小5理科「動物のたん生(魚のたまご)」指導アイデア
執筆/福岡県大野城市立下大利小学校教諭・水野麻江
監修/文部科学省教科調査官・有本淳
福岡県大野城市立月の浦小学校校長・清尾昌利
目次
単元目標
魚を育てる中で、たまごの様子に着目して、時間の経過と関係づけて動物の発生や成長を調べる活動を通して、それらについての理解を図り、観察、実験などに関する技能を身につけるとともに、主に予想や仮説を基に、解決の方法を発想する力や生命を尊重する態度、主体的に問題解決しようとする態度を育成することがねらいとなります。
評価規準
知識・技能
①魚には雌雄があり、生まれたたまごは日がたつにつれて中の様子が変化してかえること。
②動物の発生や成長について、観察、実験などの目的に応じて、器具や機器などを選択し、正しく扱いながら調べ、それらの過程や得られた結果を適切に記録している。
思考・判断・表現
①動物の発生や成長について、予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現するなどして問題解決している。
②動物の発生や成長について、観察、実験などから得られた結果を基に考察し、表現するなどして問題解決している。
主体的に学習に取り組む態度
①動物の発生や成長についての事物・現象に進んで関わり、粘り強く、他者と関わりながら問題解決しようとしている。
②動物の発生や成長について学んだことを学習や生活に生かそうとしている。
評価計画
総時数 8時間
導入前 メダカの飼育開始
1 学級の共有の水槽での学級共有水槽メダカの飼育開始
2 メダカの繫殖開始
第1次 メダカのたん生について学習の見通しをもつ
1 飼育して気付いたことから、メダカの雌雄のちがいについて問題を見いだし、調べる方法を考える。
思考・判断・表現①
動物の発生や成長について、予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現するなどして問題解決している。〈発言分析・記述分析〉
2 メダカの雌雄のちがいについて、観察する。
知識・技能②
動物の発生や成長について、観察、実験などの目的に応じて、器具や機器などを選択し、正しく扱いながら調べ、それらの過程や得られた結果を適切に記録している。〈行動観察・記録分析〉
思考・判断・表現②
動物の発生や成長について、観察、実験などから得られた結果を基に考察し、表現するなどして問題解決している。〈発言分析・記述分析〉
第2次 メダカのたん生
3~4 メダカのたまごは、どのように変化して子メダカになるかについて問題を見いだし、調べる方法について考える。(授業の詳細)
思考・判断・表現①
動物の発生や成長について、観察、実験などから得られた結果を基に考察し、表現するなどして問題解決している。〈発言分析・記述分析〉
5 双眼実体顕微鏡(または解剖顕微鏡)の使い方を知る。
知識・技能②
動物の発生や成長について、観察、実験などの目的に応じて、器具や機器などを選択し、正しく扱いながら調べ、それらの過程や得られた結果を適切に記録している。〈行動観察・記録分析〉
6~7 メダカのたまごの中の様子について変化したことを中心に調べる。
思考・判断・表現②
動物の発生や成長について、観察、実験などから得られた結果を基に考察し、表現するなどして問題解決している。〈発言分析・記述分析〉
主体的に学習に取り組む態度①
動物の発生や成長についての事物・現象に進んで関わり、粘り強く、他者と関わりながら問題解決しようとしている。〈行動観察・発言分析・記述分析〉
第3次 学びを振り返る
8 メダカのたん生や成長についてまとめる。
知識・技能①
魚には雌雄があり、生まれたたまごは日がたつにつれて中の様子が変化してかえること。〈発言分析・記述分析〉
主体的に学習に取り組む態度②
動物の発生や成長について学んだことを学習や生活に生かそうとしている。〈発言分析・記述分析〉
授業の詳細
第2次 メダカを飼育し、誕生や成長の様子を調べる。
動物の発生や成長について、動物の発生の様子と経過についての予想や仮説を基に、解決方法を発想し、表現することができる。
①問題を見いだす【自然事象との出会い】
たまごを虫眼鏡で観察して中の様子に着目したり、大人のメダカと比べたりして、問題を見いだすことができるようにしましょう。
メダカがたまごを産んでいますね。たまごを見て、気づいたことはありますか。
たまごの中に何かあるね。これがメダカになるのかな。
どうやって、メダカの体ができるのかな。調べてみたい。
こんなに小さなたまごが、どうやって大人のメダカみたいになるんだろう。観察したい。
では、みんなで解決していく問題を決めましょう。
メダカは、たまごからどのように変化して生まれてくるのだろうか。
②予想する
たまごの写真を提示したり、たまごを虫眼鏡で見たときの様子を想起したり、3年生のモンシロチョウの学習をふり返ったりすると、根拠をもって予想することができます。
中にいる小さなメダカがたまごの中で大きくなっていくと思います。なぜなら、今は見えないけど、メダカの形のものがあると思うからです。
たまごの形が変わって、メダカの形になると思います。なぜなら、鶏とかのたまごはかたいけど、これはやわらかそうだからです。
小さな丸いものが、たまごの中でメダカの形になっていくと思います。なぜなら、メダカの形をしたものがないし、モンシロチョウも幼虫になって生まれてきたからです。
③解決方法を考える
予想を基に考えると、解決方法を自分たちで導き出すことができます。また、教師が先に実験道具などを提示するのではなく、子どもたちが考えたことに対して、提示していくと問題解決の力が育ちます。
予想:たまごの中にまだ見えない小さなメダカがいて、たまごの中で大きくなっていく⇒方法:大きく見えたらいい⇒顕微鏡を使う(ここで教師が顕微鏡を提示する)
同じ卵を毎日観察する⇒観察しやすいようにペトリ皿やジッパー付きビニル袋を紹介する。毎日、同じ時間に観察することも大切であることに気づくことができるようにする。
①卵を水草からとって、見つけた日付を書いて、ペトリ皿やジッパー付きビニル袋に入れる。
②解剖顕微鏡や双眼実体顕微鏡を使って、たまごを観察する。
③1~2日おきに観察する。
ジッパー付きの袋に入れるときは、たまごをろ紙や薄手の画用紙ではさみ、転がした後に入れる。こうすることで、次の3つのメリットがあります。
(1)たまごがバラバラになって観察しやすくなる。
(2)受精卵が丈夫な殻でできていることを実感できる。
(3)簡単につぶれてしまう卵は、未受精卵や死亡卵なので、途中で観察できなくなることを防げる。
また、水道水を使うと、たまごにカビが生えることを防げます。
④観察・実験をする
メダカのたまごの中の様子について、前回の観察と比べ、変化したところを見つけながら観察する。(安全指導③)
すぐに観察できるように、解剖顕微鏡や双眼実体顕微鏡を教室のすぐに取り出せるところに置いておいたり、観察コーナーの場所をつくっておいたりするとよいでしょう。また、観察は授業中に限定せず、登校後や休み時間など、自分で決まった時間を決めて行うようにしましょう。
水温が20℃以下や30℃以上にならないように気をつけてください。たまごが白く濁ってくると、たまごは死んでしまっているため、新しいたまごを観察できるようにしましょう。
<事実を捉える>
教師がモニター付き双眼実体顕微鏡を使って、子どもたちといっしょに記録をとり、いつでも見られるように共有しておくと、各段階の変化を捉えやすくなります。
頭が大きくなったよ。目も見えるね。
血液の流れがわかるよ。
たまごの中で動いているよ。
子メダカがしっぽを出して、出てきたよ。11日で生まれた。
子メダカは透明で、お腹に大きなふくらみがあるよ。
⑤結果の処理
個人の観察カードをタブレットで撮影します。それらを教師がつくっておいたワークシートの枠に、観察した順に入れ込み、グループで共有します。
グループで発生の様子の記録を共有し、共通点を見いだすことで、たまごの中で頭や目ができ、心臓ができ、メダカの形になっていく順序を捉え、考察を導き出すことができます。
<事象をつなげる>
ワークシートの枠に、順番に結果をはめこみながらまとめていくことで、時間の経過と発生の順序を捉えることができます。また、友達の観察結果と自分の結果を比べ、気が付いたことを付加したり共通点を考えたりすることで、多くのデータから考察することができます。
たまごの中で、頭や目や心臓ができていって、メダカの形になっていくね。
しっぽから生まれてきたね。
⑥結果を基に考察する
予想とちがって、たまごの形が変わっていくのではなく、たまごの中でメダカになっていくんだね。
予想通り、たまごの中でだんだんとメダカの形になっていくとわかったよ。
たまごは水道水に入れただけなのに、変化して子メダカが生まれてきたことや、生まれた子メダカには2~3日エサを与えなくてよいのはどうしてなのかについて考えるようにし、既習の発芽と成長の学習と結びつけて、たまごの中や子メダカのお腹の中に養分があることを関係付けて考えられるようにします。たまごの中やメダカのお腹の中にある養分について、ふれておきましょう。
子メダカには、2~3日エサを与えなくても構いません。どうしてだと思いますか。
インゲン豆の子葉に養分があったように、メダカのお腹の大きなふくらみが養分なのかもしれないと思った。
⑦結論を出す
メダカは、たまごの中で少しずつ変化して、親と似た姿になって生まれてくる。
⑧振り返る
他の魚も同じように、たまごの中で変化して生まれてくるのかな。
人はたまごからは生まれてこないから、人と魚はちがうなあ。
メダカの子どもも成長して親となり、また、たまごを産むんだね。命はつながっているんだね。
安全指導
安全指導①
メダカの水槽を直射日光が当たる場所においてしまうと、水温が上がって死んでしまいます。必ず、直射日光が当たらない、明るいところに置いてください。
メダカを新しい水に入れる際は、全部の水を入れ変えてしまうと環境が大きく変わり弱ってしまいます。半分くらい水を抜き、カルキを抜いた新しい水を付け足して水量を調整してください。
観察が終わっても、飼育しているメダカは絶対に自然の池や川に放したり、水草を捨てたりしないでください。その地域の環境保全に努めましょう。
安全指導②
虫眼鏡を使用する際は、目を傷めるので絶対に太陽を観てはいけません。
今回は観察する対象が動かせないものなので、虫眼鏡を水槽に近づけたり遠ざけたりして、はっきりと見える所で観察するように指導しましょう。
安全指導③
双眼実体顕微鏡は、粗動ねじ(頭を動かすことができるねじ)をゆるめると本体が急にさがるので気をつけましょう。
解剖顕微鏡の反射鏡に直接日光を当ててはいけません。
その他のポイント
●生物にはまだまだ未知の部分がたくさんあります。この単元では、典型事例として外見で雌雄がはっきりと見分けられるメダカを取り扱いますが、マグロやフグなど、子どもも知っている他の魚類には、外見では雌雄の見分けが難しいものもあるそうです。単元末にそのことに触れることで、共通性・多様性の見方を日常生活に広げることができます。
●購入したメダカを教室で飼い始める前に、別室で数日間様子を観ましょう。はじめのうちは、個体差によって、死んでしまうこともあります。水や水温、環境に馴染ませてから、教室に置くようにしてください。
●生命領域のこの単元では、新しい命の誕生への感動(卵の発生)と、命の尊さ(魚の死)など、資質・能力の一つである「人間性」の涵養に大きく関わる内容です。そのため、飼育中の子どもたちの様子も観察し、必要に応じて、命について話し合う活動を設定することも大切です。また、積極的に評価したことを子どもに伝えましょう。
●魚の飼育をする中で、次のような症状が見られる場合があります。
ひれが溶けているように見える
体やひれに、小さな斑点が見える
白い綿のようなものがついている
このような症状は、病気にかかっている可能性があります。気になった場合は、その個体を違う水槽に移して様子を観るとともに、水替えをしたり、薬品を使って治療したりするなどの対策を講じましょう。
●子メダカは、1cmぐらいになるまでは、親メダカとは別の水そうで育てましょう。エアポンプを使うと、水の流れができ、稚魚が体力を消耗するので使用しないようにしましょう。餌はすりつぶして小さくしてから与えましょう。
イラスト/難波孝