「〇〇をよく見よう」で始める理科の授業 【理科の壺】
理科の授業では、自然事象の「実物」を観察して問題解決をしていきたいですね。動画や写真だけで授業を終わらせるような、「知識さえ教えればよい」という考えはNGです。しっかり目的を持って観察や実験をし、多くの体験を得てほしいです。
また、実際に観察や実験をする場合、しっかり事象を見てほしい。今回は、事象をよく見るための授業展開が紹介されています。子どもがよく見るためには、先生の働きかけが重要です。どのように子どもに働きかけていけばよいのか考えてみましょう。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/神奈川県公立小学校総括教諭・佐藤洋一
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.自然ってどう見るの?
小学校理科の教科の目標の冒頭には「自然に親しみ」と示されています。自然に親しむには、子どもたちの方から自発的に働きかける活動が必要です。
私は、「〇〇をよく見よう」と子どもに投げかけることをおすすめします。この言葉によって、子どもは諸感覚を使って自然に働きかけることを意識します。それにより、自然の多様さに気付くことができるような子どもの育成へと繋がっていきます。子どもは自然から実に多くのことを発見します。発見できないのは、よく見る、という意識がないだけかもしれません。今回は、「よく見る」を取り入れた学習活動を2つご紹介します。
「〇〇をよく見よう」ではじめる理科の授業。あなたも夏休み明けからはじめてみませんか。
2.3年「音の性質」で「音をよく見よう」
「今日は、音をよく見ようの学習です」
この言葉で単元をスタートしてみましょう。きっと子どもたちは、「あれ?」と違和感を感じるでしょう。なぜなら、音は聞くものと思っていたのに、「目で見る」と言われたからです。
じっくり音を見る、という自然へのアプローチをするだけで、この単元の狙いである「音」と「震え」の関係に着目する子どもが育ちます。
今日は音の学習です。音をよーく見ましょう。
どちらの太鼓が音が鳴っているかな?
A(音が鳴っている太鼓の映像)…ここではあえて、実物ではなく動画を使います。撮影のアングルなどで、太鼓の皮(鼓面)の震えがよく分かるものにします。音を消して、映像を見ることだけに焦点化させます。
動いている。
揺れている。
震えている。
この太鼓は音が鳴っているんじゃないかな。
B(音が鳴っていない太鼓の映像)…Aとの比較になるように、音を鳴らしていない動画も見せます。
何も変わらない。
震えていない。
音は鳴ってないんじゃないかな。
2つの太鼓は、どちらが音が鳴っていると思いますか?
Aの太鼓。だって太鼓が震えていたから。
でも、確かめてみないと絶対とは言えない。
確かめたくなったことが、見つかったようですね。確かめたいことを、ノートに書いてみましょう。
3.5年「植物の結実」で「カボチャの花をよく見よう」
「今日は、カボチャの花をよく見ようの学習です」。
この言葉で学習をはじめてみましょう。
5年生の子どもには、よく見ることが理科の楽しみ方であり、よく見ることが、理科的な“?”を発見するコツであることを、学習を通して実感していてほしいものです。
よく見ると、カボチャの花には形の違う2つの種類、雄花と雌花があることに気付きます。このとき、理科の「よく見る」とは、単に「目で見る」だけではなく「手で触る」「においをかぐ」など、諸感覚を働かせることであることを思い出させましょう。カボチャの花を「よく見る」ことで、雄花と雌花の構造の違い、機能の違いに気付くことができるようにします。
よく見る習慣が十分ではない場合は、がくの下や、花弁の中に着目できるような観察カードを準備して、学習をはじめてもよいでしょう。
今日は、カボチャの花をよく見ようの学習です。
どんな花だろう?
5年生の花壇に咲いているこの花です。(カボチャの花の写真を提示)
黄色い花なんだ。
どのくらいの大きさかな?
大きさが気になるのですね。これまでの生き物を見る観察の視点が活かされていますね。
今日は、カボチャが2種類あることをよく見ましょう。
えっ? 2種類の花? 同じ花なのに、2種類ってどういうことだろう。
まず写真をよーく見てみましょう。
花びらの色や形は、どれも同じみたいだよ。
あれ? 花の下の形が、違うものがあるみたいだね。
花の中の形も、少し違っているみたいだけど…。
写真じゃよく見えないな。早く見にいきたいな。
実際に雄花と雌花を観察した後で…。
花の下に、かぼちゃの赤ちゃんみたいなものがついている花を見つけた。
花の下が、まっすぐになっている花もたくさんあったよ。
花の下が膨らんでいる方は、花の中を触ったらベトベトしていたよ。
花の下がまっすぐな方は、花の中に花粉がいっぱいあったよ。
・・・2種類の花には名前が付けられていて、「お花」と「め花」といいます。オスとメスという意味ですね。
何かここで疑問は生まれましたか?
なぜ、花にオスとメスがあるのかな?
きっと、人間と同じように、オスとメスがいないと子どもが残せないんじゃない?
おしべの花粉は粉で、めしべの先はべとべとしていたから粉がつきやすいようになっているということだね。
こうして、受粉や結実についての問題を見いだしていきます。
4.「〇〇をよく見よう」ではじまる理科授業を実践することで…(まとめ)
自然の多様さに気付くために、よく見ることを大切にした授業はいかがでしたか? よく見ることで、普段、何気なく眺めている自然の中に、たくさんの発見があることを知ります。これが理科の楽しみ方の一つだと私は考えます。
理科の言葉を使うと、3年生の「音の性質」の学習は、音の原因である震えを見るために音が鳴っている物を視覚で見る(原因と結果の見方を働かせる)こと。5年生の「植物の結実」では、カボチャの花の多様性を、基準を作って比べて見る(共通性と多様性の見方を働かせる)ことです。これらのことを事象提示を工夫し「よく見る」という言葉で子どもたちに伝えています。
よく見る学習をして、その楽しみを味わった子どもは、次の学習でも、生活の中でも、自然をよく見ることができるようになります。小学校理科の教科の目標の冒頭にある「自然に親しみ」とは、こういった姿を指すのではないでしょうか。
イラスト/難波孝
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〈執筆者プロフィール〉
佐藤洋一●さとう・よういち 神奈川県公立小学校総括教諭。理科を中心に日々実践研究を行う。「これからはじめる“GIGA”全学年・全単元×1人1台端末×活用事例」(日本標準)執筆。川崎市立小学校理科教育研究会研究推進部長。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。