3年生「分数」「筆算(×2けたのかけ算)」【「算数つまずき防止」ここがポイント!#4】
算数は一つつまずくとその後の学習が進みにくくなる教科ですが、どのような授業づくりをすれば、つまずきを防止できるのでしょうか。今回は3年生「分数」「筆算(×2けたのかけ算)」の内容を弘前大学教育学部附属小学校・齋藤敏一教諭に伺いました。
弘前大学教育学部附属小学校・齋藤敏一教諭
監修/弘前大学教授・中野博之
目次
間違った子供の側に教師が立ってみるのもよい
3年生で子供たちが最もつまずきやすいのは、「分数」だと思います。
子供たちは2年生のときにも分数の学習をしていますが、そのときには、例えばピザを2等分とか4等分にして、「こちらが[MATH]\(\frac{1}{2}\)[/MATH]だよ」「こっちは[MATH]\(\frac{1}{4}\)[/MATH]と言うんだよ」というような学習をしています。いわゆる、分割操作を表す際に使われる数としての学習が主です。
それが3年生になると、量を表す際に使われる数としての分数の学習に入っていきます。それによって例えば、[MATH]\(\frac{1}{3}\)[/MATH]mとか[MATH]\(\frac{1}{4}\)[/MATH]mというように、量を表す分数の学習に入り、分数が使われる範囲が広がってきます。そこで困る子が出てくるのです。
よくある例を挙げてみましょう。例えば、1mの長さを4等分している図があり、もう一方に2mを4等分している図があるとします(資料参照)。どちらの図でも、全体の[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]のところを指し示しており、「それぞれ何メートルですか?」と問うと、「どちらも[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]mです」と答えたりします。実際に授業をしてみると、こういうつまずきが結構多く見られることに気付くはずです。分割操作を表していた、2年生の分数の考え方から離れられていないわけですね。ここで大事なのは、基になる量が何かということなのですが、そういう視点で捉えることが難しいわけです。
では、どのような指導をしていけばよいのかということになりますが、まず事前に具体物を使いながら実感を伴う学習をすることが大切だと思います。
例えば、「1mを3等分します。分けた1こ分の長さは何mと言えばよいでしょうか?」という問題があるとします。そのときに、1mを3等分したものの1こ分([MATH]\(\frac{1}{3}\)[/MATH]m)を、実際に紙テープのような具体物を使って作ってみるのです。それは[MATH]\(\frac{1}{3}\)[/MATH]mだけでなく、3等分したものの2こ分([MATH]\(\frac{2}{3}\)[/MATH]m)だったり、4等分したものの3こ分([MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]m)だったりと、いろいろと紙テープを使って作っていくわけです。そうした学習を通し、基になるものを等分することや量感を育むことなどが後々の学習に生きてきます。
もちろん、事前にそのような学習をしていても、1mの[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]と、2mの[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]とを問う問題で、「どちらも[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]メートルです」と答える子供は必ず出てくるでしょう。そのときにはまず、「どうして、[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]メートルだと思ったの?」と尋ね、そう考えた理由を聞きたいところです。そこで子供の間違った考えを聞いても、教師がその場で訂正したり反証したりするのではなく、「確かに、どっちも4等分したものの3つだものね」と、間違った子供たちの側に立ってみるのもよい方法だと思います。
そうすると、必ず反対意見の子供たちの中から、「こっちは基の長さ1mを4等分していて、こっちは2mを4等分しているじゃない」と、基の長さに着目した意見が出てくるはずです。それを価値付けて、「ああ、そうだよね! 前に勉強したね」と評価していくのです。そうした子供たちの意見を聞いて、間違っていた子供たちからも「あっ、そうか」という声が聞こえてくるでしょう。そのように、教師の大人目線の論理的な説明ではなく、ほかの子供たちの言葉で納得できるようにしていくのが、どの子供にとっても理解を深めるうえで効果的だと思います。その学習過程で、子供たちから事前の学習をふまえて、「前、[MATH]\(\frac{3}{4}\)[/MATH]mを作ったとき、1mよりも短かったよ」というように、体験に基づいた発言ができればよいなと思います。
さらに、学習を深めていくためには、式だけでなく数直線やテープ図、(さらにほかの単元では)表やグラフなども併記しながら、言葉と式や図、表やグラフなどを行き来しながら学習していくことが大切です。
単元を点として見るのではなく線としてつなげる指導が大切
また3年生の学習では、筆算のかけ算で、かける数が2桁になると子供たちにとって難しさがぐっと上がってきます。それは、1桁をかけるときよりも計算量が増えることが大きな要因だろうと思います。
そうした難しさを解消するために、私も若い頃には計算の手順をしっかり教えようとしていました。しかし、筆算(かけ算)は、かけ算の分配法則を利用しており、かける数、かけられる数を分けてかけてからたしても積は同じだという性質を利用したものですよね。それは、実は2年生の九九のときにも学習していることです。ですから、計算の手順の指導に目を奪われるのではなく、既習をしっかり生かしてつなげていくことが大切ですし、それがより深い意味理解につながっていくのだと思います。
実際、3年生の4月の学習にも、「12×4の答えを求めましょう」という2桁×1桁のかけ算の問題があります。ここで10の位と1の位を分けて、それぞれをかけた後にたしても積は同じだということを意識付けて学習を始めることがとても大切です。また、×2桁の筆算を学習する前にも、筆算を使わず、図や物を用いながら、かける数を分けて計算をして積を出すことも学習しています。こういう学習がつながっているんだ、ということが意識されるようにしておけば、計算の手順を教え込むようなことに長い時間を割かなくても、もっとスムーズに習得できるはずなのです。
私自身、若い頃には一つ一つの単元が点であったものが、経験を積むに連れて、次第に先のような線になって見えるようになってきました。それを意識して授業を行うことが、子供たちのより深い意味理解につながりますし、そのほうがより確かな学習の定着につながっていくのだと思います。
4年生「筆算(2けたでわるわり算)」「計算のきまり(順序)」「角の大きさ」【「算数つまずき防止」ここがポイント!#5】はこちらです。
取材/矢ノ浦勝之