「解決の方法を発想する」とは 【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓

実験の方法を子供たち自身で考えてもらうとき、手放しで任せられるでしょうか? 小学校では、新しく知ることが多いため、完全に最初から自分自身で考えることは難しいです。ただ、いくつかのポイントをあらかじめ押さえておけば、自発的な思考へとつなげていけます。
確かに単元や学習場面によっては、実験方法を考えることは難しい場合もあるでしょう。しかし漠然と「実験方法を子供自身で考えるのは難しい」と思うのではなく、具体的にどうすればよいのかについて考えたいものです。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような“ツボ”が見られるでしょうか?

執筆/東京都公立小学校指導教諭・工藤周一
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

「先生、この方法だったらこの予想を確かめられるよ!」
「前に使った、〇〇(器具名)を使えば、この条件についても調べられる!」
そんな言葉が教室から聞こえるような授業は、どのように生み出すことができるのでしょうか。理科の学習は、子供が見いだした問題を基に、問題解決の過程を通して進めていきます。その過程を通して育成を目指す「問題解決の力」として、次の4つが理科の学習指導要領解説には示されています。

問題解決の力

・問題を見いだす力
・予想や仮説を発想する力
・解決の方法を発想する力
・より妥当な考えをつくりだす力

今回は、問題解決の力の1つである「解決の方法を発想する力」をどのように育成すればよいのか、指導の実際について紹介します。

1.解決の方法を発想する難しさと楽しさ

(1)難しくて当たり前

子供が自分たちで解決の方法、つまり観察、実験の方法を立てていくことはもちろん難しいことです。しかも見いだした問題を「科学的」に解決することが理科では求められているため、子供が考えた方法であれば何でもよい、ということではありません。安全面にも配慮すべきことが多くあります。
解決の方法を発想させていく際に、うまくいかない原因となる壁として次の3つが挙げられます。

①「目的が不明確」な壁
予想や仮説は立てたものの、果たしてどんな観察、実験をして、何を確かめればよいのかが不明確なままなこと、ありませんか?

②「器具を知らない」という壁
小学生は、その単元を学ぶときになって初めて、器具の存在や使い方を知ると言っていいでしょう。学習すべきこと、体験すべき内容は定まっていますので、知らない道具に対して、どのように発想させていけばよいのでしょうか?

③「経験がない」という壁
「解決の方法を発想し、その手順を計画する」という、科学的な解決方法を経験していないので、思考や検討をするまでに至らない、ということも、理由の1つです。活動を充実させたい、けれどなかなか子供が話し合ってくれない。そんなジレンマが先生方から聞こえてきそうです。

(2)自由度が楽しさを生む

どの教科・領域においても、子供は自由に発想する時間を何よりも楽しんで学んでいます。
もちろん、新しい道具や題材について、決められた手順で観察、実験する楽しさもあると思いますが、予想や仮説を基に考えを広げたり、深めたりできる場には創造的な楽しさが含まれています。
子供が「やってみたい、調べてみたい」と思う文脈がそこにあり、その思いを追究した先に教師が想定する指導のゴールがある。そんな学びをつくっていきたいものです。

では、単にその単元の観察、実験の方法を設定するという「プロセス」だけでなく、解決の方法を発想する力として「育成する」ためには、どのような授業を展開していけばよいのでしょうか。

2.「解決の方法を発想する力」の育成

解決の方法を発想する力は、主に小学校第5学年で育成していきます(もちろん他学年でも育成しますが)。解決の方法を発想する力を含む問題解決の力は、単にその力を抽出して鍛えるのではなく、単元の内容を学ぶ過程で身に付けていく力です。第5学年で学習する単元には、以下のものがあります。

第5学年で学習する単元

「エネルギー」:振り子の運動/電流がつくる磁力
「粒子」:物の溶け方
「生命」:植物の発芽、成長、結実/動物の誕生
「地球」:流れる水の働きと土地の変化/天気の予想

第5学年の学習内容には、「条件を制御」して観察、実験を行う場面が多く設定されているものがほとんどです。例えば、振り子の周期が変わる条件を調べたり、電磁石の強さが変わる条件を調べたりするなどが挙げられます。この条件を制御するという考え方を子供が働かせる過程として「検証方法を立案する」場面があり、その場面を中心に解決の方法を発想する力を育んでいきます。

それでは、前述した「壁」を突破するため、「解決の方法」をより細かい要素に分解し、その指導の手だてについて考えてみましょう。

(1)「解決の方法」を分解する

「では、解決の方法を発想してみましょう」と先生が言ったら、子供たちはどのような反応をするでしょうか。
あるいは、どのような反応をしてくれたら、子供が主体的に学んでいると我々は評価してよいでしょうか。
この「望ましい反応」を想定しておくことはとても大切なことです。単に「解決の方法を発想する」では、子供にどのような活動をしてほしいのかが明確にはなっていません。そこで、解決の方法を次のように分解して捉えてみます。

「解決の方法」=「目的の明確化」+「使用器具の選定」+「手順のリスト化、図示」

このように、単に「解決の方法を発想する」と伝えるのではなく、何を調べるために観察、実験を行うのか、どんな器具を用いるのか、どのような手順で行うかという検討する要素に整理することで、子供は何を考えることが「科学的に」調べる検証方法となるのかを意識することができるようになります。
「目的が不明確」の壁は、予想や仮説を基に目的を明確にすることで突破できますが、多くの単元で子供にとっての「初めて使う器具」が登場し、それらを想定して「手順」を含む計画を立てることにはまだ困難さが残ります。

(2)やったことがある!がヒントになる

そこで、使う器具について知ったり、単元特有の手順に触れたりする場面を単元計画の中に意図的に設定します。例えば、一つの単元の中で、単元の最初の実験では、教師が使用器具等の紹介や、安全上の指導も含めて適宜指導しながら計画を設定し、2回目以降の実験から子供が協働的に設定する場面を設けるなど、状況や発達段階に応じて適切に支援を行うのはどうでしょうか。いくつかの単元を例に挙げて示します。

このような段階を、各単元において設定することで、子供は、理科の学習で科学的に解決する観察、実験の方法を設定する力を育むことができると考えます。扱えている(知っている)器具が増えれば、選択の幅も広がり、また前に経験したことを想起する場があれば、それを活用しようと意欲的に取り組むことも期待できます。なお、ここは、「指導と評価の一体化」を基にした評価にも関わってきます。

(3)子供の発想を生かす

ここまで、学習を通して経験したことを基にして解決の方法を発想する力の育成について書いてきました。ただ、これだけでよいかというと、そうではありません。
「経験したことのないものは発想できないのか?」という問題が残っていますね。
もちろん、電流計や流水実験装置など、教科書に載っているような器具や手順そのものは発想できないかもしれませんが、「電流の大きさを測りたい」「水を流したときの様子の変化を捉えたい」といった思いが生まれれば、解決の方法を発想する源になるでしょう。
子供のアイデアを生かす場をつくるためには、教師がその単元について理解を深めておく…つまり教材研究が欠かせません。

今回は、子供たちが解決の方法を発想するのが難しい背景と、それを突破する手だてを紹介しました。この手だてを下敷きとしながら、目の前の子供たちの発想を十分に取り入れ、学級や子供それぞれに最適な計画の立案を目指し、共に授業改善に取り組んでいきましょう。

イラスト/難波孝

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<執筆者プロフィール>
工藤周一⚫︎くどう・しゅういち 東京都公立小学校指導教諭。東京都小学校理科教育研究会の会員として、主に地球領域を中心に理科教育の研究に携わる。「理科×〇〇」を追究しながら授業づくりを進めている。共著に『板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 小学校理科4年』(東洋館出版社)、『平成29年改定小学校教育課程実践講座 理科』(ぎょうせい)。


<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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