「この授業で絶対にやるべきことはこれ」と一言で言えるでしょうか?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話⑯】
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「この授業は…」と一言で言えると授業が変わる
この記事を読んでくださっている先生方は、「この授業で、絶対にやるべきことはこれ」と、一言で言えるでしょうか? それがあるかどうかで、授業の質は大きく変わると思うのです。今回は、そんなことを考えるために、ある授業について、お話をしてみたいと思います。
とてもていねいに進められた国語の授業
それは、ある先生の低学年の国語の授業を拝見したときのことでした。
その授業は、物語を読んで、場面の様子や登場人物の様子を読み取り、それを出し合っていくことが中心となるものでした。
その授業の冒頭、先生は、前時の学習を簡単に振り返った後、その日、学習する物語の場面を子供たちと読んでいきます。最初は全員で音読し、次は先生と子供たちで交互に1文ずつ読み…と、読み方を変えながら、3度、音読をしていきます。
子供たちの中には音読があまり得意でない子もいるので、その先生はしっかり音読させようと考えたのでしょう。先生が1文読み終えると、「はい」と子供たちに声をかけ、声を合わせて読ませるようにするなど、時間をかけて繰り返し読んでいったのです。
読み終わった後、ざっと物語の流れを確認してから、登場人物の行動について、分かる場面を読み取って発表するという学習課題を示し、子供たちに各自読み取らせていきます。
そこにも、しっかり時間をとった後、子供たちに挙手を求め、意見を発表させていきます。子供たちは時間をかけてじっくり読み取り、書き出していますから、どの子も発表したくてたまらず、元気よく挙手をしています。その子たちを指名し、発表させていくのですが、場面が長いため、非常に多くの意見が出てきます。しかし、音読や読み取りに時間を取り過ぎてしまったため、発表したい子供たちもまだ多くいる中、授業の終了時間が近づいてきます。すると、その先生は時間がきたからと言って、発表の手を止めさせ、簡単に振り返りをした後、授業を終えたのでした。
音読は大事なのは当然ですが…
授業後、その先生と少しだけお話をする機会があったので、「本当にしっかり読んで発表している子供たちがたくさんいましたね」と声をかけると、笑顔で応えてくださいます。そこで、「それだけに、まだ発表したい子たちがたくさんいる中で、授業が終わりになったのは少し残念でしたね。もしかしたら、音読の部分をもっと短くすれば、発表の時間が取れたかもしれませんね」と話すと、その先生が、「そんなことはありません。音読は大事ですから」と答えられたのです。
もちろん、私も音読は大事だと思っています。特に、低学年であればなおさら、きちんと音読できることが読むための大事な基盤となるでしょう。
しかし、その日の授業は、現行学習指導要領で言えば、「場面の様子に着目して、登場人物の行動を具体的に想像すること」を中心としたものだと思います。だとすれば、その学習にとる時間が不十分だったわけですから、他にどの部分を削ることができたかと言えば、やはり音読の時間を削ることではなかったかと言いたかったわけです。さらに言えば、十分に考えを出し合い、対話もしていない中で、果たして振り返りは必要だったのかということも言えるでしょう。
残念ながら、その意図は伝わらないのだなと思ったので、私は「そうですか」とお話を受けとり、その場を失礼したのでした。
子供の実態に応じてプランを変えるために
日々、授業をしていれば、子供たちの反応が予想と違って、予定以上に時間がかかってしまうことはよくあることだと思います。超ベテランで、何度も素晴らしい授業を見せてくださった先生でも、そんなことはしばしばあると言われます。
そんなときに、優秀な先生は、何を削って、何を残すのかを随時、考え、判断し、プランを変更していくのだと思います。それができるのは、「この日の、この授業ですべき最重要事項は何か」を、シンプルに言えるからでしょう。「これだけは、絶対にこの時間にすべきなのだ」と思えるなら、他のことは短縮したり、割愛したりすることができるはずでしょう?
さて、果たして、これを読んでくださった先生方は、日々の授業の中で、「この時間はこれ」と言えるでしょうか? まず、1つの教科だけに絞ってでも、それができるようになると、授業づくりはとても洗練されてくるのではないかと思います。
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執筆/矢ノ浦勝之