【小六道徳】「ここを走れば」授業展開と板書
「考え、議論する道徳」を実践するために、板書に力を入れているのが愛知県西尾市立横須賀小学校。この小学校で行われた小六の道徳「ここを走れば」の授業展開と板書の工夫を紹介します。
授業者/愛知県公立小学校教諭・伴恭子
目次
授業指導案より(一部抜粋)
1.主 名
どうして法やきまりは守らなくてはいけないの【規則の尊重 C-12】
2.教材名
ここを走れば(『きみがいちばんひかるとき』光村図書)
3.ねらい
一人ひとりが法やきまりを守ることは、自他の権利を尊重することになり、個人や集団が安全かつ安心して生活できる社会につながることを理解し、日頃から進んで法やきまりを守ろうとする心情を育てる。
4.道徳的価値
社会や集団の中で生きていく以上、集団の一員として法やきまりを進んで守ろうと考えることが大切である。高学年の子どもは一般的な約束やきまりについては理解し、きまりを守る必要性についても十分理解している。しかし、日々の生活の中で権利や義務といった視点から自他の行動について考えたり、社会の法やきまりの意義について考えたりする機会は少ない。誰もが安全安心な社会を築くためには、個人の都合を優先したり、自分の権利ばかりを主張したりしていてはいけない。集団や社会のために自分が果たすべき義務を考え、互いの権利を尊重しなくてはならないことに気づくことで、社会をつくる一員として進んで法やきまりを守ろうとする心情につながると考える。
5.児童について
本学級の児童は素直な子供が多く、学校や学級のきまりは守るべきものとして理解している。修学旅行に向けて、自分がきまりを守るのはもちろん、廊下を走る人に声をかけて全体の意識を高めていこうとするなど、いつでも誰でもきまりを守れる集団になろうという考えをもつ子供が多い。中には、「たくさんの人がくる京都で、僕たちがきまりをやぶってしまったら迷惑になるから」という考えをもっている子供もいる。このように、一人ひとりがきまりを守ることで誰もが安心して暮らせるという法やきまりの意義や必要性について深く考えることのできる子供がますます増えることを願って、この主題を設定した。
今までの子供たちの実態把握と共に修学旅行という大きな行事を念頭に置いた教材選びで、「自分との関わり」で考えるきっかけに! (伴先生)
授業前の板書計画とノート
今回の教材は、前半で登場人物の性格や考えを確認することで、ねらいに近づきやすくなると考えました。板書計画だけではなく、発問に対して出るであろう子供たちの意見などもノートに書いて予想しておくことで授業がすすめやすくなります。 (伴先生)
板書のポイント
【1】教材の確認はめあてに合わせて情報をセレクト
この教材は、お父さんとおじいちゃんをはじめとした家族の関係性や、おじいちゃんの性格がポイントになります。そのため、「厳しい」「人に迷惑をかけることを嫌う」など、おじいちゃんの性格や、おじいちゃんとの思い出をセンテンスカードで用意しました。
【2】前半は子供達の意見を聞きながらテンポよく進める
中心発問から後に時間を取りたいため、前半は子供たちの意見をどんどん聞きながら板書に残していきます。後から変わる意見もあるので、スペースがなくなっても消しません。ネームカードを貼ることで、子供たちの参加意欲もアップします。
実例Point!
(黒板の中央「実例Point!」部分)
思考を整理するためにYチャートを活用
路側帯を走らないお父さんに対して、「ぼく」の気持ちは大体3分類に分かれると予想していたので、Yチャートを利用しました。(上)少しくらい走ってもいいよね。(下右)とにかくおじいちゃんが心配。(下左)お父さんへの怒り、歯がゆさ。
【3】中心発問で出た二つの意見は色で分類
この授業の中心発問では、お父さんの涙に対して二つの意見が出ると予想していたので、涙のツールを用意して、意見を二つに分けました。
授業展開
子供たちが話し合う上での留意点
事前にキャラクターやストーリを押さえておくことで、子供たちの考えが整理されます。(例)「おじいちゃんが人に迷惑をかけることを嫌っていた」ことを導入で押さえておきました(=お父さんは後悔していないと、子供たちが思える)。違う意見が出ても、教師は否定しません。違う意見を言いたい子を抑えず、他の子の意見を確認したり、あらすじや登場人物の心情を確認しながら、子供達の納得性があるように進行します。
導入(10分)
・教材は、事前に読んで理解させておく。
・まず、感想を発表させる。
・教材の内容を把握するために、「法律ってなに?」という質問から法律の意味を理解させる。
・クラス全体に「誰が出てくる?」「どんな人」と質問し、席に座ったままどんどん発表させ、自由に出た声を板書にキーワードとして書く。導入で自由に意見を言わせることが子供たちのウォーミングアップになり、時間短縮にもつながる。
展開(28分)
中心発問への流れ
「ぼくの気持ち」に自我関与して考えさせるために「走りたい気持ちになる?」と子供たちに問いかける。ポイントは「走る?」と聞いてしまうと、高学年は善悪を理解しているために、「走らない」と答えることを予想し、「気持ち」を問う。
中心発問
お父さんの涙を見て、「ぼく」がハッと気づいたことを考えさせる。「おじいさんが死んでしまったことの悲しさ」「きまりを守ったことは、後悔していない」という両方の意見をもとに、めあてへの切り込み発問をする。
終末(10分)自己を見つめるためにノートで考えを整理
授業内で考えたことを、もう一度自分の言葉で考え自覚できるよう、ノートに感想を書かせる。ノートに書いたふり返りは、時間内で数人の子に発表してもらう。
道徳授業、ココが面白い!
前半で「法やきまりを守らなくてはいけないか?」とたずねたときは、「事故」や「迷惑」と言った意見が多かったものの、授業の最後にたずねたときは「みんなが安全に暮らす」「平等」と言った、社会を意識した返答が多く見られ、子供達の深まりを感じました。
子供たちのノートより
議論するためには、自分なりの考えをもっていることが不可欠なため、考えを整理する場として重視しています。また、本時の学びを深めたり、自分の心と向き合うための場として、ふり返りでのノートも大切にしています。
授業を終えて・・・
この教材は、子供たちみんなに「走りたい」と思わせることがポイントだと思います。「ルールだから、守らなくてはいけない」ことは高学年の子供たちは分かるはず。でも、「走りたい」ぼくの気持ちと、「走らない」お父さんの思いの対比や、お父さんの涙の意味を子供たちがしっかり考えることができるよう、前半の「ぼく」にしっかり共感させながら進めています。
指導者からのワンポイントアドバイス
畿央大学教育学部教授・島恒生先生
道徳授業は、教材の話で終わってしまうと、登場人物の心情理解に偏る授業になります。この授業は、ここをしっかりと意識し、ねらいに迫ります。それを可能にしているのが、めあての設定と板書の工夫です。導入でのめあてと終末での子どもたちによるまとめを黒板の両側に配置し、その間に、教材を通して法やきまりの意義についてみんなで考え合う板書があります。子どもたちは、法やきまりの意義を、授業の最初は事故が起こることや混乱が起こるといった現象で捉えていたのが、授業の終末には「集団」や「社会」の視点で捉えています。めあてや板書を工夫することで、「深い学び」を実現することができた実践であると言えるでしょう。
愛知県西尾市立横須賀小学校 1908年に開校。全校生徒数437名。道徳教育の充実を通して夢に向かって前向きな生き方を創造し続ける子供の育成に力を注いでいる。
『教育技術 小五小六』2019年9月号より