ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #27 「Goal 13 気候変動に具体的な対策を」その2|岡田昂樹 先生
全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回は「気候変動に具体的な対策を」について学ぶ授業実践提案の第2回です。ご執筆は、群馬県の岡田昂樹先生です。
執筆/群馬県公立小学校教諭・岡田昂樹
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和
目次
1 はじめに
群馬県の公立小学校で教員をしている岡田昂樹と申します。
2 SDGsのGoal 13についての解説
Goal 13は、「気候変動に具体的な対策を」というテーマのもと、5つのターゲットによって構成されています。気候に関する災害の発生時に対応したり立ち直ったりする力を全ての国で備える(13-1)ことや、気候変動が起きるスピードを緩めたり、影響を減らしたりするための教育をより良いものにする(13-3)ことなどが挙げられています。
気候変動、特に地球温暖化が進行すると、大型台風の頻発、海面水位の上昇による高潮の発生、環境変化に耐えられず絶滅する生物の増加など、様々なリスクが発生すると言われています。(参考:SDGsジャーナル)
3 SDGsのGoal 13を扱った授業の実際
・学年 小学校4年生
・教科 ①算数「折れ線グラフ」、②道徳「D 自然愛護」
・ねらい
①群馬県前橋市の猛暑日の数や年平均気温についての折れ線グラフの変化に注目し、特徴を読み取る活動を通して、地球温暖化など気候変動の与える影響について関心を持つことができる。
②人間の生活が野生の動物にとっては危険なものになりえることを知り、自然や動植物を大切にしようとする心情を育てる。
・教材
①算数 気候変動に関する折れ線グラフ(参考:気象庁 群馬県前橋市の年ごとの値 主な要素
より抜粋して作成)
②道徳 「聞かせて、君の声を!」(日本文教出版)
・授業の展開
(算数の授業展開)
①1953年から2022年の、群馬県前橋市における10年ごとの猛暑日の数を示した折れ線グラフを読み取る。
(発問・指示)
⑴ 縦の軸は何を表していますか
⑵ 縦の軸の1目盛りは何回を表していますか。
⑶ 1973年から1982年の猛暑日は合計で何回ですか。
⑷ このグラフから、分かることや気付くことを書きましょう。
(児童の記述例)
●猛暑日がだんだん増えている。
●猛暑日が年々増加していて、何か対策をしないといけない。
●1983〜1992年と、1993〜2002年のところの傾きが最も大きい。
②1953年から2022年の、群馬県前橋市における年平均気温を示した折れ線グラフを読み取る。
※「平均」について学習をしていないので、簡単に児童に説明しました。
(発問)
⑴ 1960年は、約何度と言えますか。
⑵ 2020年は、約何度と言えますか。
⑶ 年平均気温について、どのようなことが言えますか。
(児童の記述例)
●平均気温が上がっている。
●上がったり下がったりしながら、だんだん上がってきている。
③平均気温が上がると、どんな影響があるかを簡単に紹介する。(地球温暖化、気候変動、異常気象、動植物の絶滅など)
ここでは、日本の大型台風や豪雨災害などのニュースの画像や、サンゴ礁の白骨化などを具体的に取り上げました。
④振り返りを兼ねて、「ぐんま環境白書」の地球温暖化のPDFを示し、新しく知ったことや驚いたことをメモする。
(児童の記述例)
●気温が上がると、環境に良くないことが沢山起きることを知った。
●台風や河川の氾濫で、道が壊れてしまうことを知った。
●気候変動が起きると、多くの影響があるので心配だ。
●ぼくたちにも、地球温暖化に対して、対策できることがある。
●気温が1度高くなると大雨などの危険があり、2度高くなると生き物が減り、3度高くなると水位が高くなるなんてびっくりした。
●二酸化炭素などが増えすぎて地球から逃げられなくなると気温が高くなると知った。
(道徳の授業展開)
①教材文「聞かせて、君の声を!」のあらすじを紹介し、範読をする。
あらすじ:北海道の釧路湿原にある診療所で働く、獣医師の齋藤慶輔さん。齋藤さんが野生動物を救うために動物たちに語りかけると、かすかな声が聞こえてきます…。
②(発問)獣医の齋藤さんは、なぜ電力会社の人に「オオワシを連れてきて」とお願いしたのでしょうか。
(児童の発言例)
●人間が電線を作ってオオワシを感電させてしまったから、治してあげたいと思ったから。
●オオワシを助けたいから。
③(発問)齋藤さんが電力会社にオオワシからのメッセージを届けたのは、どんな思いからだったのでしょうか。
(児童の記述例)
●感電を減らすことで、オオワシのケガを減らしたい思い。
●電線にとまって感電するのは人間の責任だから、感電しないような装置を作る必要がある。
●電力会社の人が、忙しくてもオオワシを運んできてくれたから、そのことへの感謝の気持ちもある。
④「ぐんま環境白書」の自然に関するPDFを示し、群馬県の自然を守る取組や、森林の働き等を解説する。また、
「算数の時間には、地球温暖化になるとサンゴ礁が白くなるなど生き物にも影響があることを学びました。それも、この教材と同じように、人間の活動が自然に影響を与えている例だね」と、児童が算数の授業と関連付けて考えることができるよう声かけをする。
⑤(発問)人間と自然の生き物が共に生きるために、大切なことは何だろうか。(自然を守るために、どんなことが大切かな)
(児童の記述例)
●絶滅危惧種は動物だけだと思っていたけど、植物も絶滅危惧種になると知りました。
●自分たちがいいからといって、他の生き物が困るようなことをしたりしない。他はどうなのかをよく考えて、みんなが住みよい暮らしを作ること。SDGsや3R、4Rなどを守って、環境を守ること。
●ゴミを、海とかに捨てない、ゴミを見たら積極的に拾う。
●CO2を出さないように、自動車を使わず、近ければ自転車や歩きなどで行く。
4 成果と課題、他教科とのつながり
【成果】
(算数の授業について)
●折れ線グラフを読み取る中で児童から「気温上がりすぎ」や「猛暑日多すぎる」などのつぶやきがあり、その変化の様子に驚く様子が見られた。
●「地球温暖化はどうやって起きるのか」や「どうしたらいいのか」等のような疑問を配布資料で調べ、ある児童の「二酸化炭素などが増えすぎて地球から逃げられなくなると気温が高くなると知った」の振り返りのように、気候変動について関心を持つことができたと考えられる。
→気象庁のデータを基に、猛暑日の日数や平均気温についての折れ線グラフを作成し、焦点化したことでねらいに迫ることができたと思う。また、群馬県が発行している、子ども向けの環境白書を活用したことが、気候変動の影響等を知るきっかけになったと思われる。
(道徳の授業について)
●終末の発問に対し、教材文や資料を基にして自分にできそうな対策や大事だと思ったこと、自然の動植物との関わり方について記述した児童が多く、本時のねらいに迫ることができたと考えられる。
→算数で気候変動について扱った際の、「気温が高くなると生き物が減ってしまう」ことを振り返らせたことで「人間の活動と地球環境(自然)への影響」について考えやすかったと思われる。
【課題】
(算数の授業について)
●導入でSDGsそのものの説明をしたが、少し長くなってしまい、振り返りの時間を十分に確保することができなかった。4月から総合や道徳などで「こんな思いはSDGsの〇〇に関連するね」と小出しにしてきたが、朝の学習の時間や総合等で、基本的な知識などを教える時間を取るなど、計画を立てる必要があった。
(道徳の授業について)
●「自然を大事にする」ということを意識することはできたが、その方法として「ゴミを捨てない」「植物を安易に殺さない」などの記述が多かった。これはGoal 14の「海の豊かさを守ろう」やGoal 15「陸の豊かさを守ろう」に関連しているので、「みんなが考えたことはSDGsの他のゴールにも繋がっているよ」と価値付けすればもっと良かったと思う。
しかし、実際の授業は、ねらいとは少しずれてしまった。そのため、ねらいであるGoal 13をもっと掘り下げるならば、例えば終末の問いを、「教材文では、人間の活動によって自然の動物に影響が出ていることが分かりましたね。でも、人間の活動によって人間自身に影響が出るかもしれません。例えば熱中症、大雨、食糧不足。そんな気候変動による影響から自分の身を守るために、どんなことが考えられますか?」と変更したら、児童からは例えば、「防災バッグを準備しておく/熱中症にならないように〇〇という対策をする/暑くてもやられない食べ物をつくる!」等の、気候変動に対する姿勢や必要な対策について思考をめぐらせることができ、よりGoal 13を深めることができたと思う。
【他教科とのつながり】
●4年国語の「もしものときにそなえよう」では、自然災害について調べ、話の組み立てを考えて他人に伝える文章を書く学習を行う。そこでの素地になると考えられる。
●5年総合的な学習の時間の「地域環境調査隊」というテーマでは、環境問題の改善のために私たちの生活ではどんなことができるのかを調べ実践する学習を行う。同様に、この学習の素地になると考えられる。
【参考文献】
・前橋市 月ごとの変化 気象庁|過去の気象データ検索 (jma.go.jp)
・算数で作成・活用したスライド
・道徳 「聞かせて、君の声を!」(日本文教出版4年)
・ぐんまこども環境白書2022「地球温暖化のこと」
・ぐんまこども環境白書2022「自然のこと」
・ユニセフ SDGs CLUB(公益財団法人 日本ユニセフ協会サイト)
この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!