子どもの思いに寄り添う理科授業で「自立した学び」を促そう 【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓

子ども主体の授業をするためには、少し時間がかかっても子どもたちの声を拾い、その思いを実現し解決していく必要があります。教師が誘導しすぎるのはNGです。理科の授業では、様々な場面で「子どもの思いに寄り添うこと」ができます。今回は、様々な授業内容がある中で、「子どもの思いに寄り添うこと」が見られる場面をいくつか紹介しながら考えていきます。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/福島県公立小学校教諭・金澤重之
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.「子どもが自立する」理科の授業とは

指導するものと指導されるもの、という関係性ではなく、子どもたちと一緒に授業を創っていくことができたら素晴らしいですよね。
つまり、『理科の授業において子どもたちが学ぶ目的をもち、互いに関わり合いながら、協働して学び続けていくことができるように教師が支えていく』ということです。
そのためには、子どもたちに「自立した学び」ができる力を養ってもらいたいです。
私の考える「自立する学び」とは、教師が子どもの興味・関心などを大切にし、子ども一人一人に応じた学習の活動や課題に取り組む機会を多く設定することで、子ども自身が学習を進めていくことだと考えます。
つまり、授業で解決すべき問題を見いだしたり、実験方法を「こうすると分かるかも」と自分たちで考えたり、自分自身の学びを客観的に見つめたり、友達と話し合って評価するような機会を多く設けることが大切だと思います。私自身、試行錯誤しながら日々の授業に取り組んでいますので、今回は「子どもの自立する学び」を支えるために、いかに「子どもの思いに寄り添う」か、ということについて紹介します。

2.子どもの思いに寄り添う理科授業で「自立した学び」を促す

子どもの思考に寄り添いながら、実験方法やまとめ方を子どもたちと一緒に考案することで「自立する学び」につながっていきます。そのためには、子どもの思いを大切にしながら、子どもたちが考案した観察・実験方法で問いに対する答えを導き出すことができるのか、子どもたちと共に考えることが大切です。
それは、具体的にはどういうことなのか、「雨水の行方と地面の様子」で問題を見いだす場面と、「物のとけ方」で予想・仮説の場面について「自立する学び」を促す場面、2つの事例をご紹介します。

⑴ 4年生「雨水の行方と地面の様子」について

①実験した数値と子どもが考えるイメージ図を結びつけながら話し合う
4年生の単元「雨水の行方と地面の様子」は、5年生の「流れる水の働きと土地の変化」や6年生の「土地のつくりと変化」の学習につながっています。
子どもたちは、水の流れ方やしみ込み方に注目し、地面の傾きや土の粒の大きさを関係付けながら、雨水の行方と地面の様子を調べる活動に取り組みます。
雨水のしみ込み方の違いについて考える学習場面では、土の種類によって水のしみ込む速さに違いがあることに注目し、調べることで、時間的・空間的な見方を働かせて、子どもたちが自ら、土の粒の大きさに着目することが大切です。
そのためには、礫などの大きい粒と泥などの小さい粒を比較した時、水がどのように浸透していくのか、実験した数値と子どもが考えるイメージ図を結びつけながら話し合う時間を設けることが、土の粒子の大きさが水のしみ込むことに関係していることに自ら気付く手だてになります。
私は、子どもたちの思考にできるだけ寄り添いたいと考えています。
そこで、上記の実験をするとき、土の手触りや見た目の違いを感じたり、虫眼鏡で粒の大きさの観察をすることで、
「もっと、水がしみこんでいく様子を詳しく見たい」「顕微鏡を使って観察してみたい」
という視点を定め、意欲を高めていきます。
初めから「顕微鏡を使って観察してみよう!」と教師から子どもに投げかけるのではなく、上記のような過程を経ながら、最終的に顕微鏡を使って礫や砂泥を観察してみることで、
『粒の大きさが土の種類によってまったく違う』
ということを、子どもたちが自ら発見できるように導いていきます。

このように、子どもの興味・関心を大切にした学習活動を展開し、実験方法を子どもたちと一緒に考案することを繰り返していくと、
「先生、校庭にある水たまりの下には、泥があるのか見てみたいです」
「しみ込んだ水はその後、どうなっていくのか調べてみたいな」
「生活の中で、水がしみ込んだほうがいい時と、反対にしみ込まない方がいい時はあるのかな」
と、自ら問いを持ち、調べようとする子どもの姿が現れてきます。
授業時数を確保することが難しい時があるかもしれませんが、子どもの興味・関心を大切にした学習活動を展開することで、自分たちで学習を進めているという実感が生まれ、理科の授業の充実感や有用感につながります。こうした経験を発達段階に応じて繰り返すことで、「自立する学び」につながっていくと思います。

②社会科との関連で、「雨水の行方と地面の様子」を考える
4年生では「水」に関する学習が、理科だけでなく社会科でも設定されています。
各教科の学習を関連させて表現する時間を設定することで、子どもたちは自分の考えを整理することができます。「水道管も描きたいな」「雲も表現したらもっとよくなるかも」といった、子どもたちの様々なアイデアを取り入れ、単元の最後に「水マップ」として一枚の画用紙にまとめる取り組みをしてみると、子どもの考えがよくわかります。

子どもたちは、「水」に関して、社会科などの見学で学んだことなどを関連させて表現したり、総合的な学習の時間などで学んだSDGsなどとも結びつけたりして、地球全体のことを考えて作成するかもしれません。また、様々なアイデアを取り入れてオリジナルの作品を作ろうとします。「水」というテーマで6年生まで継続して記入していったら、素晴らしい作品になるのではないでしょうか。

⑵ 5年生「物のとけ方」について

①子どもたちが見いだした問題に対してどうなのか常に考える
子どもが予想や仮説を立てたとしても、観察・実験方法に関しては、教師主導で説明することが多くなってしまうことがありませんか?
子どもの思いに寄り添いながら、その観察・実験方法で本当に答えにたどりつけるのか、子どもたちと共に考えましょう。
「自立した学び」になるためには、子どもたちが見いだした問題に対して、観察、実験などの計画や方法、実験結果の予想まで視野に入れて考えることが大切です。

検証するための計画を立てる場面では、
「本当にこの考えでいいのかな」
「この方法で、みんなに説明できるのかな」
というように、自ら検証することができる予想や仮説になっているかを検討します。学級の児童の実態に応じて、まずは教師が子どもたちの考えを支援したり、様々な考えをコーディネートしたりしてあげましょう。少しずつ子どもたちでできるようになっていきます。

②以前に使用した教材を使い問題を見いだす
5年生の「物のとけ方」の学習の場面で、私は各班で単元の導入時に観察した食塩水をそのままとっておき、単元の最後にもう一度提示します。子どもたちは「物のとけ方」の学習を通して、徐々に沈みながら溶けていく様子を普段の生活の中で体験したり、単元の中で観察したりしています。
私は、
「初めに観察してからずっとそのまま放っておいた食塩水の濃さは、上と下で同じかな?」
と子どもたちに問います。
すると、
「水溶液は下の方が濃いと思います」
「売っているお茶の色は変わってないから、上も下も濃さは変わっていないと思うよ」
「濃さが違うのか調べてみたいな」
といった話し合いが起こり、その中から問題を見いだすことができます。

子どもたちは、今まで学習してきたことを活用しながら、予想や実験計画を立てたり、実験方法を改善したりしながら実験に取り組むようになっていくのです。
ここで注目したいのは、
「自分たちが考えた実験は問いに対する答えを導き出すことができているのか」
と話し合ったり、
「自分たちの予想が正しければどのような結果を得ることができそうなのか」
と、実験の見通しを持ったりすることがことができているかどうかです。
子どもたちは、話し合いを通して、今まで学習してきたことを生かし、実験方法を考えます。なかなかいいアイデアがでないグループもあるかもしれません。そのような時は、教師が子どもの立場になって一緒に考えてあげることも手だての一つになります。

なお、この場面で考えられる実験方法としては、蒸発乾固の経験をいかし、塩水の上・中・下部から取り出した食塩水をスライドガラスの上に滴下し、蒸発させて取り出した食塩の量の違いを比べることが考えられます。さらに、3年生で学習した質量保存の法則から、同じ重さの食塩水の体積を比べたりするといった方法もアイデアとして出るかもしれません。

よく混ぜた食塩水の上中下部から採取した食塩を蒸発させて、食塩の様子を比べる方法例

③濃さによる重さの違いを視覚化し、ちょっと背伸びした子どもの学びを【発展教材として】
さらに考え方を発展させて、
「透明で濃いのか薄いのか見えない食塩水をどのようにしたら見えるようにできるかな」
「食塩水に色がついていたらどうかな」
「違う濃さの食塩水に絵の具で色を付けてみたら、混ざる様子が見えるかもしれない」
「見えないものを見えるようにしたいな」
などといった話し合いを経て、塩分濃度で色分けした食塩水を準備し、下の方に濃度の高い食塩水を入れて観察したり、反対に濃度の低いものを下にしたりして観察したり、様々な方法を試すことで、どのような変化がみられるのか見通しをもって観察する方法もあります。
初期の学習内容では、子どもたちの考えにしっかり寄り添って、丁寧に学ぶ環境を整えることで定着を図ります。そして、発展内容で自立した学びを発揮できる環境を作ることも可能ではないかと思います。

塩分濃度で色分けした水を入れて混ざるか調べる方法例

3.さいごに

子どもたちが自分で実験方法を考え、見通しをもって取り組むからこそ、多様な結果を基に互いに協力し合って、問題を解決できるのではないかと思います。
そのために、教師は子どもたちが話し合って実験方法を考える場面で、
「考えた実験方法でどんなことがわかるのかな」
「どうしてその用具が必要なのかな」
「予想が正しかったらどんな結果になりそうかな」
「本当にそう言えるのかな」
といった問い返しを適宜行うことで、子どもたちが一人だけでは思い付かなかった考えに出合ったり、他の人の考え方と比較しながら自分の考えを整理したりすることができるようになります。

場合によっては、子どもたちが考えた実験方法ではうまく計測できなかったり、どうやって結果から結論を導きだせばいいのか、迷ってしまったりすることもあるかもしれません。
しかし、このような取り組みをすることを通し、子どもたちの学びが深くなっていく姿を見とることができるのではないかと思います。

イラスト/難波孝

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〈執筆者プロフィール〉
金澤重之●かなざわ・しげゆき 福島県公立小学校教諭。理科を中心に日々実践研究を行う。地域の理科教育を推進する中核的な役割を担っている。近著に「子どもの自立する学びを支える教師の構え」(初等理科教育2023年6/7月号)などがある。


<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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