小6国語「海の命」板書の技術

連載
見やすく理解しやすい「単元別 板書の技術」元京都女子大学教授・同附属小学校校長 吉永幸司監修
関連タグ
連載 見やすく理解しやすい 京女式 単元別 板書の技術  バナー

今回の教材は、有名な物語文の「海の命」です。本単元の学習課題は、「登場人物の関係をとらえ、人物の生き方について話し合おう」です。そのため、登場人物の関係を理解し、太一にどういう影響を与えたのか、山場場面の太一の葛藤はどういう理由からかなど、深く読み取ることが大切です。それらを捉えやすくする板書の工夫を紹介します。

監修/京都女子大学附属小学校特命副校長・吉永幸司
執筆/埼玉県公立学校教諭・小澤綾華(せせらぎの会)

 

単元名 登場人物の関係をとらえ、人物の生き方について話し合おう
教材名 「海の命」(光村図書出版 6年)

単元の計画(全6時間)

第一次 単元のめあてを確認し、学習の見通しをもつ。(1時間)
1 本文を読んだ後、初発の感想を交流し、学習計画を立てる。
※初発の感想から出た子供の疑問は短冊に書き、学習のめあてにつなげる。

第二次 中心人物「太一」の変容について考える。(4時間)
2 登場人物を確認し、「父」「与吉じいさ」「母」の人物像を考える。
3 それぞれの登場人物が太一の人生にどのような影響を与えたのか考える。
4 太一が「瀬の主」を打たなかった理由を考える。
5  「海の命」が表すものについて考える。

第三次 それぞれの人物の生き方について考え、学習を振り返る。(1時間)
6 登場人物の生き方について考えをまとめて伝え合い、感想を交流する。

板書の基本

人物の関係が一目で分かる板書

本単元は周囲の人間の存在が大きく影響して中心人物の人生や生き方が大きく変容する作品です。3/6時間目では、それぞれの人物はどのような人物像なのか、その人たちから何を学び、何を思ったのかが一目で分かるように人物関係図を書き、整理します。作中にキーワードとして出てくる「村一番の漁師」や「一人前の漁師」は目立たせるようカードにして貼ることで、言葉の意味の違いも捉えやすくさせます。

山場場面の葛藤を深く読み取るための板書

本単元の山場場面である6場面では、瀬の主を打つことを夢や目標としていた太一に、「クエを殺したい」「クエを殺せない」という葛藤が生まれます。4/6時間では、1場面から続く「クエへの憎しみ」が、いつからか「クエを倒すことが目標」に変化したことが捉えられるよう、場面ごとに追っていきます。

場面の上部には太一の年齢を書くことで、太一の人生を描いた物語であることを理解させます。そして6場面では、2つの葛藤を上下2段の表にして分けて考えることで、対比関係をつかみながら中心人物の心情を考えることができます。さらに、それぞれの葛藤を2色の色チョークで囲ったり、板書したりすることで、視覚的にも分かりやすくなります。

板書を利用した授業の進め方(3/6時間目)

板書
6時間目の板書 

1 本時のめあてを確かめる

前時(2/6時間目)に中心人物が太一であることを確認します。その授業を受けて、本時のめあて「太一に一番影響を与えたのは誰だろう。」を板書します。次に、太一を中心に人物関係図を書いて考えていくことを伝え、「人物相関図を書いて考えよう。」と板書します。

板書
2/6時間目の板書(中心人物が太一である) 

2 太一の変容に影響を与えた人物を考え、人物関係図を書く準備をする

まず、黒板中央にピンク色カードの太一を貼り、太一の変容に大きく影響を与えた人物を考えます。そして黄色カードの与吉じいさとおとう、クエ、母を、間隔をとって貼ります。クエはおとうとも関係するので太一とおとうの下にカードを貼ります。

次にカードとカードを矢印でつなぎます。太一からの矢印は赤チョークで引き、おとうからクエ、与吉じいさから太一、母から太一への矢印は白チョークで引きます。色を変えることで中心人物太一の気持ちに寄り添って考えやすくなります。

3 太一のそれぞれへの気持ちを考え、人物関係図にまとめる

伝えたい出来事や自分にとっての意味や価値を考えるために、思い出すアイテムを考えます。子供たちの発表を受けて、板書します。

(1)太一からおとう、太一から与吉じいさへの人物関係を理解する板書
①本文中から分かるおとうの人物像をカードの右横に黄色チョークで板書します。
②太一からおとうへの気持ちを考え、矢印の上に板書します。
③本文中から分かる与吉じいさの人物像をカードの左横に黄色チョークで板書します。
④太一から与吉じいさのところに弟子入りしたことを押さえます。そして、どうして無理やりにでも与吉じいさの弟子になりたかったのか考え、吹き出しに板書します。
⑤与吉じいさは太一のことをどう見ていたのかを本文から探し、「太一は村一番の漁師だ」と認めたことを確認し、白矢印の下に板書します。

(2)おとうと与吉じいさの人物関係を理解する板書
① 太一が心に残るおとうの言葉「海のめぐみだからなあ。」をカードの下部に黄色チョークで板書します。そして言葉の意味を考えます。
②与吉じいさの口ぐせである「千匹に一匹でいいんだ。」をカードの下部に黄色チョークで板書します。そして、言葉の意味を考えます。
③どちらも海に感謝し、海を大切にしている「村一番の漁師」であることを確認し、緑カード(村一番の漁師)をおとうと与吉じいさに貼ります。
④人物像や村一番の漁師であることから、2人は人として・漁師として似ていることを確認し、大きく黄色矢印でつなぎ、「似ている」と板書します。

(3)太一から母、クエへの人物関係を理解する板書
①本文中から分かる母の人物像をカードの右横に黄色チョークで板書します。
②母から太一への気持ちを考え、白矢印の上に板書します。
③ここから、太一から母への気持ちを考え、「母を悲しませたくない」と赤矢印の下に板書します。
④おとうはクエを「とろうとしてロープでつないで死んでしまった」ことを確認し、白矢印の上に板書します。
⑤おとうのことを踏まえて、太一からクエへの気持ちを考え、矢印の右側に板書します。

「本当の一人前の漁師」について考える

「本当の一人前の漁師」とは、クエをたおす漁師であること、太一の夢や目標になっていることを押さえるため、次のように指導します。

①「村一番の漁師」に注目し、太一も「村一番の漁師」になりたかったのかを考え、6場面の叙述から「本当の一人前の漁師」になりたかったのだと確認します。太一カードの下部にオレンジカード(本当の一人前の漁師)を貼り、言葉の意味を考え、イコールでつなぎます(カード左側)。
②なぜ太一は「本当の一人前の漁師」になりたかったのかを考え、クエへの気持ちから矢印を引き、板書します(カード右側)。
③「本当の一人前の漁師」が太一の夢や目標であったことを確認し、黄色チョークで板書します。

5 振り返りをする

完成した人物関係図を見て、太一に一番影響を与えた人物について、理由とともに考えます。

板書を利用した授業の進め方(4/6時間目)

板書
4/6時間目の板書

1 本時のめあてを確かめ、読む場面を絞る

初発の感想の疑問点「どうして太一は瀬の主を殺さなかったのだろう。」の短冊を黒板に貼ります。短冊の疑問を解決するためのめあてを子供と考え、本時のめあて「太一のクエへの思いを考えよう。」を板書します。

次に学習場面を考え、クエは太一の心の中にずっと存在していたことを確認し、太一の心情が表れる1・2・3・4・6場面を読み深めていくことを共通理解させます。

2 1~4場面の太一のクエへの思いを考える

各場面のカードを黒板上部に貼ります。そして以下のように指導します。

≪1場面≫
まず、本文から太一が何歳ころの出来事であったかを考え、8~10歳と年齢を場面カードの上に書きます。次に、おとうの死からクエに対してどのような思いをもっていたかを考え、板書します。
≪2場面≫
1場面と同じように年齢を考えます。そしてクエに対して、にくい気持ちをもった太一はどうしたのかを考え、「与吉じいさに無理やり弟子入り」したことを確認します。そして、おとうと与吉じいさは「村一番の漁師」であったことを確認し、村一番の漁師とはどのような漁師なのかを考え、板書します。
≪3場面≫
1場面と同じように年齢を考えます。与吉じいさに「太一は村一番の漁師だ」と「漁師として認められた」ことを確認し、太一の思いを考えます。
さらに、なぜ「村一番の漁師になったことに満足していない」のかを考え、「おとうを殺したクエをたおすことが太一の夢や目標」になっていると予想し、黄色チョークで囲います。
≪4場面≫
1場面と同じように年齢を考えます。「母が心配するほど屈強な若者に」なった太一について考え、母は「太一が父と同じに見えた」ことを予想します。ここから、「太一はあこがれていたおとうのような漁師」に成長したことを確認し、板書します。

3 太一がクエを殺さなかった理由について考える

6場面に注目し、太一のクエへの思いが書かれた教科書の叙述にサイドラインを引かせ、クエを目の前に「殺す・殺さない」の葛藤があることを押さえます。そして葛藤が一番表れている1文を書き抜き、「この魚をとらなければ、本当の一人前の漁師にはなれないのだと、太一は泣きそうになりながら思う」を板書します。「本当の一人前の漁師」は「クエをとる漁師」であることを確認し、横に板書します。

そして次のように指導します。

① なぜ泣きそうになったのか考えるため、「泣きそうに」を四角く囲います。理由を考え、「クエを殺したい」という気持ちと「クエを殺せない」という2つの気持ちがあることを確認し、2段に分けて板書し、中央に線を引きます。そして、それぞれ黄色と赤色チョークで囲います。
② 「クエを殺したい」気持ちを考え、黄色チョークで板書します。
③「クエを殺せない」気持ちを考え、赤色チョークで板書します。
④「水の中で太一はふっとほほえみ、口から銀のあぶくを出した。」という1文に注目し、「銀のあぶく」の意味を考えます。
⑤太一は「自分の欲」を捨て、クエを殺さない海を優先する漁師になる決意をしたことを確認し、下の段に「村一番の漁師」の緑カードを貼ります。そして、「大魚=海の命」の意味について考えます。

4 太一のおとうへの言葉の意味を考える

「おとう、ここにおられたのですか。」の「ここ」という言葉の意味を考え、板書します。そして、おとうも太一と同じ「海を優先したため、クエを殺さなかった」ことを押さえ、下の段から「ここ」に向かって大きく赤チョークの矢印でつなぎます。

 

構成/浅原孝子

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
見やすく理解しやすい「単元別 板書の技術」元京都女子大学教授・同附属小学校校長 吉永幸司監修
関連タグ

授業改善の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました