「今日何するんだっけ?」から始まる授業 ~瞬時で子ども主体の授業にする問い返し~【理科の壺】

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理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~
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國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓

「子ども主体の授業」といっても、子どもたちに “自由にやらせる” ことで主体的なるわけではありません。そこには、先生の “言葉がけ” が大切になってきます。
子どもたちの考えや、言葉を大切にして授業を進めようとしているか。それとも、先生が主となって子どもたちを引っ張っていくのか。言葉のかけ方ひとつで、全く異なってきます。
もちろん理科では、子どもたちの考えや言葉を紡ぎながら授業を進めていきたいわけですが、「では、子どもたちに、具体的にどう言えばいいの?」と、思いますよね。
そこで、いくつかの事例から先生の言葉がけのセンスを磨いていきましょう。
優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/筑波大学附属小学校教諭・辻 健
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

どんな言葉で授業が始まるかで「誰の授業か」が決まる!

「先生、今日は何するの?」
授業前に準備をしていると、早めに理科室にやって来た子どもが、にこやかな表情で話しかけてくれることがあります。理科授業を楽しみにしてくれているんだなぁ、とニコニコして聞きながらも、私は決まってその子に問い返します。「何をすると思う?」と。
すると子どもは「前の授業から考えると…」とこれまでの授業を振り返りながら、今日の授業について予想をします。子どもが今日の授業に対して見通しをもった瞬間です。

子どもたちの言葉の奥にひそむ、その子の考え。それを引き出すための問い返しについて紹介していきます。日々の授業を深まりや広がりのある授業にしていきましょう。

声掛け1 今日は何をするんだっけ?

黒板に日付や気温、天気などを書いて、さあ、授業が始まるよ、という瞬間。
くるっと子どもたちの方を向いて「で、今日は何をするんだっけ?」と聞いてみましょう。
それが初めての発問であれば、子どもたちはきっと目を丸くして先生の方を見るでしょう。
沈黙を破るかのように聞こえてくるのは、ページをめくる音。教科書をめくる子もいれば、ノートをめくる子もいると思います。
そこですかさず、ノートをめくっている子のノートに着目しましょう。

「整理して書かれているね。この前、何をやったのかがすぐわかるね!」
そして間髪入れずに、
「それが、きれいにノートを書く良さだよね」
と思い切り褒めましょう。

先生の問い返しで子どもたちが思わず振り返りを始めたとき、前の授業がすぐに想起できる。そこに、きれいにノートを書く意味があります。これこそ本来の、ノートの役割でしょう。ノートをきれいに書くのも、整理するのも、誰のためでもなく「自分のため」または「自分たちのため」だという意識が大切です。
…おっと。「ノートをとる目的を意識すること」に話がそれてしまいましたね。

ノートを見ながら記憶を辿り、子どもたちは前回の授業をもとに、今日の授業について話を始めます。そこで先生は
「そうかー。じゃあ、それをさらに調べていかなきゃいけないんだね」
と、子どもたちの言葉をもとに問題を板書していくとよいでしょう。

ほんの1分~2分のやり取りですが、これだけで授業は教師のものではなく、子どもたちのものになります。

声掛け2 なんで、それがこの実験にいるの?

実験の準備をしているときに、子どもから
「先生! ストップウォッチがほしい」
という声が聞こえてきました。
実は、先生は準備を忘れていたわけではなく、子どもたちに実験を数値にして比較することで結論に迫ってほしいという願いをもって、あえて準備をせずに子どもが気付くかどうかを見ていました。
そのため、これは嬉しい瞬間です。しかし、そこですぐに「はい、はい。ここにありますよ」と戸棚から出してはもったいないです!
あえて、
「なんで、ストップウォッチが、この実験にいるの?」
と問い返してみましょう。

すると子どもからは、ストップウォッチを使うことで何ができるのか。この道具によって何が「見える化」されるのかが語られることでしょう。
ストップウォッチの場合は、速さを時間として測ることで数値化され、どのくらい違いがあるのかが比較可能に…つまり、「見える化」されます。
このように、電子てんびんや簡易検流計など、鍵となる道具が後から見出される展開。そして子どもたちが実験の見通しをもち、意味を考えながら実験や観察を行えるような問い返しは、実験や観察でのより主体的な姿を引き出します。

声掛け3 どうしてそう思ったの?

「先生、幼虫の足は、14本じゃなくて16本だよ」
キャベツを食べながら移動するモンシロチョウの幼虫を観察していた子どもがつぶやきました。
心の中で
「あっ、一番後ろにある尾脚に気が付いた!」
と思うのですが、大事なところはそこではなく、幼虫がどのように体を動かしているか、もっと詳しく見てみたいという気持ちを引き出すこと。
だからこそ、「よく見つけたね」や「よくわかったね」ではなく、「どうしてそう思ったの?」と聞いてみましょう。
すると、さらに観察しながら、子どもはその発言を支える考えや意味について話し始めます。
「だって、一番後ろの足も移動に使っているよ」
といった声が。
そこで自ずと足の形と動きを観察しようとする雰囲気が教室に漂います。いつの間にか、足の数に向いていた話題は、足の動きや役割へと変わります。まさに、構造と機能の見方を働かせている瞬間です。今度は、「他の足と比べて…」といったつぶやきも聞かれるでしょう。そこで、先生が「よく比べているね」という称賛をすることで、比較することの大切さや構造と機能の見方を働かせて観察することの良さを感じることができるでしょう。

少しずつでも構いません。子どもたちに問い返しをしながら、発言や行動のルーツを探ってみましょう。そこにはきっと子どもの思いや考えがあります。それが「見える化」されることで、より学び深めたいものが共有され、より主体的な学びが展開されることでしょう。

イラスト/難波孝

「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。

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<執筆者プロフィール>
辻 健●つじ・たけし 筑波大学附属小学校教諭 横浜市の小学校教諭での17年間、理科授業を研究。研究主任として全小理の全国大会で授業提案を行った。2015年より現職。日本初等理科教育研究会役員、SSTA企画委員、日本理科教育学会『理科の教育』編集委員、NHK「ふしぎエンドレス」「ツクランカー」番組制作委員を務める。共著に「イラスト図解ですっきりわかる理科」「理科は教材研究がすべて」(東洋館出版)など。


<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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