小6家庭科 「衣服の手入れプロジェクト 洗たく編」~環境に優しい洗たくのための工夫を探り、できるようになろう~

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1人1台端末時代の「教科指導のヒントとアイデア」
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今回は、「衣服の手入れプロジェクト 洗たく編」の授業実践を紹介します。小学校では手洗いを中心に扱い、洗濯の仕方を理解し、適切にできるようにします。また、生活排水が環境に及ぼす影響に触れることで、水や洗剤の使い方への意識を高めたり、身近な環境をよりよくするためにできる日常的な行動を具体的に考えたりすることを目指します。

執筆/神奈川県横浜市教育委員会首席指導主事・大平はな(授業者資料提供/神奈川県横浜市公立小学校教諭・谷口淑生)
編集委員/神奈川県横浜市公立小学校校長・本庄則子
監修/元文部科学省教科調査官・筒井恭子

年間掲載内容

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04月 いためる調理
06月 着方と手入れ
08月 製作 ふくろづくり
10月 1食分のこんだて
12月 共に生きる地域での生活

1 題材名

衣服の手入れプロジェクト 洗たく編

2 題材について

本題材「衣服の手入れプロジェクト 洗たく編」は、「B 衣食住の生活」の(4)「衣服の着用と手入れ」及び、「C 消費生活・環境」の(2)「環境に配慮した生活」で構成しています。「環境に優しい洗たくのための工夫を探り、できるようになろう」という課題を設定し、環境に配慮した衣服の手入れの仕方について、実践的・体験的な活動を通して、基礎的・基本的な知識及び技能を身に付け、環境に配慮した衣服の手入れの仕方を工夫し、課題を解決することをねらいとしています。

衣服の手入れ(洗濯)については、表1のように小学校では手洗いを中心に扱います。洗濯の手順として、「洗濯物の状態や汚れの点検」「洗う」では、洗濯物と水量の関係を理解し、洗剤は適量を量って使うことや手洗いの仕方が分かり、できるようにします。「すすぐ」では、ためすすぎ、中間で行う絞りの意味を理解し、できるようにします。「干す」では、しわをとる、乾きやすい干し方などの適切な方法を理解し、できるようにします。電気洗濯機は脱水に使用したり、手洗いと比較したりする際に扱います。また、洗剤の働きなどは中学校で学習するので、本題材では洗剤の量を中心に扱うことに留意します。

「衣服の手入れ」に関する指導内容
表1 「衣服の手入れ」に関する指導内容

また、環境問題は、年々深刻さを増しており、日本でも近年、気候変動を起因とする異常気象によって自然災害が多発しています。国際連合の開発目標である「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の17の目標のうち、本題材では表2のとおり「14 海の豊かさを守ろう」の目標が関わっています。「持続可能な社会」を構築するためには、環境に配慮するだけでなく、自分のことや家族、地域の人のことを考え、長い目で見て生活をよりよくしていこうとする意識も必要です。本校の子供の多くは、自分たちの日常生活の何気ない行為が、環境に影響を与えているということを実感しています。しかし、家庭科での調理や製作といった実践的・体験的な活動の中で、環境や持続可能な社会の構築の視点から、問題を見いだし、SDGsについて考える子供やそれらを踏まえて活動しようとする子供は少なく、理解はしつつも、自分ごととして捉えている子供が少ないと言えます。そこで、本題材で扱う手洗いの洗濯では、生活排水が環境に及ぼす影響に触れながら学習することで、水や洗剤の使い方への意識を高め、身近な環境をよりよくするためにできる日常的な行動を具体的に考える場面を取り入れています。

SDGsと家庭科において考えられる学習活動の関連
表2 SDGsと家庭科において考えられる学習活動の関連

3 題材の目標

○日常着の手入れが必要であることや環境に配慮した手洗いによる洗濯の仕方を理解しているとともに、それらに係る技能を身に付ける。

○日常着の手入れや環境に配慮した手洗いによる洗濯の仕方について問題を見いだして課題を設定し、様々な解決方法を考え、実践を評価・改善し、考えたことを表現するなどして課題を解決する力を身に付ける。

○家族の一員として、生活をよりよくしようと、日常着の手入れや環境に配慮した手洗いによる洗濯の仕方について、課題の解決に向けて主体的に取り組んだり、振り返って改善したりして、生活を工夫し、実践しようとする。  

4 題材の評価規準

●知識・技能
・日常着の手入れの必要性について理解している。
・環境に配慮した手洗いによる洗濯の仕方について理解しているとともに、適切にできる。
●思考・判断・表現
日常着の手入れや環境に配慮した手洗いによる洗濯の仕方について問題を見いだして課題を設定し、様々な解決方法を考え、実践を評価・改善し、考えたことを表現するなどして課題を解決する力を身に付けている。
●主体的に学習に取り組む態度
家族の一員として、生活をよりよくしようと、日常着の手入れや環境に配慮した手洗いによる洗濯の仕方について、課題の解決に向けて主体的に取り組んだり、振り返って改善したりして、生活を工夫し、実践しようとしている。

5 指導のアイデア

「環境に優しい洗たくのための工夫を探り、できるようになろう」という題材を貫く課題を子供とともに設定する場面では、衣服に付着した汚れを可視化したり、水や洗剤の使い方が環境に与える影響を動画等で確認したりするなどして、環境に配慮した衣服の手入れの仕方について、子供が様々な疑問や関心をもって学習をスタートできるようにします。授業においては、日常の行動がどのように環境に影響をもたらしているのか分かるような資料を提示し、自分の行動を振り返ることにつなげるとともに、ICTを活用して、情報収集・整理・分析・比較・検討ができる学習環境を整えます。特に、クラウド型学習支援アプリケーション上で日常着の洗濯を考えるためのワークシートを用意し、1人1台端末内で書き込めるように準備します。そうすることで、実験結果を画像や動画で共有しやすくなります。さらに、「日常着の洗濯」に関する問題を見いだして課題を設定し、様々な解決方法を考え、実践を評価、改善し、考えたことを表現するなど課題を解決する力が身に付いたかどうかを、学習カードの記述内容から継続的に評価し、必要に応じて指導の改善に生かすようにします。

6 題材の指導計画(全6時間)

 時間 学習内容
日常着の手入れや環境に配慮した手洗いによる洗濯の仕方などを振り返り、課題を設定しよう。
環境に配慮した手洗いの洗濯の仕方を調べよう。
環境に配慮した手洗いの洗濯の仕方についてまとめ、「洗いたい1着 洗濯計画」を立てよう。
環境に優しい洗たくに向けて、「洗いたい1着 洗濯計画」を工夫しよう。
「洗いたい1着 洗濯計画」に沿って、環境に配慮した手洗いの洗濯をしよう。〔洗濯実習〕
学校での洗濯実習を振り返り、家庭での実践に向けて、計画を見直したり、改善したりしよう。

7 学習の流れと子供の様子

1時間目

〔ねらい〕

日常着の手入れの必要性を理解するとともに、日常着の手入れの仕方、環境に配慮した手洗い洗濯の仕方から問題を見いだし、課題を設定することができる。

〔主な学習活動〕

①Tシャツに付着した目に見えない汚れを可視化し、日常着を手入れする必要性について話し合う。
②動画「手洗いによる洗濯と洗濯機による洗濯の比較」を視聴し、洗濯に対する疑問や手洗いによる洗濯について知りたいこと、できるようになりたいことを話し合う。
③水や洗剤の使い方を振り返り、環境に配慮することの意味やよさを確かめる。

A児の姿
「洗濯機による洗濯のほうが早くきれいになると思っていたけれど、ピンポイントの汚れは手洗い洗濯のほうがよく落ちていました。『排水口は海の玄関』ということを知って、自分はそんなことを意識していなかったので、石けんや洗剤を無駄遣いして、海を汚していたのかもしれないなと思いました」

 

〔板書のイメージ〕

衣服の手入れプロジェクト 洗濯編の板書イメージ

 

2時間目

〔ねらい〕

環境に配慮した手洗いの洗濯の仕方が分かり、適切にできる。

〔主な学習活動〕

①手洗いによる洗濯の手順や方法、環境に配慮した水や洗剤の使い方を調べる。
②運動会の練習で使った靴下を手洗いで洗濯する。(実習)

A児の姿
「つま先やかかとなどは、なかなか汚れが落ちなくて大変でした。使用する水や洗剤の量を守って、洗濯することができました」

 

〔子供が調べ学習に用いた教育委員会事務局作成の動画:洗濯する物の観察、水や洗剤の量の確認の場面〕

洗濯する物の観察、水や洗剤の量の確認の場面

〔子供が調べ学習に用いた教育委員会事務局作成の動画:流しすすぎとためすすぎで使用する水の量を比較する場面〕

流しすすぎとためすすぎで使用する水の量を比較する場面

 

3時間目

〔ねらい〕

日常着の手入れの仕方や環境に配慮した手洗いによる洗濯の仕方について考え、「洗いたい1着 洗濯計画」を立てることができる。

〔主な学習活動〕

①前時の洗濯実習を、「手順や方法」「環境への配慮」の2点から振り返り、改善点を考える。
②改善点を踏まえて、自分が洗濯するTシャツやブラウスの洗濯の仕方を考え、「洗いたい1着 洗濯計画表」を作成する。

A児の姿
「次はTシャツを洗うので、汚れにあった洗い方を工夫したいです。中間で行うしぼりを忘れないようにすることで、すすぎに使う水の量が減ることが分かったので、洗剤が染み込んだ水をよくしぼりたいです」

 

 

4時間目

〔ねらい〕

日常着の手入れの仕方や環境に配慮した手洗いによる洗濯の仕方について考え、「洗いたい1着 洗濯計画」を工夫することができる。

〔主な学習活動〕

①お試しコーナー(「洗い方の工夫」「絞り方の工夫」「干し方の工夫」「環境に優しい工夫」等)で手洗い洗濯の手順や方法、環境への配慮を自分なりに確かめ、洗濯計画表を工夫する。
②ペアやグループで共有する。

〔デジタル学習カード〕 

上着とTシャツ洗たく計画表

洗濯実習の様子:ペアによる観察

家庭科の授業で洗濯をしている子供たち

 

 

5時間目

〔ねらい〕

「洗いたい1着 洗濯計画」に沿って環境に配慮した手洗いによる洗濯が適切にできる。

〔主な学習活動〕

①「洗いたい1着 洗濯計画」に沿って環境に配慮した手洗いによる洗濯をペアで行う。
②ペアによる観察をもとに、手洗いによる洗濯の仕方や環境への配慮について相互評価する。

 

6時間目

〔ねらい〕

学校での洗濯実習を振り返り、家庭での実践に向けて計画を見直したり、改善したりすることができる。

〔主な学習活動〕

①ペアによる相互評価をもとに、計画に沿って洗濯することができたか、環境に配慮した洗濯ができたかを振り返る。
②家庭での実践に向けて、生かしていきたいことについて話し合い、計画を改善する。

A児の姿
「手洗いの洗濯の学習を通して、環境を大切にした生活を送るために、自分の工夫次第でいろいろなことができることが分かりました。水や洗剤は毎日使います。洗濯以外の場面でも、排水口が海につながっていることをいつも考えながら生活していきたいです」

 

8 学習を振り返って

①小学校では、中学校の学習の基礎となる資質・能力を育むため、その題材で身に付ける基礎的・基本的な知識や技能とは何かを明確にする必要があることが分かりました。学習対象は同じであっても、各学校段階で重点の置き方は異なるので、内容の取扱い方や教材を見直し、工夫していきたいと考えます。

②2030年までに世界が協力して達成を目指す「SDGs(持続可能な開発目標)」は、この地球が、持続可能で、誰にとってもよりよい社会として発展するために掲げられたものです。その実現に向けては、家庭科だけでなく、各教科等の関連を図って推進することが求められています。家庭科においても題材を構成する際には、家庭生活を総合的に捉え、他教科等及びSDGsとの関連を明らかにしながら、見通しをもって指導することの大切さを改めて実感しました。

 

構成/浅原孝子 

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