ユニバーサルデザイン的視点を取り入れた理科学習の在り方 【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓

理科の壺では、理科の授業の方法を中心に説明をしてきましたが、学級には様々な子どもたちがいます。今回は、特別支援までいかなくても、だれもがわかりやすい授業の工夫についてです。今回の事例は学級運営の工夫や学級ルールの一つになるかもしれませんが、理科の授業と日ごろの学級指導は切っても切り離せません。理科の内容だけではなく、日ごろの学級経営、授業指導から理科の授業を見直してみてみましょう。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/神奈川県公立小学校教諭・海老名郁香
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

教育のなかのユニバーサルデザイン

学級の中には、実に多様な実態の子どもがいます。この記事を読んでくださっている方は、「すべての子に合わせて授業を展開することに、難しさを感じることがある。けれど、全員が楽しめる授業をしたい。」という思いをおもちなのではないでしょうか。

ユニバーサルデザイン(以下、UD)という言葉は、元は建築物に対して使われていた用語ですが、現在は教育の分野にも取り入れられ、研究も様々に行われています。日本授業UD学会では、「特別な支援が必要な子を含めて、通常学級におけるすべての子が楽しく学び合い『わかる・できる』ことを目指す授業デザイン」と定義して、「授業UD」を提唱しています。

だれもが「わかる・できる」授業ができれば、理科が、そして日々の学校生活が、より楽しくなっていくはず。今回は、私が日々実践している、理科にまつわる2つのUDキーワードを紹介していきたいと思います。

⑴ キーワード「ルーティン化」

1つ目のキーワードは、「ルーティン化(=習慣化)」です。理科の多くの単元では、導入・問題づくり→予想→実験計画→実験・観察→結果→考察という一連の流れが推奨されます。実は、この問題解決型の学習の流れをルーティンとして一定に進めていくことは、支援が必要な子にとって大きな助けとなります(図1)。内容が異なっていても学習方法が同じであるため、見通しをもつことができ、すべきことが明確になります。

(図1)問題解決の板書のルーティン

また、3年生を担任した際は、下記の写真のように単元の導入部分も、流れをルーティン化しました(図2)。単元で捉える内容についての疑問が引き出せる遊びを行い、そこから問題づくりへつなげるというものです。遊びながらも、その後に控えた問題づくりを意識させることで、自然と疑問を見つけながら導入の活動に取り組むことができます。

(図2)3年生理科の単元導入部分ルーティン

支援が必要で、学習に苦手を感じている子でも、ルーティン化してしまえば、「次は何をするんだろう。」と考える手間が一つ省けます。すると、教師が、本当に子ども達に考えてほしい問題に焦点を絞りやすくなるのです。

⑵ キーワード「視覚化」

2つ目のキーワードは、「視覚化」です。私は、板書に、先ほどのルーティン化した学習の流れを明示しています。授業内で指示したことも、簡潔に板書します。自力でノートに記録することが難しい子には、あらかじめ、板書と同様の流れを記入したプリントを渡して、必要な部分のみ記入できるようにしています。支援が必要な子の中には、聴覚で情報を捉えることが苦手な子も多いでしょう。学習していることを視覚的に整理できる術があると、そうした子の理解も深まります。

黒板やノート以外にも、「視覚化」のキーワードで支援できることは様々にあります。例えば、リトマス試験紙に文字で直接、色彩名を記録します。これは、色覚障害のある子への支援です。障害のない子にも、結果を整理する点で役立ちます。また、多くの学校にある理科室の使い方のルールや、実験の時の約束も、口頭での確認だけでなく、文やイラストを使って掲示します。

「いつも言っているよね」「言わなくてもわかるだろう」という前提で学習を進めず、視覚化する一手間を加えることが、多くの子の学習へのハードルを少しでも取り除くことにつながります。

リトマス試験紙に文字で直接、色彩名を記録します。これは、色覚障害のある子への支援です。

今回、紹介したことは、UDのほんの一部分ですが、明日の授業から取り入れられるキーワードについて紹介しました。この記事が、少しでも多くの子の、「わかる・できる」と実感する理科学習につながるよう願っています。

イラスト/難波孝

「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒につくっていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。

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<執筆者プロフィール>
海老名郁香●えびな・あやか 神奈川県公立小学校教諭。様々な学年を担任しながら、理科を中心に日々実践研究を行う。理科指導のモットーは、「理科嫌いでも楽しい理科を指導できる」。「これからはじめる “GIGA” 全学年・全単元×1人1台端末×活用事例」(日本標準)執筆。


<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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