空気のあたたまり方の学習を活用した、理科の「ものづくり」 【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓

「ものづくり」と言うと、教材として販売されているモーターカーなどの印象が強いかもしれませんね。既成の教材は数多くあり、それらを採用して説明書通りに作らせると、実験には失敗しなくなるかもしれませんが、果たして本当に子どもの学びになっているのでしょうか?
理科における「ものづくり」では、
①子どもたちが目的をもって作っているか
②学んだことを使って作り方を考え、試行錯誤しているか
の2つがポイントになります。 今回は、子ども自身で考えた、まさに手作りの事例を紹介し、「ものづくり」の可能性を広げていくような実践紹介です。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/福島県公立小学校教諭・鴫原卓
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

はじめに

理科の学習指導要領では、「A 物質・エネルギー」の領域において各学年で2種類ないし3種類以上「ものづくり」をするように規定されています。
そのポイントは、「子どもが学んだことの意義を実感できるような学習活動の充実を図る観点から、子どもが『明確な目的をもち,ものづくりを行うこと』」と、「どのような学んだ内容を活用するか」です。今回は、第4学年、空気のあたたまり方における「ものづくり」を紹介します。

1 教師の目的をもった単元への「ものづくり」位置づけ

金属や水の熱の伝わり方を、子どもたちが視覚的に捉えることができるようにするために、示温インク(サーモインク)を活用して、実験を行うことが多いのではないでしょうか?
しかし、温められた空気の変化を調べるために、空気に色をつけることはできません。教室の天井や床に温度計を設置して、その気温の違いから、暖かい空気は上に行き、冷たい空気は下にいくことを捉えたり、線香の煙の動きを観察したりしますが、子どもが、温められた空気が上にいくことを実感を伴って理解しているのか不安になったことはありませんか?
そこで、単元末に空気の温まり方を目で見て、実感できるようにするために「ものづくり」を単元末に位置付けました。

2 「ものづくり」の指導のポイント

⑴ 目的意識をもった、「子どものものづくり」

何のための「ものづくり」なのか、という「ものづくり」の目的と設計図は子どもが描くことが必要です。教師が「ものづくり」の設計図を渡してしまうと、それは「先生のものづくり」であり、「子どもたちのものづくり」ではなくなってしまいます。子どもたちが目的意識をもち、学んだことを活用しながら設計図を考えることができるようにすることが大切です。

⑵ 科学的な「ものづくり」

理科では、科学的に考えることを大切にしています。科学的とは、

実証性 観察、実験などで検討することができるのか。
再現性 人や時間や場所を変えても同一条件下なら何度やっても同じ結果になるのか。
客観性 実証性や再現性を満たし、多くの人に承認されるのか。

という3点をあわせもつことです。設計図を描いたときと作り出したときに、それが科学的に妥当なものなのかを検討する必要があります。
例えば、空気の温まり方を調べる設計図に、教室の壁に示温インクを塗るという子どもの発想がでてきたとします。しかし、実際に壁に塗ることは難しいですよね。子どもたちの設計図に描かれた発想を大切にしながらも、科学的という側面から子どもたちと共に、「ものづくり」について検討を重ねていくことが大切です。

⑶ 子どもたちが作った「ものづくり」の例

子どもたちが実際につくったものと、科学的な視点から検討した内容を紹介します。

①部屋の温度がわかるインテリア
目的暖かい空気は上に行ってしまうことを意識した暖房器具の使用で節電をするため。

空気の温まり方を実験する様子

作品紹介:透明アクリルケースの中に、示温インクを塗った粘土の玉を数個用意し、長さの異なる竹串に刺して、並べて立てます。その近くに白熱電球を置いたら、アクリルケースで全体を覆います。アクリルケースの上面にはプロペラをつけ、中の空気をかき混ぜられるようにします。
電球の熱により空気が温められ、高い位置にある粘土から順番に色が変わるのがよく分かります。上部の空気が温まったら、プロペラを回して空気をかき混ぜる工夫をしています。
科学的な視点から改良すべきこと:白熱球との距離が近いところに粘土玉を置いてしまうと、電球の熱を直接受けてしまい、空気の温まり具合とは関係なくいちばん最初に色が変わってしまった。
注意事項:白熱球は、しばらく熱い状態が続くので、火傷に注意すること。

②空気の温度で上がり方が変わるシャボン玉のおもちゃ
目的小さな子でも楽しめるおもちゃで、空気の温まり方を理解するため。

自作のシャボン玉おもちゃで実験する子ども

作品紹介:温かい飲み物用のペットボトルの上部に、シャボン玉の吹き口とストローを付ける穴を開け、それぞれ装着します。
熱いお湯や氷水を使うので、温かい飲み物に使うカップホルダーに紙コップをつけ、その中にペットボトルを入れて、直接触らないようにします。
比較するために、まずは、ペットボトルに何も入れずにシャボン玉の飛び方を観察します。
次に、60℃のお湯をペットボトルの4分の3ほど入れて、暖かい空気をシャボン玉の中に入れて膨らませます。すると、暖かい空気が入ったシャボン玉は上に移動していきます。
反対に、氷水をペットボトルの中に入れて冷たい空気をシャボン玉に入れて膨らませると、シャボン玉は下へ移動していきます。
科学的な視点から改良すべきこと:ストローと吹き口の位置関係で、シャボン玉に入る空気の温度が条件通りにならないことがある。ストローをペットボトル内の水面に近づけて、水面を狙うように息を吹く、というように、吹き方の条件を揃えるようにすればよかった。
注意事項:教室内ではやめましょう。床やテーブルについたシャボンの泡が水拭きだけでは拭き取れなくなってしまいます(界面活性作用)。風の弱い日に外で楽しんでください。屋根より高く飛んでいきますよ。

空気の温まり方の実験を行っている子どもたちのイラスト

おわりに

何のために「ものづくり」をするのか、目的を明確にし、自分たちで発想し、試行錯誤しながら創り出す時間と経験が一番大切ではないでしょうか。
科学技術立国の日本において「ものづくり」はこれまでも、そして、これからも大切な学習になるものと考えています。

イラスト/難波孝

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〈執筆者プロフィール〉
鴫原卓●福島県公立小学校教諭。中学校理科教諭として10年間勤務し、福島県教育研修センター長期研究員を経て、本校に勤務。小・中それぞれの理科の研究会に参加しながら、小・中学校理科教育の懸け橋になれるよう、日々実践研究を行っている。最近では特設SDGs部を設立し、子どもたちと共にゴミ拾いやアプリ開発等、子どもも学校も社会も元気になれるように活動をしている。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員を経験。コアティーチャー(福島県理数教育優秀指導教員)、SSTA会員。


<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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