えて家族にプレゼントし、袋の使いやすさや使った感想などを聞いてみよう。 |
7 | 学習を振り返り、布を用いた製作や布製品の活用について、評価・改善しよう。 |
7 学習の流れと子供の様子
1時間目
〔ねらい〕
より使いやすく丈夫な袋を家族のために製作する上で、「タブレット型端末の持ち運び袋」の製作の振り返りから問題を見いだし、課題を設定することができる。
〔主な学習活動〕
①「タブレット型端末の持ち運び袋」の製作を振り返る。
②家族の誰が、いつ、何のために、どう使う袋なのかを考え、「長く使える」ためにどのような工夫ができるか話し合う。
③様々な種類の袋を持ち寄り、袋を見比べ、袋の特徴や長く使えるポイント、製作手順を確認する。必要に応じて、動画コンテンツなどを活用する。
④よりよい製作に向けて、課題を設定する。
X児の姿
「『タブレット型端末の持ち運び袋』は、形や大きさがタブレット型端末にぴったり合っていたのでとても使いやすく、便利だったよ。家族のために作る袋も、中に入れる物や使う目的に合わせて、形や大きさがぴったりな袋を作りたいな」
写真 様々な袋を見比べ、袋の特徴や使いやすさ、丈夫さなどを考えている様子
写真 動画を活用し、製作のポイントや手順を確認している様子
2時間目
〔ねらい〕
家族のために作る袋の形や大きさなどを考え、製作計画を立てることができる。(不織布による試し作り)
〔主な学習活動〕
①不織布で試し作りを行い、袋の形、持ち手の紐の長さ等を決める。
②入れる物の大きさや取り出しやすさを考え、ゆとり、縫いしろなどを確認する。布の素材や大きさを決める。
③実物見本等を参考にし、製作手順(特にポケットやワッペン、ボタン等を付けるタイミング)を確認する。
④製作計画について友達と意見交換をしたり、アドバイスしたりする。
X児の姿
「似たような大きさでも、横長か縦長にするかで物の取り出しやすさが変わることが分かりました。不織布バッグを持ち帰って、家族に、どちらの形が使いやすいか聞いてみたいな」
写真 タブレット端末上のデジタル学習カードを用いて、製作計画を作成している様子
写真 2時間目の板書
4~6時間目
〔ねらい〕
改善した製作計画に沿って、目的に応じた縫い方で袋を製作することができる。
〔主な学習活動〕
①布の大きさに印を付け、無駄のない裁断をする。
②まち針を打ち、しつけ縫いをする。
③ミシンの安全な使い方を確認しながら、目的に応じた適切な縫い方をする。
④仕上げ縫いをする。最後に糸の始末、アイロンがけ等をして仕上げる。
⑤友達と作品を見合いながら、相互評価をする。
X児の姿
「『タブレット型端末の持ち運び袋』を製作したときに、次にどこを縫えばよいか分からなくなってしまうことがあったから、今回は端末上の学習カードを確認しながら製作するぞ」
X児のデジタル学習カード
〔子供の学びの姿〕
7時間目
〔ねらい〕
学習を振り返り、布を用いた製作や布製品の活用について、評価・改善することができる。
〔主な学習活動〕
①製作計画および製作について振り返り、自己評価をする。
②袋を贈った家族からの評価を踏まえ、自己評価に生かす。
③タブレット端末内の記録を整理し、2年間の製作を振り返る。
〔Y児の振り返りの記録〕
8 学習を振り返って
①製作の題材は、大きく分けて3つの場面(計画、製作、振り返り)で構成されます。子供の実態から、どうしても製作に時間を要するため、子供も教師側も製作することのみに意識が向きがちになりますが、今回は、計画、振り返りをそれぞれ丁寧に扱うことを意識しました。自分自身が学校で使っている様々な袋を観察し、袋のよさについて考え、家族の使用目的を踏まえた袋について、一人一人が製作計画を立てる時間をしっかり確保したことで、袋を製作する目的を確認するとともに、必要感が生まれました。また、不織布で試作品を作り、その試作品に計画を書き込むことにより、袋の構造、作り方に自然と目が向き、より主体的な活動につながりました。子供一人一人が不織布に向き合い試行錯誤している時間、教師は机間指導や個に応じた支援を行うことができ、計画段階でも丁寧に個を見とることができました。
②製作する物が一人一人異なる場合、どうしても進度にばらつきが生まれます。だからこそ、毎回の活動のふり返りを丁寧に行い、そこで生じた課題については、教師が個別に対応するパターン、見本や教科書で確認したり、友達同士アドバイスをし合ったりするよう声をかけるパターン、多くの子供にとって共通する課題になり得るものについては全体共有するパターンのいずれかで対応するようにしました。また、題材の中に3回、課外の時間を設け、家族にインタビューしたり、製作を見つめ直したりする時間を確保しました。製作した袋を家族に贈り、家族が実際に袋を使用し、使用感等を振り返る過程を大切にし、子供は家族から「丁寧に作ってくれたので、毎日持ち歩きたいと思った」「不織布の試し作りの段階で、『ポケットがあると、もっと便利だと思う』という意見を取り入れてくれたので、とても使いやすいバッグになった」などの感想をもらっています。本題材は2学年間で最後の製作の題材となりますが、子供は、手作りの布製品が生活に役立つだけでなく、家族にとっても、自分にとっても生活を豊かなものにすることを感じていた様子が見られました。このことは、「主体的に学習に取り組む評価」の評価規準のうち、「実践しようとする態度」の見とりにもつながりました。
構成/浅原孝子